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彼女の感性

作者: 平岩藩士

 私の彼女は付き合い始めた時から、綺麗な景色や夏祭りの花火などの雰囲気や感慨深いことを大切にする人であった。あいにく、私は昔から感慨深いものに興味がなかった。

 そんな私たちが付き合い始めて2年が過ぎた夏、ある海岸へ出かけた。その海岸は私たちが初めてデートに来た場所である。

 赤いワンピースを着て現れた彼女は、いつも以上に美しく私の目に映ったように思えた。

 浜辺についた時には彼女は眠ってしまっていたので、私は彼女を叩き起こした。すると、彼女は不機嫌そうにムクッと体を起こして、こう言った。

「もう少し、優しく起こしてよ。雰囲気が台無しだよ」

私は、せっかく思い出の場所に来ているのに、まだそんなことを言うのかと少しがっかりした。

 もちろん、人が起きた出来事をどう受け止め、どう感じるかは自由であるが、こんな時くらいは抑えてほしいし、むしろ彼女の発言が雰囲気を台無しにしている気さえする。

 怒りたい気持ちをこらえて、私は彼女と浜辺へ足を運んだ。

 浜辺に到着すると、2年前よりも荒廃した海岸が広がっていた。

さらに、海水も少しだけ汚れているようにも思えた。

 当時とは変わってしまった海岸で、私たちはのんびりと思い出話をしていた。2年前の私たちならば、海の水をかけあったりして遊んでいたであろう。

 そんなことを考えながら、私は晴れ渡る空の下で彼女を抱きしめた。すると、彼女がまた嫌気がさした顔をしてこう言った。

「なんで今?まだ昼間だよ。普通は夕焼け時でしょう」

 すでに我慢が限界に達した私は彼女を思い切り叱りつけた。

 すると、いつも以上に怒っているであろう私を見た彼女は泣き始めてしまった。

そして、数分後に泣き止んだ彼女が真剣な表情でこう言った。

「私たち、別れましょう。今後うまくやっていける気がしないの」

 その時、私はふとわれに返った。私は今、自分よりも大切な人の感性を全否定し、その場だけの感情で怒鳴りつけてしまった。

 しかし、すでに引き裂かれた2つの物を繋げることなどできるはずもなく、私たちは別れてしまった。

 私は去りゆく彼女の背中をぼんやりと眺めていた。

 彼女が着ていた真っ赤なワンピースからは、ほつれた長い糸がゆらゆらと垂れ下がっていた。

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