幕.かつての縁
「──────」
玉座に頬杖を付く漆黒は目を見開き、微かに表情を影に落とした。主が暗い表情を浮かべるなど只事ではないと、水のような体を持つ女性が心配そうに顔を覗かせる。
「顔色が優れないようですが、何かありましたか?」
「………いや、何でもない」
ダァン!と椅子から叩き立つ熱すぎる精霊。
「まさか!? 風邪か!?」
「馬鹿、そんな訳がないだろう」
「貴様!何をする!?」
緑髪の少女に後頭部をはたかれ、全身が炎に燃える男は頭を炎上させた。ぎゃあぎゃあと争う精霊をよそに、主の落胆としたその瞳に映っていたのは、かつて力を乞うて地に平するとある少年の姿だった。
「逝ったか、ユージン」
彼は、主が気をかけた数少ない人間、そして自らに刃向かった「友人」でもあった。
閉じた瞼を開き、玉座から立ち上がる。
「少しばかり確かめたいことがある。ノトス、グロング、お前たちは「始まりの禍」を継ぐ者の意思を確かめろ。裁量は任せる」
「「承知しました」」
「セドナ、ここの管理を一時任せる」
「ハッ、心ゆくまで」
三体の精霊は傅き、忠誠を示す。主は背後に空間に穴を開けて踵を返す。そして、征こうとした所を引き止める空気を読まない炎男は、御役目を求めた。
「主人よ!俺はどうしたらいい⁉︎」
「………お前はそこで待て」
「分かった!」
それから少し先。炎の精霊が己の役割に飽き、居城から飛び出すことになる。そして、その到達先にアベルと邂逅することになるが、誰も知る由もなかった。