一応決着
『疾風迅雷』
広範囲殲滅魔法として構想されつつも運用の難しさから実践は限定されてきた古代魔法のひとつ。
魔法効果としてはシンプルで、限定された空間を魔力が切れるまで雷撃と竜巻が荒れ狂うというもの。
しかし、その限定された、というのが広範囲になってしまい範囲を縮めると効果も弱まってしまっていた。
そんな魔法を若干アレンジしたのが『疾風の鎧・迅雷の槍』である。具体的には広範囲殲滅魔法として即時射出されてきた魔法を鎧や槍という形に一度固定して、徐々にその魔力を使っていくということ。それにより後の広範囲殲滅魔法の威力を減退させる代わりにその効果範囲をいくらか縮小することが可能になった。
対軍用ともされてきた魔法が大規模な対人用程度にまで使い勝手が良くなった。
が、当然その破格な威力にはデメリットもある。
「ごほっ」
ローブはボロボロ、杖は焦げて崩れかけ。その上に血を吐いて膝をつく『白刻』のシーカー。
肉体を半精霊化し、元に戻ったことでその反動に耐えきれず血を吐いたのだ。体のあちこちにも切り傷が出来つつある。
粉塵が舞い雷に焼かれた煙により視界は悪い。
音もないため、状況がつかめない。
魔族の男は?狩人は?探索者は?
かろうじて崩れていない杖を振るい、微弱な風を起こす。
「まぁ、さすがにね」
煙が晴れると魔族の男は倒れ伏していた。両手は元より、身体の至る所が焼け焦げ、切り裂かれ、血塗れになっていた。
「あとは、一応拘束して、他の人を回収して、外に伝えないとなぁ」
やれやれ。まだ休めないや。
「お疲れ様ですな」
探索者の男は無事だったらしく、どこからか現れた。
「ほな、コレ、貰いますよって」
「は?・・・は!?ちょっと!!」
魔族の男を抱えて消える探索者。
「あ、狩人さんはあっちの壁の方に剣と一緒に避難させときましたんで手当てしてあげとってください。では」
今度こそ気配が完全に消えてしまい、立ち去ったようだった。
「やられた・・・なんだったんだ」
「おーい!おっさーん!!まだおるかー!?」
魔族の男を抱えて大声を出す探索者。
「む?おぉ貴様か。久しいな」
「お久しゅう。今日はいいもん持ってきたで」
この場にいるのは満身創痍の魔族の男と探索者風の軽装の男、そしていつぞやの火龍種だ。
「ほう、これはなんとも。『闇火のルビー』に魅入られたか」
火龍種は魔族の男を見てそう判断する。
「我が『原初の炎』と『闇夜の星屑』が混ざり、それになったか」
「そやね。『闇火のルビー』は所持者に寄生し全てを焼き尽くそうっていう思いを宿らせる。扱いの難しい宝石や。しかもそれの元になったんが火と闇の至宝だったんも不運やった。魅入られすぎ、力を求めて、結果はこれや」
「まぁ、本題に入るで。この『闇火のルビー』な、もらってくれへん?」
「よいのか?貴様にとっても得難い物であろう」
「まぁな。それでも、コレは人間の世にあっちゃいかんモンや。処分するにも面倒や。今回、アンタかて至宝盗まれたし、その補填ってことでどうや?」
「我は問題ない。しかし貴様は損だけではないか?何を企んでおるのだ?」
「もうちょい、人間の世にいたいんや。でもコレがあっちゃ邪魔なだけや。ほなよろしゅう」
ふっ、と消えた人間の男。
「闇龍め。また討伐されても知らぬぞ」
そうして火龍種は魔族の男の胸から赤黒い宝石を抜き出した。それは人間の頭部ほどもあり、脈動のような輝きを放っていた。まるで、心臓のように。
「こちら『白刻』の探求者です。目標は排除し、作戦目標は達せられたものと思われます。こちらは怪我人がいるので、迎えお願いします」
今回の功労者は自分もボロボロなくせに狩人の治癒のため魔力を振り絞っていた。




