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7.斬の極致



 竜の顎門が開き、熱が収束されていく。


【『煌炎オルディーンヘシュト』】


 太陽のように眩しく、巨大な炎。あれを喰らえば再生する間もなく、一瞬で消しとばされるだろう。

 しかし、先ほどまで暴れてスッキリしたからか、俺は不思議なほどに落ち着いていた。


「…………何のために…か」


 目を瞑り、俺はそれを思い出す。

 師匠は言った。何のために剣を振るうか、と。


 仇を討ちたい?成り上がりたい?英雄になりたい?

 

 ────どれも正しくも、違った。もっと……

 この世界に転生してきて初めて思ったこと。

 そして、大切にしようとしたこと。


 そうだ、俺は……


「ふぅうっ……」


 俺は生成した刀を腰に据え、柄に右手を添える。

 沈静化されゆく情動と裏腹に、執念にも似た熱い情熱が胸の奥に押し留められていく。


 鮮烈な願望。成す覚悟。心奥に燃えるかんじょう

 その全てを一刀に込める。


「極限に想いを深化させるんだ………」


 放たれる消滅の光。ジュゥ、と皮膚が焼かれる。

 それでも、俺は集中力を途切れさせない。


 俺は、命も、大切な人も、復讐も……


「そして……気を……」




 ────── 研ぎ澄ませろ。




【 ─────────!】







 二度とうしなわれない為に、剣を振るうんだ。






◇◆


 複数の隕石が落ちた跡地のように荒れた地に二人の男が対立していた。片方は白の刀を持った老剣士が目を瞑ったままだ。もう片方の黒い肌を持った巨人はただ直立している。


「ば、馬鹿な……! この俺が何も……」


 直後、黒の巨人が崩れ落ち、塵と消えていった。

 老剣士は刀を鞘に納め、哀れむ瞳を浮かべる。


「……っ、ハァア……死ぬかと思った……」


 大きく息を吐き、己が命のありかを確かめるように胸に手を添える。死への恐怖でドッドッドッと心の臓が太鼓を打っていた。

 一時的に乱れたの呼吸も次第に整い、次の戦いへと気を引き締めて洞窟へと向かおうとした途端。


 ─────パキン


 と硝子が割れる音が響く。ユージンは空を勢いよく見上げる。


 その一撃はユージンの手前の大地から飛び出し、天を二つに割った。それは、まるで世界そのものを斬ったかのような光景だった。


 その次の瞬間、地響きが轟く。


「……それがお前の願いか」


 その極致は「因果を断ち切る」。分相応な想いの丈が産む一斬。純然な想いを剣に賭け、運命を覆す一撃を生み出す業。


 それはユージンが届き得なか(・・・・・)った境地(・・・・)


「地盤が崩れたか……落ちるな」


 崩れゆく地の亀裂から狼の遠吠えが響く。





◇◆


「ハッ…ハァッ………」


 左脇から頭部にかけて斬り落とした。並外れた生命力で、微かに息も残っているが、死ぬまでにそう時間はかからないだろう。


 さっさと息を整えて脱出しようとした途端。

 視界が歪み、地に膝をつけてしまう。


「な───んだ…?」


 膨れ上がる憎悪。黒い感情が俺を侵食していく。

 そして、自分の中に蛇が蠢く。


《お主も適合者か》


 闘争や怒りのそれとは違う。殺したい、発散したい、食べたい、そういった根本的な感情が増長されていく。これは……この黒い力は………


餓喰へリュクトーン


 頭の中に浮かんだのはそれだった。癒えぬ飢えと際限なき欲……「本能」の権化。


 蠢く殺意はすぐに沈静化される。そして、カチリ、と俺の中の何かが組み合わさった音がした。


 直後。


【ガアアァァァアアアアアアアアアア!!!!】


 竜は雄叫びを上げ、立ち上がった。頭部も、腕部も、歪ながら再生されていく。


《さあ、どちらが俺の願望ちからを預けるに相応しいか、殺し合え。形は問わぬ、生き残りし者にくれてやる》


「………そ…んな……」


 俺は鱗の巨拳に吹き飛ばされ、血反吐を吐く。

 体もまともに動かない。魔力もゼロだ。


 ────無理だ。


 俺は成すすべもなく、竜に殴られ、尻尾で叩き潰される。しこたまに攻撃をくらい、意識が遠ざかる。視界も紅と黒で埋まっている。


「……嫌だ…まだ俺は……死にたくない」


 死ねないのに、死にたくないのに動かない。

 仇も討っていないし、大切な人をまだ守れていないんだ。俺は何もできなかった前世とは違って、今度こそはと生きたかった。だから修業も自ら進んでやった。だというのに………


「…………ちくしょう……」


 暗闇に炎が燻る。それはすでに放たれ、視界を白く埋め尽くした。そして、俺は縋るように



 ───誰か、助け………





「こいつは大切な弟子なんだ。殺させねぇぞ」




 瞬間、大炎球が爆ぜた。チリチリと布が焼ける匂いがする。目を開けると、白髪の老剣士が立ち塞がる。


「し、しょ……う……?」


 それは紛れもなく、英雄ヒーローの姿だった。



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