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8.十束剣聖



「し、しょ……う……?」


 ジン師匠が俺の前へと立ちふさがる。

 そして、歯をむき出しにして振り向かれる。


「ハッハッ! 俺よりも強え癖に何だそのザマは?」


 小馬鹿にするような笑顔で俺を挑発された。しかし、俺は鈍痛でそれどころではなかった。張ったように全身の肌が痛いし、頭がキリキリと裂けるようだ。

 俺は痛みを堪えて上体を起こす。


「ぐっ……あいつは……アートは……」

「大丈夫だ。昔に見つけた魔物が襲ってこない地帯で休んでいる」

「………よかった……それから、あの竜……」

「……ああ、分かっている。こういうのは得意分野だ、後は任せろ」


 ポン、と俺の頭に手を置いて踵を返す。

 振り向くその横顔はどこか、悲しそうだった。


「………よぉ、コリオリを燃やしたのはやっぱりお前だったか。ダエーワよ」


 かつての友に語りかけるようにジン師匠は声をかけた。しかし、その返答は咆哮、嗚咽……言葉にならぬ叫びだった。


【カ、カカ、カ、グラァァア、アアァア!!!】

「……そうか、お前の中に残った闇につけ込まれたのか。ならばこれは俺が果たすべき宿命……今度こそ引導を渡してやろう」


 そう言って左手を突き出して気剣を逆手に持った。


【グラァアアアアアァァァァァアア!!!】


 放たれた鋭い鱗。あれは防げない攻撃だ。

 師匠では捌き切れないと、思わず両腕で構えた。


「………数は多いが、無駄が多い」


 ジン師匠は一歩も動かず、その場を直立していた。


「─────!」


 俺は、戦慄した。構えた両腕の隙間から見えた、その動作はふた振り(・・・・)だった。それ以外の動きは一切見せていない。

 間違いなく二動作のみで広範囲の鱗を弾いたのだ。


「雷神よ」


 炎のブレスが迫る。師匠は俺の服を引っ張り、軽くステップで極大のブレスを回避する。その挙動はまるでブレスを吐いてくると予知していたかの様だった。

 そして、右手に槍を持ち竜の目に向かって構える。


【ガァッ!?】


 それに気がついた竜は、頭を後ろに引っ込む。その次の瞬間、ジン師匠は詠唱を続けた。


「雷如き足を我に『雷動』」


 竜の頭上に移動し、頭と首の付け根に槍を放ち、竜の頭は地に叩きつけた。非力なユージンとは思えないそのパワーから『気功』と『気衝』を組み合わせた一撃であることを理解する。


長剣ロングソード


 今度は身の丈よりも長い剣を構えた。そして、押し寄せる巨大な拳、その肘の内側に異常に長い切っ先を添えて、入れ替わるように懐に入った。

 そこを一閃。竜の右肩から鮮血が噴き出る。


【グギャァアアァアアォオオオオオ!!?】


 攻撃に使った鱗が完全に生えていない弱所を狙った。初見だとは思えぬ正確な攻撃だった。


曲剣シミター


 剣の形状を曲げ、竜の抵抗の腕を横に流す。

 そのまま縮小させた曲剣を空に投げ、腹部に両拳を当て、足に力を込める。


「『気衝』!」


 巨大な体躯を力で……いや、体勢を崩しやすい弱所を突き、後退させた。

 そして、ジン師匠はいつの間にか空に飛び込み、剣を掴み取った。


巨剣ギガントソード


 小さな剣を空中で、そびえ立つ巨大な剣へと変化させた。落下速度をそのままに叩きつけた。


【グゴオオオォオオァァアアアアァアァア!!!】


 状況に応じて最適な立ち位置を確保し、全ての攻撃を受け流し、かつ自らの攻撃も行使した。


 その後も絶えずに剣を変形させ、黒い竜を圧倒した。一瞬一瞬の判断ミスが即死。その押し潰されそうな恐怖の中、最小限の移動、動作で全ての攻撃を弾く。力の差を全て補うような圧倒的な戦闘技術。それも真正面で戦う王道もの。


 あれこそが ”技” の極致。


 そう呼称するに相応しい、一片の無駄のない研ぎ澄まされた剣技だった。


「……ふぅっ、まだ無駄があるな」


 先ほどの剣技と体術を以ってさえも満足しなかった。その瞳はさらなる高みへと向けるものだった。

 俺は、その境地に追いつくことができるのか…?


 と、師匠は一瞬、こちらを見た。


「………?」


 微かな笑みを浮かべ、すぐに前へ視線を戻す。

 すると、今まで使わなかった腰の刀を抜く。

 露わになったその刃は美しく、深い闇をも照らす純白の輝きを放っていた。


「このユージン、一世一代の剣技の披露目だ」


 その白い刀を掲げ、その刃の周りに九つの光が並ぶ。それぞれが空へと放射され、環状に回転しながら一つ一つが別々の形状に変化していく。

 そして、舞う光球は剣となりて地に突き刺さる。


【……ソード……マスター………?】


 静かに目を開け、その技の名を宣言する。


「────『十束剣聖フラガラッハ・ブレイカーズ』」


 勝利を確信した瞳で見上げる。

 呼応するように、竜も咆哮する。



「さあ、竜神とも

  俺が《剣聖》と呼ばれた所以を教えてやろう」



 九つの純白の剣がより強く輝く。

 竜に挑む勇敢な剣士、それはひとつの英雄譚を再現しているかのようだった。


「うっ……」


 そして、その光景を最後に意識を手放した。


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