65話 先手の先手
俺たち冒険者の配置が決まった。ベヒモス軍と最寄り位置に存在する第一拠点は俺とエリーが担当する。第二と第三はそれぞれ、アート、カムイが構える。
避難地となっていた第四拠点は、放棄することがすでに決定している。いつ戦闘が始まるか分からず、抗争の最中に立て直すことは現実的にも不可能であるため、クラウディウスは断腸の思いで決断したのだ。
代わりに、遠方の第三拠点をそのまま避難所として村民を避難させることにした。そして、順調に第一拠点の移動が終わり、第二拠点の避難が着々と進んでいた。
その時に、それは始まった。
「本当に前衛で治癒しているんだな」
「ええ、その方が少しでも多くの人を救えますわ。ダーリンも怪我したら言ってくださいまし」
「ああ、その時は頼むぞ」
オリヴィエは「任せてくださいまし」と胸を張る。実際、彼女は他人を治癒する能力を持つ《聖人》。その能力で数多くの兵の命を繋いできているのだ。
彼女の有無が革命軍の生命線となっているのは間違いないだろう。故に、単騎による切り札兼、護衛を俺に任されたのだ。
「ごめんなさいね。夜中に付き合わせちゃって」
「治癒のために魔草が必要なんだろう。構わな…」
「どうかしましたの?」
「…………オリヴィエ、俺の後ろへ」
「えっ……」
近接してくる二つの気配。それも知己のものだ。
そして、拠点の前へふたりの冒険者が現れる。
「あらぁ? 獣人じゃないわねぇ〜」
「お前は……ゼイン。 それにアイザック……」
モメントの町で会ったS級冒険者だ。
閃光、そして笑う狩人と呼ばれる実力派である。
「ん〜獣人に追われて追われて……大変だったわぁ」
ゼインはそう言って大きな溜息をつきながら、アイザックとともに拠点内へ踏み出そうとした。
「……待て」
「ん〜?」
……第四拠点。
滞在していた冒険者は、ゼインとアイザック。
革命軍は一度、シバ国の冒険者組合に救援要請を送っていたのだ。その要請をクエストとして引き受けた冒険者が彼らだった。
「そこで止まれ。大人しく……縄につけ」
滞在した冒険者と、エルヴィン。
そのどちらかが第四拠点を潰したとクラウディウスは睨んでいた。そして、先日。エルヴィン率いる隊が裏切っていないと断定した以上、冒険者が手引きしたか……
「………ふふっ!」
彼らが第四拠点を攻撃した張本人か、である。
響音が響き渡る。ゼインが剣を振り下ろしてきたのだ。俺は咄嗟に再生した『気剣』で受ける。
「バレては仕方ないねぇ〜…ここで消そっかぁ」
「ヒヒッ、同意だ」
瞬間、視界が白に埋まる。思わず手を掲げる。
そこで俺の後ろ──オリヴィエに近づく気配がひとつ。
「『雷功』」
「────なっ!?」
アイザックの振り下ろされた鉈を『気鎧』で纏った腕で受け止める。姿は見えないが、気配の影は捉えることができる。
「オリヴィエ、俺が抑える!他の者に報せてくれ!」
「っ、はい、ですわ!」
させまいとオリヴィエを追撃するゼインの気配。
俺はアイザックを『気衝』で吹き飛ばし、ゼインにハイキック。だが、さすがは熟練の冒険者。とっさに構えた両腕で受け止められる。
「んん〜、雷キック、痺れるねぇ」
白濁とした視界が戻ってきた。
そして、もう片方の剣を生成。
「───かかってこい」
「んん〜生意気ねぇ」
◇◆
第ニ拠点。そこが本日最大の佳境地となる。
村民も革命軍も無差別に、黒珠の弾丸が一斉に放たれた。
「っ……!」
「キャハハハハハハハハハハハハハ!」
アートは彼女と衝突していた。
最凶の道化に変わり果てた、とある少女と。
次話「忿怒と狂気」