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41話 白の騎士


 二度海を渡り、村々を訪れ回ったが、伝承ばかりしか聞かず、おろかコロナ帝国やヘーリオス大陸の噂は途絶えていた。コロナ帝国の壊滅以外、全て、だ。


 空を切るような情報取集と旅にも終わりが見えてきた。全ては徒労だった。


 ディーヴ、彼のおかげでかたきを見つけた。

 俺はヤツに復讐するために鍛錬し、二年探した。


「気持ち悪いな」


 街を歩きながらアートは俺の顔を見てそう言った。

 なんだと。俺の顔のどこがおかしいってんだ。


「ひっ……」


 アートの隣にいるカムイに怯えられた。


「いや、もっと怖くなった。何があったのか知らないが、落ち着け」


 もっと…?

 さっきまで俺はどんな顔をしていたんだ。

 怯えられてたから怖い顔をしていたんだろう。

 成人に近い見た目になってからは減ったが、子供の時はざんざん怯えられた。

 ああ、懐かしい。 


「何かいいことでもあった?」

「ちょっと俺の目標に終わりが見えたんだ。それで少しだけ浮かれていたかもな」


 確かにいいことなのかもしれない。

 俺は俺の旅の終着点が見つかった、と言っても過言ではない。そのことでギラギラしていたのかもな。


 正直すぐにでも発ちたいが、ディーヴ曰く、俺単体ではまず無謀だと断言された。ベヒモス王国は完璧なほどの統制で動く獣人の軍隊でシバに匹敵する軍事力を誇るそうだ。


 王たるネロもレイアと張るか、それ以上だという。


 黒道化ブラックピエロ団のハートがこの国に潜伏している以上、ベヒモス王国が何か仕掛けて来る。

 故に、慎重な対抗計画を要し、準備も進めているとのことだ。ディーヴにその時を待って欲しいと言われた。そんなわけで、ここに来たもう一つの目的を果たすことにしたのだ。


「あ、どこに行くの?」

「友達に会いにな。お前らもついてこなくてもいいんだぞ?」

「ついて行くよ!」

「でしたら私も」

「…私は大剣を受け取りに行ってそのまま帰る…」


 ディーヴからエリーについて聞いた。

 薄々そうかなぁ、とは思っていたが、あの純白の騎士がエリーらしい。

 名前がエリーゼで、リゼという略称になっていた。

 全身が鎧に包まれていたから全然わからなかったが、なんとなくあのツンツンした雰囲気は間違いなくエリーだ。

 確か大魔導士のメズヴを打ち勝ってS級冒険者になったんだとか。


「アートはどうやって気づいたんだ?」

「におい」

「だよな」


 アートはすでに気づいていたそうだ。

 気づいていたんなら教えろと言ったが、「聞かれなかったもんでな」と言われた。

 ひでえな。


「ここら辺にいつも修練しているって聞いていたんだが…」


 小路の奥にあるうっすらと太陽の光が差し込める場所だった。

 昼中にはいつもここで剣を振っているそうだ。


「待つか」


 俺は日陰に入り、瞑想の構えに入る。

 戦闘時に使う”気”に乱れが発生してしまうと、剣を作れず、身体能力強化もできない。

 その例が教会の件だ。前の晩に瞑想もまともにできなくて”気”が乱れた。


「協会の時、拳痛そうだっけど大丈夫?」

「ん、『超再生』で即座に治っている」

能力スキルがあるからって傷ついていい訳じゃないんだよ」

「…おう」


 あの時はただ単なる『剛力』でぶん殴った。拳は痛かったが、その時は痛覚も忘れて『超再生』で問題はなかった。

 精彩が皆無な戦いだった上、俺らしくもなかっただろう。

 アートと約束もある。アンラには頼らない。

 教会のような戦いはしない。


「ねえ、あの人?」


 指の指す先は袋にパンやら野菜やら、詰め込んで走っている桃色の長髪の少女だ。

 エリーは銀髪で灰と青のオッドアイだ。

 違う。


「ユニのところで宴をやった時に、一緒に来ていたあの白い騎士が俺の友達だ」

「あっ、あの人が?」

「そうだ。子供の時に初めて友達になった」

「へぇ…」


 うーん、とエンジェは唸った。


「あ!もしかしてレイアと一緒にいた子かな?」

「会ったことはあるのか」

「うん、でも見かけただけで面識はほとんどないかな」

「ふむ」


 それもそうか。

 エンジェが家出した時とエリーがシバに来たの時期を考えてみると一年ほどだ。実際はもっと長いかもしれないが、エリーはあまり積極的ではなかった。玉座の間で一度会った時の反応を見てみても変わりはなさそうだった。

