59話 SS級クエスト
玉座の前に整列する騎士達の中で、俺は冒険者で集められた列の先頭に立たされた。ウォーロクやハクたちはオスカーの後ろに控えている。そしてもう一人、白の装束を纏う見知らぬ少女もいる。フードを深く被っていて顔が見えない。
「此度はよく来てくれた」
玉座に座る国王の前にオリヴィエが傅いていた。
「ここに来た理由の大概は聞いている。改めて、この場で申し上げたい儀を教えてくれまいか?」
「はい。改めまして、妾はオリヴィエと申しますわ」
祈りを捧げるような綺麗な姿勢で名乗った。
「妾たち革命軍は、断固として暴君ネロに抗います。これは総意たるクラウディウス様も同じ想いですわ」
聞くところによると、オリヴィエは俺と会った頃から、革命軍とともにネロの侵略に抗い続けていたらしい。幼い頃から戦禍に巻き込まれていたってことだ。
「今現在、革命軍はベヒモス軍を意表を突き、その進軍を止めています。強力な一撃として打撃を与えられませんでしたが、統制を乱すことができました」
「……ほう、少数と聞いていたが、なかなかの精鋭のようだな」
「はい、数は大いに劣るものの、各個の強さには自信がございますわ」
確かに圧倒的絶望と言っても過言ではない。
ベヒモス軍七万に対し、革命軍は五千。並大抵の軍ならば木っ端微塵だが、本当によく粘っている。各個の強さがなければ無理な話だ。
「ですが……妾たちはいずれ、敗北するでしょう」
ただ、現状の彼我差では長く持たないのも当然の摂理。ベヒモス軍を揺らがせる一撃を与えられたのは最初だけだろう。
「分相応な願いだということは重々理解しております。妾たち革命軍は───六英雄の数名擁するシバの力を所望します」
「…………」
そこで、オスカーは交渉の目に変化した。
シバの戦力を貸す出すだけの交渉材料を出せるか、それにかかっているのだ。
「もちろん無償とは言いません」
「……ふむ、その条件とは?」
「革命軍が国を取り返した暁には、ベヒモス産の作物の四種。クラウディウス様が王として即位している間にのみ免税を約束しますわ」
「ほう、魅力的な話だが……それは勝ち得たことが前提とした条件であろう。勝てるか否かも分からぬ現状で手を貸せというのか」
痛いところを突いてくる。その棘のある言葉は、俺の知っている「となりの陽気なおじさん」のオスカーではなかった。これが王たるオスカーの姿か。
しかし、オリヴィエは怯むことなく直視した。
「───……いえ、必ず勝ちますわ。確かに確証のない勝機なれど、皆無ではございませんわ。妾たち革命軍は平和を取り戻すことを志し、微かな希望に賭けて抗い続けます」
オリヴィエは決意を表した表情で見上げる。
きゅっと自分の服を握りしめて宣言する。
「この決意は、たとえシバの方々のお力をお借りできずとも変わりませんわ」
毅然とした態度でそう答えた。
暫く、オスカーと睨み合うように視線を合わせ続けていた。そして、僅かのため息の後にオスカーは鋭い視線を解き吐き出すように応えた。
「………ふむ、確かに不安定材料だが、勝ち得た際の利益も充分である」
オリヴィエの決断に応えることにしたようだ。
その重い腰を上げて、オスカーは皆に告げた。
「何よりシバに侵攻する軍を食い止めているという恩もある。朕は恩を仇で返しとうない」
カンッ、と杖を地に叩き宣言する。
「故にオリヴィエの決意を受け、此れよりシバは革命軍とともにベヒモス王を討つ!」
ここに集う騎士団の気が引き締まり、ピリッと空気が張り詰めた。彼らも応えることにしたようだ。
「オリヴィエ殿、ベヒモスの本軍は騎士団が引き受けよう。しかし、今シバも油断できぬ警戒状態にあり、十分な数の戦力が送れぬ。また、転移できる人数にも限りがある。故に、少数精鋭を送りしよう」
一瞬、こちらを見て頷いた。
俺は何のことか分からず、頭に「?」を作っていると、今度は体をこちらに向けて公言した。
「S級冒険者たちよ、国王の名の下にSS級クエストを下す!」
「……ん?」
SS級クエスト? まさか………
「──革命軍とともに暴君ネロを討て!」
先頭に立ってしまった俺に注目を集めた。
うあー、嵌められた。
「………はぁ、そういうことかよ。ハク」
オスカーの背後に控えるハクに微笑みを返された。
ここまでお膳立てをされ、大義名分も下った。
断るに断れないじゃないか。
いや、まぁ願ったり叶ったりだが。
「まずは先頭の者よ、返答は如何に?」
俺は傅いて、依頼に感謝しつつも応える事にした。
「──……冒険者アベル。その申し出をお受けする」
この依頼が、最初で最後のSS級クエスト。
俺が冒険者として成した「最後の偉業」となる。




