表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/169

1.最弱の剣士


 シバを襲った前代未聞の、朧事件の噂が行き交い、騒がしさが冷めやらぬ頃。俺はギルドカードの更新を行うことにした。とはいえ、俺は既に”アンラ”を三つ所有している。

 ギルドカードは公にできない。だからか、更新を申し出る時に俺から言うまでもなく、ギルドの方から秘密裏に更新するように取り計らってくれた。国王オスカーのお墨付きメイドが飛んできて、ギルドカードの更新をしてくれた。


 俺はギルドカードを受けとり、人の目がない場所でステータスを確認してみる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

等級:S

種族:混血 職業:剣士・暗殺者・格闘家 属性:闇

体力:SS 筋力:SSS 耐性:SS

敏捷:SS+ 魔力:不明  魔耐:SSS

固有能力ウェイクスキル『邪眼』『気操流』『限定念話』

    【修羅アレウス】【餓食ヘリュクトーン】【地獄シェオル

種族能力シュタムスキル『超再生』『剛力』『魔力操作』

    『???』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 魔力は【地獄シェオル】によって底無しとなった。そして、【修羅アレウス】による成長、ディーヴとの戦闘によって魔耐と体力が向上した。一つの種族能力シュタムスキルはいまだに不明だが……


「………ん?」


 ここまでは想定内だが、予想外だったのは『気操流』だ。どういう訳か能力スキルとして追加されている。能力スキルについて詳しいエンジェに聞こう。


「これってどういうことだ?」

「一定の基準を満たすことが出来たから能力(スキル)として表示されているんじゃないかな」

「ふむ」


 少しは強くなれたということで良いんだろうか。


「へぇ〜…こんな早く能力スキルとして認められるとはの」

「うおっ」


 と、ユニが横から顔を覗き込まれる。


「む、わしが来ることくらい気づいとったじゃろ?」

「…まぁ、そうだけどな」


 それは恐らく前と比べて気が楽になったからか、気配をはっきりと知覚できるようになった。常時に張り巡らせている気の感度というべきか、さらに広範囲で知っている者であれば見紛うことなく感知することが出来る。


 自分から他人を切り離して孤独でいようとしていた心が、いつの間にか『気操流』をも否定してしまっていたのだろう。


「嬉しくないの?」

「んー……」


 エリーに少しだけ棘のある声で頭を傾げられる。

 強くなったことに関しては素直に嬉しいが、ステータスの強化が目標としている訳でもない。


「……前も言っただろ。俺はまだ弱い。ステータスで強くなったところでその域へと辿り着けた事にはならないんだ」


 その人の強さはステータスではない。

 ただ強いだけでは辿り着けないものだ。


「……それってお兄様?」

「ああ」


 ジン師匠はステータスだけだと、幼少期の俺よりも劣っていたのだ。恐らくA級よりも弱い。全盛期はどうだったかは分からないが、"六英雄"と讃えられた勇士は思えないステータスだったのだ。


「…そういえば、なんでジン師匠を「兄様」って呼ぶんだ? 歳離れてるだろ?」

「それがわしもよく分からないんじゃが、子供の時に兄様って呼ぶように言われての。そのまま呼称しているんじゃよ」


 うーんとユニは顎に手をやり、少し空を仰いだ。

 確かユニの年齢は二十代だっけか。三四年前、ジン師匠が青年期に邪神を討ったというから……少なくとも三十代前後か。「おじさん」って言われるの嫌だったんだな。


「……どんまい、ジン師匠」

「えっ、何がじゃ?」


 とにかく俺は能力スキルとしては認めてもらえたものの、師匠には遠く及ばない。まだまだ師匠に勝てるとは思えないのだ。


 竜殺し(レイア)にも言われたが、”感知の技”……相手の動きの先読み、俺はその極地には至っていない。そして、それはどんな速度をも看破し、どんな巨大な力をも流すことが出来る。レイアのチートパワーによる超速突進も対処できたはずだ。


