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 間話 六道化



「御方からのお言葉があると言うから来たけど………これで全員なの?」


 巨大な円卓に十六の椅子が並べらているにも拘らず、九名しか鎮座していない。赤髪の女性はトントンと指で机を叩き、誰もが浮かない表情を浮かべている。


「ああ、青は全隊撤退。ファントムが茶のハート、ドラゴンキラーが赤のクラブとスペード、ライトニングが緑を………団ごと潰したのだ」

「……精霊の寵児め、いまだに強くなるか」


 やれやれとばかり青髪の少年は現状を報告し、薄汚れた小人が歯軋りする。

 続けて、青のローブを纏う魔術師が冷静に述べた。


「確かに想定よりも遥かに強かったが、そこじゃないでしょう。今回の損害は裏切り者(ディーヴ)が大きな損失の原因だろう」

「……内状を知る分、ここまで緻密な対抗ができたってわけか……俺らよりもとんだ道化ピエロやないか」


 ざんばら髪の男は極太の両腕を組み、ため息を吐く。


「でも、我らは救いを認められている。彼は拒絶した」

「然り。救いを得られずに消えた…可哀想な子……」


 小麦色肌の双子が囁くと同時に、再び重い空気が淀む。

 ありとあらゆる戦略、謀略、全てがことごとく潰された。一人の裏切り者の存在だけでここまでの損害を被るとは思えなかったからだ。

 そして、もう一人。一因となった存在がいる。


「ねぇ、今回は黒ハートにも責があると思うけど、その辺どうなの?」

ブルーハート、黒に責を求めるな。───消されるぞ」


 あくまでも一因。彼女の暴走で崩れかけていた計画の最後の一手が破綻した。

 本来であれば黒ハートは地下聖堂からの脱出後、ライトニングが来るまでの間に、裏切り者が緻密に組み上げた基盤ごと破壊する打算だった。しかし、どういうわけか彼女はそれをしなかった。


「でも、実際そうでしょ? あの女が暴走しなければもっとマシな結果が得られたはずよ」

「……おい」

「それにあの女は道化ピエロの中では異端。なんで今回の侵略に組み入れたのか分からないわ」

「…………!」

「何よ? ブルーダイヤ?」


 話をしていた細身格闘の男は口を開いたまま、瞠目していた。そして、他の道化たちもその方へと顔を向けたまま固定されていた。


「はぁい♪」

「!!?」


 その背後には半仮面の少女がニコニコと薄気味悪く笑っていた。


「何々〜?私の噂でもしてたの〜? 私の悪口でも囁いてたの〜? 」

「い、いえ…!」

「君? 君だよね? 死にたい?」


 手のひらに黒球を浮かばせ、空中にも張り巡らされる。円卓に座る道化一同は椅子を弾いて構える。

 一面の弾丸は明らかにこの場を照準とし、全て消し去る気でいた。

 ハートは両腕を大きく広げ、甲高く嘲笑した。


「キャハハハハハハハハハハ♪」


 と、そこへ幼女が扉の傍で酷く怯えていた。


「ひっ……!」


 ───アートが庇った子供?


 ハートはぎょろりと見開いた瞳孔を動かす。

 そして、即座に気がづく。


「キャハ♪ 先輩だったのね」

「……ウキッ」


 少女の口が大きく裂ける。

 茶髪が白く染まり、幼子の体が快活と妖艶さを併せ持った女性へと成長した。そして、赤の棒を地に突き立てて、しゅるりと白の尻尾がうねる。


「白道化のクラブ……⁉︎」


 青ローブの魔術師が呟く。猿人の彼女は、黒道化と対立位置に存在する、白道化の一人。彼女がここに現れたこと自体が異端だったのだ。


「ウキキッ、随分あの狼人に執着だったねぇ?」

「キャハ♪ 猿真似先輩、来てたんだぁ?」


 間髪入れずに弾丸を白道化のクラブに向けて放った。軽くジャンプでかわされ、次々と空中に停滞した弾丸を解放する。


「ウキャキャ! そんな攻撃喰らわないもんね〜」

「キャハハ♪ 先輩ってば、そんな尻振りまくって誘ってるんですかぁ?」

「安い挑発にも乗らないよ〜 じゃあねっ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら扉の闇へと消えていった。


「キャハ♪ 逃がさないよぉ」


 ハートは体を宙に浮かばせて追っていく。

 魔弾に撃ち抜かれ、木っ端微塵になった扉を呆然と道化たちは眺めていた。

 赤髪の女性が開いた口をどうにか動かした。


「な、なんだったの……?」

「いや……分からないな」


 ざんばら髪の大男が図太い声で応える。彼のみならず全員が置いてけぼりの状況についていけず、ただ静寂が続いた。

 しばらくして、静かになった空気を斬り裂く声が響く。


【全く………】


 やれやれとばかりの嘆息。

 呆れ気味の声に、道化たちは慌てて片膝をつけた。


【確かに多大な損害を被りましたね】


 こうべを深く垂れたまま、口をつぐむ。

 悪態をついた女性は特に顔を真っ青に染め上げ、息を飲む。様々な要因があれど失敗したことには変わりはなく、彼らはどんな罰を設ける所存だった。


【……ですが、次なる手はもう既に打ってあります】


 予想外の言葉に一同は驚きを隠せなかった。

 

【ふふ、いよいよですよ】


 愉しげに嗤う声が響く。




【さあ刮目せよ。新たな邪神の誕生の時を】




読んでくださり誠にありがとうございます。

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