熱燗と大根
大根食べたい
夜が更けてきたころ、屋台式のおでん屋でちみちみと酒を啜っていた。
味わうというよりは、胃に流し込むという感じだが。
肴がなくなってきたので再度注文をしようとした時、右隣の席に新たな客が座った。
その客は薄汚れた山吹色の外套から顔を出すと、注文をした。
彼女が口にした言語は、英語かフランス語か、イタリア語かドイツ語か、どの国の言葉なのか分からなかったが、した注文は分かる。
大根ふたつに冷たい麦酒だ。
なぜ、言語が分からないのに注文は分かるかって?
それはここが屋台で、しかもおでん屋だからだ。
お玉で注文の品をすくい出てくるまで一分もかからない。
客は冷め切らない大根を箸で食べやすい大きさにしてから口に突っ込んだ。
予想以上に熱かったのか、冷えた麦酒を流し込んでいた。
俺は酒のお代わりを頼む。
客で酒のつまみにする。
客の髪は屋台の照明で蜜柑に輝いている。
大根を食べる時、汁に付いてしまいそうな前髪を耳元へと流すの行為が色っぽく感じられる。
こうして見ると客は長いまつげを持っていた。
客を肴にしようとしたが、俺が釣り針にかかってしまった。
店主に大根を注文する。
しかし大根はさきの注文で品切れになった。
釣られたが、逃がされた気分だ。
釣り針でできた傷から、欲が垂れ流しになっている。
大根を諦めて席を離れようとした時、客が声をかけてきた。
「私の大根食べますか? あ・な・た?」