 …そんなエリーがS級冒険者でシバの第三戦力に数えられているとはな。

 正直会うのが少し怖い。


 それにしても…数刻ほど待ったが来ないな。

 ここを差し込める太陽も沈みつつある。

 今日は諦めるか。


「俺は一旦、宿に戻る」


 王宮で部屋借りるのも悪くはないが、さすがにお世話になりっぱたしは駄目だ。

 俺は早速、先日にもらった報酬で宿を取った。

 名前は”小鬼のねぐら”。取り出すのが面倒だが、一日銅貨50枚。村々での宿よりはかなり高いが、シバの中では格安だ。

 狭い部屋で設備は机と2段ペットだけ。俺はずっと部屋でくつろぐことがないため、戻った時に最低限の寝所があれはそれで良い。


「もう? もう少し待たないの?」

「ずっと待っていても来ないかもしれない。また次の日に出直すさ」

「そっか…今日は任務を取らないつもり?」

「ああ。適当な図書館に寄ろうかと思っている」

「夜はうちの御用達で一緒に食べようよ!」

「ほう、それは興味あるな」


 堅苦しそうな気はするが、前世では触れたことのない文化だ。

 シバの定番といえば”柴魚”だ。前世の知識でいう、淡白な白身魚で、シーラカンスの頭部にツノが生えたような見た目をしている。それの高級品が出るのだろうか。

 あ、冒険者のようなナリでは無礼かな。

 少しこの装備と服、汚れているしなあ…服買った方が良さげか。


「ん?あれは……」

「なんか危なそうだよ!助けないと!」

「そうだな」


 小路に白いワンピースを着た少女が大漢二人に囲まれている。


 白帽子を深く被った女は、すんと突っ立っていた。


「結構金持ってんだろ?俺らぁ、金がなくて困ってんだよ」

「おとなしく金をよこしてくれたら乱暴にゃしねえぜ。くくっ…約束はできんがなぁ」

「お…よく見たらあんた、かなりの上玉だな」


 規律正しいこの国でもこんなことあるんだな。

 と、俺は踏み出した途端、信じられない光景を見た。


「へっへっ、どれ、味見させてくれ──」


 突然、大漢は宙に回転して頭から落下した。

 うぐっと呻き声をあげ、気絶する。


「あ、兄貴……?」


 唖然とする残された大漢。

 俺も唖然している。エンジェもだ。


「汚い手で触るな」


 帽子から覗く灰の瞳が見下していた。


「テメェッ!」


 怒りを露わにした大漢は腕を振り上げるも、一瞬で腹部に肘を深く刺さった。


「ぐぇっ! このア…」


 すかさず、顎に掌底一閃。意識が飛んだ。


「おお…」


 なんという早業。特に最初の捻りが見事だった。

 大漢から伸びる手を捻り、よろめく足を蹴り飛ばして、宙に浮かばせた。

 まるで合気道だ。


「わぁ…すごい…!」


 と、俺はエンジェの言葉で我に返る。

 一瞬だけ見えたあの灰色の瞳…見間違いじゃなければ、彼女がエリーだ。

 謝らなきゃだけど、いきなり謝っても困惑させるだけだ。

 やあ、元気だった…?いや、軽すぎるな…

 ……何から話せば… 


「え、エリー」

「ひぃぅ!」


 とりあえず声を出したら案外低い声が出た。

 そして、懐かしい怯えた声が聞こえた。


「あっ、ああ……!」

「やっぱりエリー…」


 灰と青のオッドアイで、綺麗な銀の髪だった。

 清楚な顔立ちながらも力強さのある瞳。

 美しく成長した姿と裏腹に、そのオドオドした動作は子供の時と変わらない。

 そうだな、まずはこう言うべきだな。


「久しぶ…」

「あっ、逃げた」


 いつの間にか白帽子を残して消えていた。


「ま、待て!」


 早速追いかけるも、エリーが早い。

 俺でも速度には自信があったが、どんどんと引き離されていく。

 もうあんなところにいる。


 すると、俺の横からアートが飛び出した。

 やはり足の速度は相棒のほうが早い。

 ……ってあれ、アート早くなったか?


