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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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30話 蒼雷と転移


我が願いを付与せよ(ヒェーヴン)


 たった一節。

 俺は上空を舞いながら、ただ一言、祈る。


『…?』


 俺に使える魔術は"気操流"と『雷動』の二つ。

 あとは戦いにおいて役に立たない基本魔術だ。


 基本魔術はいくつか会得しているが、使い勝手の悪いものばかりだ。

 ただ、それは単一の魔術での話だ。使い勝手が悪ければ、良くすれば良い。

 だからーー、組み合わせる。

 『気功』に『雷動』を付与。

 

 そうだな。この技の名はーーー、


「『雷功』」


 俺は体を捻り、岩の剣に転がる。

 そして、蒼い線がアケディの頬を掠る。アケディの背後の地を蹴り、背後を取る。

 無詠唱の『雷動』のようなものだ。本来の『雷動』よりも多少速度は劣るが、アケディの速度を凌駕するほどの速度だ。


『ナニ⁉︎』


 アケディはこちらを向く。そこに、速度に乗せた『剛力』の剣を振るう。

 撃鉄音。アケディの顔面に剣を叩き込む。その巨軀は土埃を捲し上げ、地に倒れるが、即座に体勢を持ち直す。

 全力と全速の一撃では効かないか。逆に剣の方が壊れた。


「『気剣』・山」


 全身に剣を生やす。俺の体に蒼い雷が帯びる。

 まだ足りない。一撃では効かない。

 手数だ。もっと疾く、もっと多くの剣をーー。


「乱刃の型 『渦雷カカミ』」


 凄絶な蒼雷の渦がアケディの全身を襲う。鎧と剣がぶつかる音が何度も響き渡る。


『小賢シイ!』


 アケディはその巨腕と岩の剣(スタヴァンゲル)を高速で振るうが、今の俺からしたらーー、遅い。


 俺は体に雷を纏わせ、岩剣を飛び越えて上空を舞う。

 そして、手元に雷を帯びた巨大な『気剣』生成。


「断刀の型 『裂雷サクカミ』」


 熾烈な雷がアケディを貫く。

 アケディの巨躯が大きく後退する。


『ヌウゥ!』


 この瞬間、アケディの優勢が覆った。


「アート、こっからは俺がる!」


 バヂィ!と俺の体は再び蒼雷に帯びる。


「ーーハハッ!」


 ここから先は俺のターンだ。



ーエンジェ視線ー


「『無音サイレント』」


 キィーンと耳鳴りにも似た音が響く。無音の世界の中、蒼い線が何重にも輝く。

 今、絶大な魔力を保有するゴーレムをアベルが一方的に攻撃をしている。ゴーレムも負けじと反撃を開始した。巨大な岩剣と蒼雷が衝突を繰り返している。

 もはや別次元の闘いだ。アートもすでに置いてけぼりだ。


「スッゲェ…」


 カムイはその戦いを惚れ惚れと見ていた。小鴉丸もその戦いをただただ、見ているしかなかった。

 無理もない。圧等的力量差のあるゴーレムを一方的に攻撃して後退させているのだ。


 だけど、明らかにオーバーワークだ。

 あの超速度で何度も移動攻撃を行使していると普通は体が壊れる。そして、アベルとて例外ではない。恐らく種族能力シュタムスキルの『超再生』により、再生を繰り返しているのだろう。

 つまり、何度も体を傷つけながら戦っているのだ。

 全身に激痛が走っているはず…


「…」


 私はその戦いをよくよく目を凝らす。

 すると、一瞬だけアベルの姿が見えた。


「アベル…!」


 血涙を流し、口や耳に血が流れ出ていた。

 やっぱり超速に再生が付いていけていない。

 いずれ限界を迎えてしまう。

 あの早いゴーレムの頑強さも看破できていない。このままではアベルは…負ける。

 どうしたらアベルを助けられる?


