琵琶湖のビッシー、エイプリルフールに出現す
ぶん投げてます。起承転結でいう起しかない。大変注意。
それでもエイプリルフールになにかそれっぽいのを投稿したかったのだっ……と作者は供述しており……。
それは、ニュースでも見るかと朝食中に何気なくテレビをつけたときのことだった。
「おはようございます、4月1日の朝のニュースです。――昨日の四時一分、琵琶湖上に出現した水竜”ビッシー三号”がちょうど先程、無事討伐されました。ビッシー三号の脅威度評定は9.1、観測史上四番目となる強力なビッシーでしたが、A+ランク冒険者、斉藤真奈さんをリーダーとした合同討伐部隊の奮闘と、周囲の封鎖にあたった帝国陸軍第四結界部隊の速やかな展開により、特に大きな被害を出すことなく事態の解決をみた模様です。現地に飯田記者がおりますので、飯田記者どうぞ」
「…………ん?」
こんがりと薄く焼いた食パンにバターを塗りつけようとしていた僕は思わず手を止めて、顔をゆっくりとテレビに向けた。
水竜? ビッシー? ……冒険者? 耳がおかしくなったのだろうか。
自分の耳を疑いながらテレビの画面を見る。
するとちょうど見慣れたN○Kのアナウンサーから現地……琵琶湖? の映像に切り替わるところだった。というかテロップに琵琶湖って出てるから琵琶湖だ。
……なんか記者さんの後ろに、ラプ○スが凶悪になったみたいな面をした、実物大のどでかい生物がグッタリしている。
??? 僕は目が点になった。すげえ生々しいセットだなおい。
「現地の飯田です。御覧ください! 私の後ろを! 討伐され、ちょうど息の根を止められたばかりのビッシー三号と、それに、それに、今回の討伐を見事成し遂げた冒険者チームの方々がおられます! では、さっそくお話を伺いに行きたいと思います!」
なんだか滅茶苦茶テンションが上がっている感じの若い女の記者がキャピキャピと騒いでいる。
言われてみれば、血まみれのラ○ラスの側にやりきった感を出している若い男女が五、六人ほど佇んでいた。べっとりと血糊に濡れた剣やら斧やらの迫力がすごい。
え? これ、実写? いや、そんな訳ないよな……。僕はあまりに良くできたCGに多分混乱しているんだ。きっとそのはず。
そして飯田記者が時代錯誤な猟奇殺人鬼みたいなヤバげな奴らになんら躊躇することなく近づいて、何やら問いかけている。それを眺めながら、僕は落ち着くためにコーヒーを一口含んだ。――そして吹き出した。
「まずは討伐隊のリーダーである斉藤真奈さま……さん、からお話を伺っていきたいと思います!
――では斉藤真奈さん、討伐おめでとうございます! そして、お疲れ様です! 激戦を終えたばかりでお休みになりたいところだとは思いますが、ぜひとも戦闘後の今の心境などコメントをいただけないでしょうか!」
「あはは、ありがとうございます。えっと、そうですね。今はもう、ただただほっとしているといったところでしょうか。大きな被害が出る前に事を済ませることができて、本当に良かったです」
――え、真奈じゃん!?!!? 僕の二十年来の幼馴染の!!??
いろいろとグロテスクな映像が衝撃的すぎて、今気づいたわ。いや、血に塗れすぎてて気付かなかったというべきだろうか。
つうか……なんで君はそんなところにいるの!!?? 片方のほっぺたにべちょっと付いた赤い線がこわすぎるんですけど。その癖、いつもと同じほんわかとした笑みを浮かべているのが意味がわからなすぎる。
え? え? なんだこれ。僕は今、かつてなく説明を求めている。
テレビの画面に映る、長大な日本刀を腰に下げて優美な着物を着た真奈にしかみえない危険人物は、さらに柔らかい声でコメントを続ける。
「直接的なサポートをしてくださった軍の方々や地元自治体の皆さんはもちろんとして、結界の外から私たちを様々な形で応援し励まして下さった皆さん。チームリーダーとして、本当にありがとうと言わせてください。
史上四番目、明治以降二番目という極めて強力なビッシーでありながら人的被害がここまでなかったのは、私たちの力以上に皆さんのおかげだと、私は思っています。本当に、ありがとうございます。
――これは、私たち皆の勝利です!」
「は、はわわ。はわわ。ぐすっ、ま、真奈さまにそんなことを言っていただけるなんて感激ですっ! え、えっと、聞くこと聞くこと。そ、そうです!
