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その2 「名乗るほどではありません。ただ、人は皆、私のことを、――ねぇ、起きてる? 眠いの? 大丈夫? と呼びますが」 「伏し目がちって大変だねぇ~」

「あぶないので、さがっていてください」


 淡々と、その少女が告げた。

 そして――、

 ゆうしゃの こうげき!

 少女は軽々と飛び掛かり、狙いを定めた一体の胸に細身の剣を突き刺す。ぎゃぉう! と、不快な悲鳴を上げ、その怪物は崩れ落ちる。残りの一体が舞い上がり、鉤爪を広げ襲い掛かかってくる。だが、少女はそれをひらりとかわす。怪物が振り返る前に、その背を剣で切りつけた。

 かいしんの いちげき!

 モンスターを やっつけた!

「…………」

 彼は、その一部始終を、ただ見ているしかなかった。

 彼女の、黒い短髪、凛とした横顔、剣を構えた細い腕――、その少女の姿を。

 自分の背丈ほどある怪物に、微塵の物怖じもせず、悠然と立ち向かうその様に、一見、美少年と言われても、誰も疑いはしないのかもしれない。

 だが、その姿に似合わないほどの可愛らしい声色や、主に胸の微かな膨らみから、それを少女と断定させたのだった。

「……これが、ゆうしゃ……。 だけど、こんな、少女、が……?」

 かれは おもった。

 でも、何故だろう、勇者という言葉……、何かを思い出せそうなのだが、そうすると鈍い頭痛がして、上手くいかない。


「――それで?」

 ややあってから、少女がこちらを向き直した。

「えっ、あ……はいっ?」

 彼は慌てて返事をした。

「なぜ、こんなとこにいるのです?」

 抑揚のない淡々とした口調だ。

「え、いや、はぁ、まぁ、なんと言うか、こう……」

「こんなところで何をしていたのですか、あなたは?」

 眠たげで伏し目がち。たぶん、もともとそういう目つきなのだろう、視線は真っ直ぐだったから。

 だが、その全てを見透かしているような目に、彼は耐えられなかった。

「いや……、いやだからね、うん、それは自分にも分からないというか……」

 彼は上手く答えられない。なぜなら、何も覚えていないからだ。

 自分が、いつから、なんのために、どうして、こんな深い森の中にいるのか? そもそも、自分が何者なのかさえ、彼には分からないのだ。

 少女が言った。

「いいですか? ここは通称・死の森、または迷いの森」

「うぇぇ、やっぱりヤバい所だったのかよ……」

 かれは おもった!

 ……おいおいおいおい、まぢかよぉ。まぁ、見るからに怪しいもんなぁ、この森。なんか薄暗くて、不気味だし。

「もしくは彫〇の森、はたまた三〇の森」

「ん? ……ちょっ、違くないか? それ」

 ……なんかメルヘンちっくなもん、混ざってるんですけど、ていうか、施設名じゃねッ?

「さらに、ここは危険なモンスターたちが何種類も住まう、すなわち――、ど〇〇つの森なのですよ?」

「ちょいちょいちょいちょーい!」

「は? なんですか?」

「さっきから伏字入ってるから、それとかぁ! ここで、言っちゃダメぇ!」

 すると彼女は、小首を傾げた。

「……変ですね。すべてここの付近の村で得た情報なのですが」

「どんな情報網だよ! 絶対、間違ってるよ、森って付く有名そうな言葉並べただけじゃんか! って、……ん?」

 そこで、ふと、彼はあることに気付いた。

「てゆうか、村? 村があるのか?」

「ええ、そのようですね。……どうやら、村民の支持を集められたら施設を増やしたり独自のルールを作ったりして自分だけの村づくりをしながら他者と交流も出来てとても楽しいみたいですね」

「だから、それ、ど〇〇つの森だからぁ!」

 ……その情報、言ったヤツ誰だ? つれて来いやッ!

「ちなみに私はプレイしたことないので、実はよくわかりません」

「プレイっつっちゃったよぉッ!」

「冗談です。村の住民が遊んでいた話を聞いただけです」

「もう、ややこしいなぁ、おい!」

「とにかく」と、いまだに顔色ひとつ変えず、淡々としたこの少女だった。彼女は続ける。

「ここにいては危険なのです」

 それには彼も納得のようだった。

「ああ、そうみたいだな。とりあえず、その村ってのに行くしかないのか」

「そうですね。ましてや、あなたのような子供が来るような場所ではありませんね、ここは」

「え、なんだって?」

「はい? だから、ここは危険な場所なのですってば」

「いや、そうではなくて、その前に……、なんて言った? こ、子供が、どうのとか……?」

 ……ま、まさか……。

「? あなたのことですが……? その見た目で、子供でなくて、なんと言えばいいのでしょう?」


 まぢかよ……ッ?


 つづく!

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