間話 王の頭痛
「───畜生……」
男は両目を覆うようにこめかみを抑える。
「にゃ、頭痛ですにゃか?」
「あぁ…どうってことはねぇが……あの獅子を思い出すとどうもな……」
「そうですにゃか……」
革命軍と衝突時、ネロは革命軍の頭領と対決した。当然、不意を打たれはしたもののこちらの方が圧倒的。頭領は己が手で一蹴した。
しかし、なぜ、去りゆく革命軍の追撃を止めた自分が分からなかった。あの程度の男を殺すなど容易いことだったはずだ。
なぜだ、なぜ……と頭痛とともに苦悩していた。
「ネロ様、黒ハートより連絡があったっす」
「……ああ、何だ?」
「禍を持つ者が革命軍の本陣付近にて現れたそうっす」
「そうか、一つになる時も近いか」
パチリと親指と薬指を擦り合わせて鳴らした。
そこで、犬耳の少女は身を僅かに小さくして、恐れながら、と申し上げる。
「報告によると"原初の火"を撃退したとか……」
「原初如き、俺様の敵ではない」
「しかし、"魔神"と戦い生き残ったとも噂されているっす。無礼であることは承知しているっすけど、もしものこともあるっす。御身の身に何かあれば……」
ネロは瞳を細め、面白そうに笑みを浮かべた。
「俺様が負けるわけがねぇだろうが。それにてめぇらもいる。万に一つの敗北はありえねぇよ」
「……では、シバ軍は私たちにお任せくださいっす。乱れた統率も回復しつつあるので、ネロ様が出陣されたタイミングでシバ軍にぶつけるっす」
革命軍は森の中。地の利を利用してベヒモス軍の指揮官クラスを次々と潰され、統率が乱れてしまったが代理はいくらでも作れるのだ。
次なる進軍に向けて既に再編は済んでいる。
「進軍にあたり、心配事があります」
「もしかして六英雄にゃか?」
「そうっす。ウォーロクが出てきたらしいっす」
「ふん、黒ハートをぶつけりゃいいだろうが。なんの為のアイツだ」
「あの女はモメントの冒険者を引き連れて、革命軍の拠点に向かっているようっす」
「全く勝手な奴だな。まぁいい、他の道化の生き残りもいるだろう。そいつらに抑えてもらえ」
「承知したっす」
犬耳の少女は背筋をぴんと伸ばして敬礼した。
「とにかくウォーロクが出てくる前に俺様は出るぞ」
「にゃにゃ、ボクが後方で支援するにゃ」
「ああ、頼むぞ……」
ネロは何か気づいたように猫の少年を見つめた。
怪訝な顔で見つめられ、どうしたらいいのか分からず猫の少年は困惑した。そして、ネロは詰まった息が吹き出たように、「あ」と零した。
「ネロ様? どうしたっすか?」
「……気にするな」
この者らは俺様を裏切らぬ部下。
昔から共にいる仲間。忘れるはずがない。
そのはずだ。だというのに……
名前が、思い出せない──。