斎藤さん! 斎藤さんは今回の討伐でいよいよ、A+ランクからSランク昇格に必要な討伐ポイントが貯まり、日本史上最年少のSランク冒険者になられるということですが! そのことについてもコメントをいただければと!」
「え!? えっと……そ、そうですね……。えへへ……」
テレビの中に映る真奈は、先程までのお前誰だよっていう凛々しい感じから、なぜか急にもじもじとし始めた。頬に張り付いた血糊に負けないくらい、顔や首筋を真っ赤に染めてチラチラとカメラを見ているようだ。ぶっちゃけ快楽殺人者みたいで、見なかったことにしたい。
一方、あまりに意味不明なことばかり見たり聞いたりしていた僕は、一周回ってすこし冷静になっていた。普通に考えればこれは夢だよな。ドッキリにしては規模が大きすぎるし、絶対にそうに決まっている。
なんか今口にいれたパンとかめっちゃバターの味するし、コーヒーもちゃんと苦いし、頬もつねったら痛いけど……これは、夢、のはずだ。別に夢に詳しいわけでもないけど、痛い夢だってないことはないしほら。……無理があるだろうか。僕はスマホをスリープから復帰させて、検索を始めた。現実逃避かもしれない。
そしてそんな僕の耳に快楽殺人者真奈とミーハーで頭弱そうな女記者の言葉が入ってくる。
「あ、あの実はですね。私からもそれに関連してお話が、ありまして……」
「おお!? なんでしょう!」
「私、その……。実は、ある人に、伝えたいことがあって。み、見てくれてるかな。この生中継。す、すみません。ちょっとだけラ○ンさせてもらってもいいですか」
「おおおお!? もったいぶりますね! いいですよ、私が許します!」
何様なんだろこいつ。いや、確かにライブ感ある感じのエンタメでいいのかもしれんけど。
それにしても真奈も生中継で常識なさげことするなぁとか、スマホに目を落としたまま思っていると。
――スマホにライ○の通知が入った。
……ん? てれびをつけて? え、僕に送ってきたの? 何の用だよ怖いわ。
僕はとりあえず無難に刺激しないように『見てるよ』と送り、こわごわとテレビの画面に視線を戻した。
「き、既読ついた……っ! 返信も……っ!すー、ふー。す、すみません。お待たせしました。いいますね」
「ど、どうぞ……っ!」
「ゆ、ゆうくん! わたし、Sランクに、なれたよ! そ、それでね! わ、わたし。ずっと言えなかったけど……。Sランクになれたら……言おうと。ずっと、ずっと、小さな頃から思ってたことがあって。
絶対無理だと思って、願掛けみたいなものでしかなかったんだけど、なれちゃったから、も、もう……いいよね……っ! ゆ、ゆうくん! お願いします。
私と――お付き合いして、ください!!」
「……(バタン)」
「ちょ、マナ! あ、あんた! 何を言い出すかと思ったら! 急に、暴走して!」
「カ、カメラ。カメラ止めろ!」
そしてぶちっと画面が途切れて、キレイな滝の映像が流れ始める。カオスであった。
……そして、どうやら僕は真奈に告白されたらしい。
告白のきっかけらしいSランクってものの素晴らしさが、僕にはさっぱりわかんないんだけどね。
まぁそれはともかく…………真奈。
僕はひとつだけ、君に言いたいことがあるんだよね。
――僕たちってもう既に、高校の時から、付き合ってるよね?
僕、一条悠斗はもう、真奈のことやら意味不明なニュースのことやらを含めて……何もかもがわからなかった。
§§§
これは……エイプリルフールに目を覚ましたら、よく似た、しかし全く違う平行世界に迷い込んだ一人の青年の物語。彼にとっては虚構の世界で、それでもどこまでもリアリティに溢れた世界。
そんな世界で彼は、自分ではない自分に告白した、元の世界では恋人である”真奈”と否応なく仮初めの関係を築くことになり……、そしてお互いが本当に想う”相手”と再会するため、”二人三脚”でエイプリルフールの果てを目指す。
これは、そんな物語の始まりの一日である。
というあらすじだけ考えた。誰か書いて(´・ω・`)