「あんた、誰よ!」

「アベルが待てと言っているんだ。話くらい聞いてやったらどうだ」

「どっ、どいてよ!」


 右に行っても塞がれ、左に躱しても塞がれる。

 二人で反復横跳びしてる。


「いい加減に武力行使するわよ!どいてよ!」

「どかない。来るなら止めるまでだ」

「そう、なら行くわよ!」


 雑音のようなブレた詠唱が聞こえた。


「白き女神よ、光如き足を我に『光動』!」

「──ッッ⁉︎」


 アートがいつの間にかねじ伏せられている。

 一瞬エリーが光った直後、アートが地を伏していた。

 エリーは抑えつける手をすぐに離して行った。

 仕方ない。


「『雷功』」

「うっ!」


 俺は即座にエリーの前を取り、加速状態を維持したまま、『圏域』の感知力をできるだけ『気圏』に近づける。

 これで閃光で目を潰されようとその存在を把握できる。


「白き女神よ」


 魔力の筋を感じる。

 白い光の線が横に伸び、俺の横を通っている。

 これは…移動の道。


「なるほどな」

「光如き足を我に『光動』」


 加速化した俺は、横を通る白い線の先の、先を取る。

 そこにエリーが瞬間移動してくる。


「うぇっ⁉︎」


 驚くエリーは足をつまづかせる。

 飛び込んで来るエリーを後退しながら受け止めた。


「あ……」

「…ごめんな、放って」


 か細く騎士というには軽かった。

 この体でS級に至ったのか。一体どれほど……


「……アル」


 エリーはきゅうと俺の服を握りしめていた。


「俺の、自分勝手で悪かった」


 しばらくしてエリーは押し出して離れた。

 そして、震えた声で溢した。


「ほんとよ……4年間も何やってたのよ…!あんな場所に放り出されて、シバに連れてこられて訳が分からなかった。知ってる人は誰もいないし……」

「………」

「ひとりぼっちで…アルがいなくて寂しかったのよ」

「……ごめんな」

「気付かれなかったし……」

「……ごめん」

「でも、アルが生きていることを支えに…今度は私が守ってやるって……頑張ったのよ……」


 そうだったのか。

 それで、S級にまで登り詰めたのか。


「なのに……なんで……」


 弱く胸を叩かれる。

 二発、三発で俯いた。


「なんでまだあんたの方が強いのよ…!」

「…エリー、俺は強くない」

「たった一日でS級になったって聞いたわよ」

「俺もがむしゃらに頑張ったつもりだが、上には上がいる」

「………嘘」

「嘘じゃない。俺は弱い」


 怒りに我を忘れた力は、強さではない。

 弱さだ。


「俺は支えてもらわないと、ただの癇癪持ちのガキだ。それでも俺の隣で支えようとしてくれた人がいる。俺は大切な存在(それ)を奪わせないために鍛錬をした」


 気操流は仇を討つことと、二度と奪わせないために得た”技”だ。

 この”技”は何があろうと奪わせないために振るう。


「だから、俺の方こそ守らせてくれ」


 要は支え合いだ。

 彼女も、俺も、そのために強くなったのだから。


「………うん」


 エリーは小さく頷いた。

 これで良かっただろうか。


「………」

「………」


 沈黙が続く。心なしか俯くエリーの顔が赤い気がする。

 あれ…さっきの俺のセリフ…告白してるようなもんじゃないのか。

 あーしまった…


「アベル〜……早いよー…」


 遅れてエンジェが来た。

 アートもこちらの方を見て微笑んだ。


「む……ねえ、アル? 大切な人いうのはあの子のこと?」

「ああ。それと、アートもだ」

「……ふーーーん」


 あれ、長い相槌。

 エリーに突然ジト目で見られる。

 嫌な予感が──


「ぐふっ⁉︎」


 光速の拳が腹の真ん中を捉えた。

 みぞおちをクリティカルヒットしたのは久しぶりだ。

 昔はもっとしおらしかったのに……。

読んでくださりありがとうございます!

次話予定「修羅場」

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