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その11 勇者少女と少年魔王4

「あなただけでも、………………逃げて……ください……!」

「ば……っ、バカタレぇ……っ、えぇぇぇん……ッ!」


 二人はすでに瀕死だった。

 それぞれ身体と心が、だ。

 しょうねんは おもった!

 ……そんな真似、出来るワケがないだろうに……ッ!


 それは、いきなりの不意打ちだった。

 まさか上から落ちてくるとは思わなかった。

 如何にも……ッ! というような、恐ろしげな雰囲気の漂う大広間にたどり着いたとき、しかして中は、もぬけの殻だった。そのまま二人が部屋の中央に立ち入ったとき、突然そいつが頭上から降って来たのだ。

 その衝撃で少年は後頭部から背にかけて傷を負った。

 それが敵の攻撃だったのか、崩れた外壁のせいなのか、そんなことはもはやどうでもよかった。

 …………夢でも、見ていたというのか……?

 勇者少女による回復の呪文で、少年は辛うじて意識を取り戻していた。

 洞窟に侵入してからの会話は、なんとなく思い出した。

 だが、悠長にはしていられないようだ。

 獅子姿の巨大な怪物が、広間の中央で暴れ回っている。めちゃくちゃに踊っているようにも見えた。

 少年と少女は、壁面を背にして互いを支え合い、それの様子をうかがった。

「やはり、経験が、足りないようです、今の私では……」

 少女の声は途切れ途切れだ。

 ……ああ、なんたることか、……余のせいだ、これは。

 やはり然るべき道順は、それをズルして飛び越えては、いけなかったのだ……ッ!

「ですが、どうにか、奴の視界を、塞ぎました、今のうちに……」

 怪物が闇雲に腕を振り回し、突進を繰り返したりしているだけなのは、そういう事であった。

 しかし、あんなに獰猛な化け物にさえ一撃を入れた、しかも顔面を、正確に両目だけを狙ったなんて、さすが勇者というべきか。

「はやく、逃げて……、あなただけでも、逃げなさい……!」

 少年を立ち上がらせ、出入り口へと誘うが、その右腕は血で赤く染まり、上げようとする度に、少女は苦痛の表情を見せた。

 向こうで獣が、獰猛な唸り声を上げている。

 少年は再び思った。

 ――どうして、こうなった?

 せめぎ合う心。魔王であったことの自覚と、子供の身体であるがゆえの言動。余が本当に魔王ならば、その支配下の魔物など、いくらでも自由に出来るはずだ。だが、あれは余の知る魔物ではない。あれは怪物そのものだ。あんなものに立ち向かうなど、正気の沙汰ではない。震えが止まらない。ホントは今すぐ逃げ出してしまいたい。ああ、そうか、これは。これが……、恐怖、なのか。

 しかし、余は、余は、余は……ッ!

「ひ……っ、うぅぅ余は……、ひぐっ余はひぅっ……、魔王なんだもん! きっ、貴様をひっく、うぅぅ……置いて逃げたりしないもぉん……ッ!」


「ありがとう、マオ」


「ぅえ……?」

「あなたは魔王なんかじゃありません。だから私は、マオ、と呼びます。これからあなたは、マオです。わかりましたか……?」

 ぐしゃぐしゃになった小さな顔が、不器用な優しさを、捉えていた。

「え……っ? ゆうしゃよ……、ではっ……きっ、貴様の、なまえは……?」

「名乗るほどでは……、いえ、私は……。私の名前は、フィーア」

「ふぃー……あ?」

 勇者フィーア。それが少女の名前であった。

 と、同時。

 影だ。

 泣きはらした目で、少年はそれを見た。

 影で辺りは闇に染まった。

 巨体が居た。丸太腕を振り下ろそうとしていた。

「いけませんッ、マオ……っ!」

 少女が叫び、少年を突き飛ばす。きゃんッ、と仔犬のような声を上げ、少年は尻餅を付いて離れた。

 巨大な腕が少女の横っ面を引っ叩いた。

 耐えた。

 少女は持ち堪えていた。

 そして――、

「ぅおおおおお……ッ!」

 少女は咆哮を上げ巨体の胸に飛び込んだ!

 ゆうしゃの こうげき!

 かいしんの いちげき!

 やった!

 ゆうしゃは モンスターを たおした! 

 しかし!

 モンスターは さいごのちからを ふりしぼった!

 なんと!

 モンスターは ゆうしゃを しめあげた!

 つうこんの いちげき!

 ゆうしゃに ちめいてき ダメージ!


 ゆうしゃは しんでしまった!


 それは、一瞬の出来事だった。

 少年だけが一部始終を見届けていた。

「………………………………うそ……、でしょ……?」

 獅子型モンスターの巨体が、そこには転がっていて、胸部には少女の剣が深々と突き刺さっていた。

 巨体が倒れるときの反動で投げ出されたのか、少し離れた所に、それは横たわっていた。

 少年は、駆け寄った。

「起きて……、ひっ、起きてよぉ……、ねぇってばぁ……うぅぅッ……うそだよねぇ?」

 嗚咽。

 まだ温かくて、柔らかくて、

 でも……、


「フィーアぁ……、フィーアぁぁ……うわあああああああああああん……ッ!」


 へんじがない ただのしかばねのようだ……。



 つづく……。

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