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5.墜ちた竜




「ナミだったら怒ってただろうな……」


 いずれ通る道だったとは言え、年端もいかない弟子を突き落としたことに罪悪を感じていた。

 カリカリと頭を掻きながら崖の上から洞窟を眺める。それに、先程から嫌な胸騒ぎが止まらなかったのだ。


「死なないよな……ここらの魔物より強いし……」


 アベルの並外れた身体能力はもう既にそこらの魔物を軽く凌駕する。特にその怪腕ぶりは、戦友を彷彿させる凄まじさがある。


 しかし、彼はまだ子供だ。精神面もどこか大人びているようだが、ブレブレに揺れている。そんな彼を追い詰めてよかったのだろうか、と疑問を感じていた。


「……いや、信じろ。アベルはベルの息子だ。絶対に乗り越えて帰ってくる」


 乱れた気を落ち着かせるために目を瞑り、ふぅ、と息を吐く。落ち着いてきたところで、アベルがどうなっているのか確かめるべく気を張り巡らせる。

 すると、


「────……?」


 洞窟の奥に隠れた巨大な気配を感知する。その気配は他の魔物に紛れ込み、底知れぬ力を隠蔽していた。


 しかし、ユージンは巧妙に隠された気配を見抜く。隠された内包魔力、燃え盛る気配……それはかつての友にあまりにも類似していた。


「……まさか、ダエーワ……?」


 次の瞬間、黒い影が落ちた。


「!!?」


 ユージンは勢いよく振り向くと同時に、巨人が降ってきた。


「てめえがユージンか!!」


 轟音とともに崖が崩れ落ちる。横に吹き飛んだ空中を舞う岩や小粒の中に、無体で流れるユージンの姿があった。



◇◆



【ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!】

「な────ッ⁉︎」


 俺の村を焼き払った黒竜の咆哮は空間を震撼させた。


 ────なぜ、こいつが!?


 真っ先に思い浮かんだのはそれだった。


 なぜこんな辺境の洞窟に潜んでいる? これが修業の一環だとしたら、師匠はこいつに通じていた可能性があるということだ。


 だったら、なぜ今まで俺を鍛えてきた? 俺を強くしてなんにするつもりだった? ああ、全く分からない。


 俺は混乱する中、少しずつジン師匠のことがが信じられなくなってくる。だが、その疑いはすぐに打ち砕かれた。


【サ、去レ……今スグ……此処カラ消エロ……!】

「……え?」


 それは間違いなく、竜自身のおのれだった。


「おまえ…知能が……?」


 師匠に聞いたことがある。魔物に属される翼竜ワイバーンとは違い、高い知能を持ったドラゴンが存在すると。


【我ハ…最早、堕チタ身。自我ガアル内ニ……去レ】


 自我がある内……ということは”凶堕ち(ダーク・フォールン)”。知能を失う代わり、高い身体能力や魔力を引き出す呪われた力だったか。

 竜の高い理性が今にも爆発しそうな自我を抑えているのか。ならば、自我がある内に去った方が賢明な判断だろう。しかし、俺には自我がある内に聞きたいことがあるのだ。


「一つ……聞いてもいいか?」

【サ、去レ…… 問答スル気ハナイ】

「…………」


 竜は今にも暴れそうだ。竜は元々高い身体能力と魔力を誇るという。

 凶堕ち(ダーク・フォールン)によって強化された力は計り知れない。

 それでも、俺は確かめたいことがあった。


「コリオリの町……なぜ俺の村を滅ぼした?」


 何の為に、俺の大切なものを奪ったのか。

 他人を犠牲にしてでも成したかったことがあったのか。

 ただ、それが知りたかった。しかし………


【知ラヌ……我ハズット、ココデ、待ッテイタ。廃レタ町ナド知ラヌ……我ガ牙二砕カレタ騎士ノ冒険者ナド知ラヌ……去レ…去レ……!】


 それは拒絶だった。逃げだった。


【ア、アァ、アァアアアァァァ……】


 その悲痛な咽び声は、悔やんでも悔やみきれぬ自責を感じた。


【我ハ…《竜神》ヲ賜リシ者…ダエーワ……決シテ…アノ様ナ……ガ…ガガガ……ガカグラァアァアァアアァアァアアァアァアァアアァアァアアァアァアアァアァアアァ!!!!!】


 理性が吹き飛び、再び大地を轟かせる。


「…………………………そうか……」


 黒い竜がどれだけの後悔をしているのかは分からない。どれだけ悲痛なのかも、自分には分からない。

 ……だが、俺には知らないことだ。別に期待はしていなかったさ。何を答えたところであいつが仇の一人であることに変わりはない。


「ヴォルル……?」



 俺は、仇を討つ力が欲しい。

 

 仇を討った先に更なる力が得られる。


 ならば、戦いに身を投じよう。命を賭けよう。


 これは修業だ。われはさらなる力へと渇望する。



「飽くなき闘争の権化よ、荒れ狂え」


 そして、ついにぞうおを呼び起こす禁呪を呟く。


「────【修羅アレウス】」


 俺は再び、激情に身を燃やした。



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