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55話 世界よりも約束



「ディーヴの仲間……か」

「信用できないのは承知しております。まずは話を聞いていただいてから……」

「いや、ひとまずは信じるよ」


 見たところ、敵意もないし対話の態度がある。

 ディーヴの仲間なら聞く価値はあるだろう。


「それで、救世党が俺に何の用だ?」

「私たちはディーヴが亡き今、計画の鍵となる貴方の意思確認ないし、作戦をお話ししたく集いました」

「……分かった。紅茶を出すから少し待ってくれ」

わたくしがご用意しますのでお構いなく」


 とりあえず、ひと安心だ。俺を消しに来たのならどうしようかと思った。特に……"麒麟ライトニング"は今の俺にはどう足掻いても勝てない気がする。


「お待たせしました」

「すまない」


 ずず、と紅茶をいただく。流石にうまいな。


「あちっ! ふぅふぅ…」


 なぜか隣には妖艶な姉さんが紅茶をふーふーしている。服装もなんかエロい。確かラムだっけ……


「まず、道化団の構成についてだ」

「確か道化団は六つに分かれているんだったか?」

「そォだ、四元素を司る団と、白と黒を司る団。この六つに分かれ、黒は「本能」、白は「規律」を課している」

「えっ、規律?」


 俺はつい、ちらりとラムの方を見てしまう。


「いやん、視姦されちゃったぁ」

「………アレも?」

「彼女は白道化の中では変わり者ですからね……」


 そこで、ウォーロクはカチャと紅茶を置き、見下すように椅子にもたれる。何やっても様になるな。


「とまぁ、六道化の構成はこんなモンだ。これから本題になるが、その前に、オマエに問う」


 スッ、と吊り目の瞳を細めて睨まれる。


「オマエに覚悟はあるのか?」

「覚悟?」

「ハクも言ったが、オレたちは世界を救うために集まった。国なんてチャチャなモンじゃない。あらゆる悪の断罪し、滅びゆく世界を救済する。オレたちも分からないことだらけだが、間違いなくこれまで以上に過酷な宿命を背負うことになる」


 心なしかウォーロクの体に雷をまとっているように見える。俺を試しているのだろうか。


「オマエは復讐を果たすために力を求め、旅を続けできたらしいな。今まで一人個人の恨みしか持たなかったオマエに───世界を救済する覚悟はあるのか?」


 世界……世界なぁ。世界の救済なんて一度も考えたことすらない。ウォーロクの言う通り、一人個人の恨みで生きて来た俺には世界なんてどうでもいい。

 どうでもいいが………


「……世界なんてものを救う気はない」

「なに?」

「ただ……俺にやれることなら何でもする。それがディーヴとの約束だったからな」

「──ほう、世界よりも約束、か。面白いヤツだな」


 愉快、愉快なヤツだ、と頭を振りながら笑われた。

 馬鹿にしてるのか、してないのか、分からないヤツだな。


「ウォーロク様、もうよろしいでしょう? ディーヴ様の言う通り彼はその覚悟はあります。それは暴走したディーヴ様との戦いでも証明されているはずです」

「まァな、コイツの瞳はグチャグチャだが、奥に燻るまっすぐな光がある。オレはそれを信じるとしよう」

「ウキャキャ、ツンデーレ」

「エテ公、ウルセェぞ」


 ツンデレなのか。そうなのか。

 へぇー……っと、睨まれた。


「さて、次はディーヴの誤算……いいえ、見込み違いについてお話ししましょう」

「見込違い?」

「はい、それは白を除く道化団が結託したことです」

「通常はあり得ないことなのか?」

「そォだ、道化団は常に相反する思想を持ち、手を組むなどあり得ない。だから、戦力不足を補うためにオレが来たってワケだ。ギリギリだったがな」


 俺が来る前に一度、ネロはシバを訪ねている。

 ディーヴは、その時に道化が結託していることに気づき、即座にウォーロクに手紙を飛ばしたそうだ。連絡を受けたウォーロクは即座に発ち、道化の包囲網の一角を壊滅させたらしい。


 ……確か、ウォーロクはここよりも遙か南方にある学園都市ノアに滞在していたはずだ。俺がシバに来たことを考えてみても十数日しか経ってない。まっすぐに走ったとしても、シバには到底たどり着けない。

 どれだけの速さで来たんだ、この男は……


「オレが緑道化の一人捕らえて尋問したが、最後まで吐かずに自決した。強い結束があるのは確かだな」

「3年前、前王クラウディウスは娘を助けるために国を明け渡し、王なき国となったベヒモス王国を獣竜王ネロが乗っ取っています。コリオリの件も、道化団とクラウディウスが争っていたという目撃もあります。この一連の動きからおそらく……」

「ふむ、だから獣竜王が元凶かもしれないって事か」


 確かにディーヴも言っていた。

 推論の域を出ないが流れの辻褄だけは合っている。

 ただ、道化団がネロに協力する理由が分からない。

 何か共通の理由──もしくは目的があるはずだ。

 ディーヴはそこに気付いたはず。

 もしくは、知っていた。


「……あまり、怒らないのですね」

「ん? 怒る?」


 今の話のどこに怒れっていうのだろう。


「コリオリの件です。怒りを露わにするかと思いましたが……とても落ち着いているようで驚きました」

「落ち着いているっていうか……なんだろうな」

「きゃは〜」

「うぉっ!?」


 隣のラムが俺の膝に倒れた。スリスリと頬でこすりながら寝ている。やめんかい。


「うーん、むにゃむにゃ……」

「起きろ」

「ウギャッ!」


 ウォーロクに雷ショットされ目を覚ました。

 なんかエンジェに似てるなこいつ。


「さて、今後の動きについてお話しします」


 落ち着いて続けるハクさん。


「ディーヴの予想通り、突如の襲撃に混乱しているであろうシバを狙い、先日ベヒモス軍が出陣しました」

「なんだと?」

「ですが、今のところはご安心を。現在は横槍を入れるように攻撃を開始した革命軍と衝突しております」

「革命軍……確か、前王クラウディウスが立ち上げた軍のことか?」

「その通りでございます。革命軍の存在を知っていたディーヴは前からいくつかの支援品を送っていましたが、あまり長くは持たないでしょう」


 革命軍がベヒモスの軍を抑えているということか。

 クラウディウスも損な人だな。一度自分で救った国を奪われ、また奪い返すために戦っているんだから。


「そこで、だ。オマエが隠し球となって革命軍を救え。それがオマエの仕事だ」


 えっ、俺?


「タイミングは妹に遣わせますので───」


 コンコン、とドアを叩く音が響く。


「アベル、いる?」

「あ、ああ、エンジェか」


 誰もいねぇ。気配の消し方が異様上手いな。

 というか、タイミングって何だ?


「今からデートしようよ!」

「はい?」


 シリアスな空気から一転。

 理解が追いつくのが遅れる俺だった。



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