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その3 「代表的なところでは、釣りのエサ、あとは漢方薬ですね」 「それ、最後の“み”の付くアレだろ?」 「はい」 「え、触っても、きみ、平気なの?」 「はい!」 「やっぱ、勇者だわ~」

「さて、着きました。ここですね」

 森の中、勇者少女に連れられてたどり着くと、そこには小さな泉が湧いていた。

 すぐさま泉へと駆け寄り、水面に映った自分の姿を確認した、その――“少年”が、絶叫を上げた。

「うあああ! まぢだ! まぢで子供だあああ!」

「ええ、子供ですね。まごうことなき、お子様ですね」

「ウソだろー? なんでだー? どゆことー?」

「さぁ? 私が知るワケないでしょう」

「ええええ……ッ!」

 しょうねんは おもった!

 ……ちょ、ヤダ、なんか、この勇者、冷たくな~い……?

 だが、眠たげな目をした少女は淡々と告げる。

「私にわかるのは、ここが回復の泉だということだけです」

「か、かいふくのいずみ……?」

「ええ。ここは、聖なるチカラで護られた水が湧き、出来た泉。その水は、あらゆる病に効くらしく、ゆえに回復の泉と呼ばれているようです」

 言いながら、少女も泉に近づき、その澄んだ水で喉を潤す。

「ほかにも、薬や、武器、防具、魔法具などの素材にも使われるそうです」

「あ、あぁ、そぉなんだ……」

 まぁ、今の自分にはどうでもいいことだ、と少年は思っていた。

「そして私の使命は、この水を汲んで村に持ち帰ることなのです」

 少女は、小瓶を取り出し、泉の水で満たしていく。

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

「これで良いでしょう。せっかくなので、もう少し――」

 と、さらにいくつか小瓶を取り出し、集めていく。

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

 ゆうしゃは いずみのみずを てにいれた!

「ちょいちょいちょいちょーい! どんだけ持ってくのーッ?」

 が、少女は無表情のまま、淡々と作業を進める。

「はい? それはやはり、持てるだけ持って行くに決まっているでしょう。あ、ついでにこちらも――」

 ゆうしゃは いずみのみみずを てにいれた!

「それ、なんか違うからぁーッ!」

「……ふぅ、これくらいで良いでしょう」

「いいのかよッ! てか、すごいな荷物の量!」

 あの荷物袋、一体、どんな仕組みになってんだ……?

 しかし それは だれにも わからない!

 ――いやいやいや、ていうか、そんなことよりも!

 “少年”は、いまだ水面と、にらめっこの真っ最中だった。

 しょうねんは おもった!

 ……うええぇ、気持ち悪いよぉぉ……、なんだ、これ? まぢで誰だよ、このガキんちょはッ? ……でも、元の顔すら思い出せないし……。てか、元の顔って……? …………だめだ……ッ!

「うん? どぉしましたか?」

 少女は、彼の歪んだ横顔を見つめた。

「自分のこと……、お、思い出そうと、すると……、頭痛が、するんだよ……」

「あら、それはいけませんね。どうすれば良いのでしょう?」

「なにか、きっかけがあれば、少しずつ、思い出せるかもしれない……!」

「きっかけ?」

「ああ、うん。なんでだかわからないけど、子供だって言われたときに、そうじゃない! っていうことだけは、はっきり自覚出来たんだ」

 それは、不思議な感覚。やはり、何度見ても、水面では、「知らない子供の顔をした自分」が、喋っている。戸惑い、ついに少年は声を荒げてしまった。

「こんな……、子供なんかじゃなかったはずだッ!」

 それに動じることなく、少女は静かに返した。

「今の自分は別人、子供の姿を借りているだけだ、と?」

「ああ、たぶん……それに」

 ちらり、と、少女を見た。

「? どうしました?」

 淡々として眠たげな目をした黒短髪の少女、――勇者という言葉、いや、その存在が、すごく気になるのは、何故だろう……。

 それは、暖かで、懐かしい、とてもとても、大切な約束だったような――。

 と、

「わかりました。きっかけ……、きっかけですね……それならば」

 不意に少女は少年の背後に回った。

「え……? な、なにを……?」

「――せいッ!」

「ぉわっ!」

 少年はいきなり背を押され、泉に落とされた。思いっ切り頭から水の中へ突っ込み、勢いよく飛沫が上がる!

「ちょ、まッ、うおおおーいッ! なにすんだよーぉッ!」

「ここは回復の泉です! あらゆる病に効くといいます!」

「それッ、さっきッ、聞いたしッ!」

「どうですかー? なにか思い出しましたかー?」

「お、お、お、……思い出したぁッ!」

「おおっ! やりましたねっ!」

「泳げねぇえええッ!」

「あら、まぁ、なんて古典的」


 つづく!

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