その12 剣と少年と、そして。
「――あなたは魔王なんかじゃありません。だから私は、マオ、と呼びます――」
そういえば。
少年が何度言っても、少女が認めなかったように。
「――貴様は勇者なのだろ――?」
「――いいえ、私は勇者ではありません。まわりが勝手に私をそう呼ぶ、それだけです――」
もしも……、互いに認め合えば、違う未来があったというのか……?
静寂。
一体どれくらい経ったんだろう?
いつの間に、眠ってしまったんだろう?
少年は目を覚ます。
のろのろと起き上がり、辺りを見渡した。
そこには、“誰も”いなかった。
ややあってから、少年は獅子型モンスターの亡骸に近寄った。
その巨体によじ登り、胸部に突き刺さった剣に手を伸ばす。
しょうねんは おもった。
……急所を一撃! って、やつか……? ……すごいよな、まったく……。
化け物の瞳は開かれたままだ。今にも動き出しそうだった。
最期まで暴れ回って、勇者に一矢報いた、その執念と凶暴さ。
だが、なによりも。
それさえも倒した、あの勇者少女。
彼女の剣が、怪物だったモノの胸に深々と打ち込まれている。
ぐっと力を入れて、少年は一気に引き抜こうとする……、が、
「んぐぎぎぎぎぎぎ……ッ!」
だが、そう簡単には、いかないようだった。
筋肉か骨か、喰い込んでいて、なかなか抜けそうにない。臓器がマヒして固まってしまったのであろうか。
剣はびくともしない。
もしかしたら、もう二度とこのモンスターが蘇らぬよう、勇者の封印の意が込められているのかもしれない。
だけど、この剣だ。
この剣なんだ。
ここには、この剣だけが、残されていたのだから。
何としてでも、余が、いや、――“ぼく”が、受け継がねば……!
「ぬぎぃ~~~~~~ッ!」
柄を左右に振るように、渾身の力を込める。
抉り出すように、抜くべし! 抜くべし! 抜・く・べ・し……ぃッ!
…………と、
「や……っ、やったああああーーーーーーーッ!」
少年は思わず歓喜の声を上げた。
じゃきぃぃぃんッ! っと、キモチイイ共鳴が残った。
ついに剣は引き抜かれ、受け継がれたのだ。
しょうねんは ゆうしゃのつるぎを てにいれた!
その瞬間、
「――ッ?」
モンスターの なきがらが かわっていく!
化け物の巨大な亡骸が、粒子に変わって辺りに散っていく……。
「こ、これは……、一体……、どゆこと……?」
今までそこにあったはずの巨体がすべて、風に舞う砂塵のように崩れ去り、少年は地面に膝を着く。
舞い上がった粒子は、きらきらと輝きを放ち、いくつかの光だけを残し、消えていく。
それは、小指の先ほどの大きさの光たちで、一点に集中し始める。
一際まばゆい光を放ち、ぎゅ~~~っと、凝縮。手のひらサイズにまで膨らみ、やがてひとつの光球が出来上がった。
そいつはしばらく、辺りをふわふわと漂って……、少年の片手の上に、舞い降りる。
それは……、“とある姿”に……、変わっていき……、
「ハぁ~イ! ボク、ピクシー! 仲良くしてねッ!」
「…………………………」
…………ああ、うん、いや、えー……っと。
なんだろな、これ、この感覚。
ひどく懐かしいような、そうでもないよーな、とにかく、なんつーの、こう……、愛らしい姿を、してはいるのだが……、
「はいはいはーい! ここから先はぁ、ボクにおまかせ~! きっちりばっちりたのしくやさしくサポートしちゃうよぉ~ん、てへっ! さぁみんな! 準備は、おk~ぃ?」
……わざとらしく鼻にかけた声色、ガチャガチャと目につく色合い服、なにより手のひらサイズでぶんぶんぶんぶんと(パタパタ、なんて生易しいもんではない)、飛び回っているのが、よけいに目障りだった。
しょうねんは おもった!
…………あ、わかった、ウザい、だ。うん。なにコイツ、ちょーうぜぇ。
「…………あ、わかった、ウザい、だ。うん。なにコイツ、ちょーうぜぇ」
「ちょいちょいちょいちょーい! 思考が声に出ちゃってるよ~ぉ、きみぃ~ッ?」
驚愕した奇妙な小物体。ていうか、勝手にヒトの心を読むな!
少年はそいつにジト目を向けた。
「おい、なにもんだ、お前?」
「ん? 言ったっしょ? ボク、ピクシーだよ!」
「ぴく……しぃ……、だと?」
そいつは、手のひらサイズで、羽根を生やして、虹色のワンピースを着て、耳が尖っていて、ふわふわきんいろ盛り髪で、見た目の通りを言葉にすると……、
「つまり、あれか? なんつーの、こう……、妖精?」
「そそそそそ! ボク、ようせいさんだよ! よろしくネっ!」
目の前で浮かぶその小物体がピースサインでドヤ顔を決めた。
つづく!