 パワーの差は後だ。一回に大ダメージを受けて毎回、気絶していては修業にならない。

 まずは速度の差を埋めたいところだ。速度の極致といえば……


「エリー、(修業に)付き合ってくれないか?」

「ふぇえっ⁉︎」


 エリーから可愛い声が聞こえた。何事だ。


「……私でいいの?」

「お前しかいないんだ」

「えっ……」

「お前の他にいないんだ。頼む」

「う……こ、こちらこそお願いします…!」


 エリーの顔が赤い。何かすれ違っている気がする。


「……? 後で南門に来てくれるか」

「……うん」


 俯いたままエリーは「ちょっと準備してくる」と帰っていった。

 鎧と剣を取りに行ったのだろう。


「……何をため息をついてんだ」


 なぜかエンジェに、上からため息をつかれた。

 年上は年上なんだけどさ、なんか腹立つな。

 よし。


「あいったぁ!」


 久々のデコピンを頂戴してやった。



◇◆


 南門には人の通りが多く、少しだけ右の奥へには誰もいない少し開けた場所がある。そこでエリーと待ち合わせた。 


「修……業………?」

「ああ、気操流の知覚ではなく、己の感覚で光速で動く物体に対処出来るか試したいんだ……って何だ、その服は…うぉおおっ⁉︎」


 光拳を放たれる。全て間一髪で回避する。


「待て! 不意打ちは無いだろ!」

「う、うぅ……!」


 膨れっ面だ。俺が何かしたんだろうか……


「……いいわよ……()ってやるわよ!」


 白ワンピースの裾を縛って手持ちの細剣を構えた。

 それに殺意を感じる。なんか不味いぞ。


「ちょ……それ、真剣じゃねぇか⁉︎」

「問答無用よ! 修業するんでしょ! 行くわよ!」


 それからの戦いは酷いものだった。魔力を使った感知魔術である『圏域』もシャットし、己の五感を使い、エリーの攻撃を見切ろうとした。


 結果、失敗だった。


 初撃の剣はどうにか回避できたものの、続けて繰り出された拳が全て直撃する。初撃で崩された体勢では対応しきれない。


 雷功は、知覚速度をも加速させる効果もあるため、エリーの光移動魔術をもものとしなかったが、それ無しだとここまで対処し切れないとは……!


「初撃さえ何とかできれば……ぐっ!」

「動きが鈍いわよ」

 

 二撃目の拳を掴み取ろうにも目の前から消え失せている。


「これが多重詠唱デュアルスペルか」


 一度しか発動できない魔術を連続で発動させるために、並列に詠唱をする。そうすることによって、多少のタイムラグはあるもの、連続もしくは同時発動ができる。


「読め……その動きの先を予測しろ……!」


 目で追うな。 魔力は使うな。

 頭を使え、肌で感じろ。

 ───あの時のように集中しろ。


「ここだ……ぐふぉっ⁉︎」


 エリーの肘が鳩尾に命中した。そうだ、攻撃してくるのは方向だけではなく、必中位置も予測しなければならなかった。


「……隙だらけよ」


 エリーは低い体勢のまま、背後に剣を構えていた。俺はほんの僅か頭を後ろへと仰け反らせながら、後退するが間に合わない。


「──フッ!」


 柄で顎を一閃。俺は意識を失った。







《ハッハッ! 俺よりも強え癖に何だそのザマは?》


 どこからか、うるさい笑い声が聞こえた。


「……む」

「目が覚めたのね」


 後頭部が柔らかい。これはまさか……


「膝枕……?」

「言葉にするんじゃないわよ!」


 額にチョップされた。痛い。

 本当、エリーの手の出す速さが前よりも早くなったな。前は内向的だったせいで、逆に感情が剥き出しになったんだろうか。


 それにしたって俺でなければ、暴力の域だ。

 竜殺し(レイア)の下で修業していたって言ってたっけ……


「……気操流だって剣聖ソードマスターの技でしょ?」

「んん……」

「あんたって意外と頑固よね」


 頑固なのかな。

 俺は、単に師匠を超えたい。負けたくない。

 そんな気持ちでいることが頑固なのだろうか。


「十分強いのに……どこまで強くなるのよ」

「……いやぁ、まだまだだよ」

「………そう」


 俺は、作った白い気剣を眺めながら、その光景を思い出す。


《『十束剣聖フラガラッハ・ブレイカーズ』》


 これは追憶。


《さあ、竜神ともよ────》


 最弱から剣の頂点へと上り詰めた剣士。

 ──────『剣聖(ソードマスター)』の最後の物語だ。







読んでくださり有難うございます。

断章は各、〜2000字程度で、計10話完結予定としております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