「ーーー?」


 再び私の視線の先にアベルの姿が見えた。

 それだけではなく、後ろを向くアベルの視線が合った。そして、後ろに隠した左手を広げ、地面を指差してから剣を生成して握った。

 何か伝えたいのかもしれない。考えてみよう。


 アベルの左手には透明な剣を持っている。剣を取れ…? いや、剣を扱えない。

 剣ではないのなら何?左手には…空間収納魔術が仕込まれている。空間収納…別次元に物体を移動して収納…

 物体移動?転移ヴァンデルンを使えと言っているのかな?

 では、どこに仕込む?何度もあの岩下を指差している。多分あそこの岩下に仕込め、と言っている。

 

 だが、何を対象に転移させればいいのだろう…ゴーレムかな…あの大きさは転移できない。

 ーーーあ、左手には…


「小鴉丸、魔力をちょうだい!」

「え?」

「早く!」

「は、はい!」


 小鴉丸は私の手を握る。蔦の地面を突き破るのに魔力を消費してしまった。

 転移ヴァンデルンを使用するために小鴉丸の魔力を借りる。

 ただ、問題は設置とタイミングだ。


「…そうだ」

「エンジェ様?」


 魔力をほぼ全て譲渡して座り込む小鴉丸。


「小鴉丸、そこで待ってて。カムイ、彼女をお願い」

「…む?何かする気だな。了解したぜ」

「まさか…エンジェ様!」


 アートならばあの戦禍中を潜り抜けられるはずだ。

 私は小鴉丸の声を無視してアートの元へ向かう。


「ああ…エンジェか。どうした?」

「アベルを助けたいの。力を貸して」

「あの戦いに俺たちが介入しても邪魔になるだけだが…まさか、アベルの指示か?」

「うん、あそこの岩に『転移ヴァンデルン』を仕込めって」


 アートは目的の岩に視線を向ける。


「…なるほど、隙を作る気だな。…わかった」


 私はアートの背中に乗り、アケディの視界に入らないようにアートは移動する。幸いアベルが『無音サイレント』でゴーレムとアベルに音が届くことはない。

 …まさか、ここまで見越して?


「やっぱりすごい…」


 ぼそりと呟いているうちに目的の岩に辿り着く。

 あっという間だ。さすがアート。早い。


「ありがとう」

「早くしろ。こっちに近づいてきている」


 ゴーレムとアベルの衝突が少しずつ指定の岩へと近づいてきている。早く設置しないと。

 ガリガリと私は岩に術陣を描く。そして、詠唱。


彼方かなたを今、ここに繋ぎ止めん」


 魔術陣が紅色に輝く。次は設定だ。


「転移空間ーー指定。自魔力連結ーー完了」


 これで私の好きなタイミングで岩から約半径1メートルの範囲にある物を転移させることができる。


「よし、離れるぞ」


 アートとともにその場から退散する。

 私たちは円柱の影に潜み、タイミングを伺った。


「はぁっ…よく見ろ…その時を見逃すな…」


 チャンスは一回。

 失敗すればアベルが死ぬ。そして、私たちも死ぬかもしれない。

 よく目を凝らして戦いを見ろ。その一瞬を見逃すな。もう助けられてばかりは嫌だ。

 今度は、私が助ける。


「ーーー!」


 ついにその時が来た。

 剣と剣がぶつかり距離を取るように蒼雷が岩の後ろへ落ちる。煙から現れたのは血みどろのアベルの姿だ。

 そこへ、ゴーレムは隙だと見たのか、凄絶な速度で一直線に突進した。

 アベルの手前で剣を振るう。

 ーーーそこだっ!



ーアベル視線ー


 継続的に超高速で移動し続けた俺の全身に鈍痛が走る。肺も腕も脳も、ギシギシと圧迫する。魔力も無い。

 だが、時間稼ぎは充分、アケディを倒す一撃を用意できた。俺は軋む腕を動かし、神胤に手を添える。

 あとは一瞬の隙だ。この刀を解放する隙が欲しい。その一瞬をエンジェに託した。

 エンジェ、頼むーー!


『終ワリダ!』


 巨大な剣が迫り来る。

 そして、岩が煌々と輝く。


「『転移ヴァンデルン』!」


 アケディの巨大な岩剣を別の場所へ転移。

 何も握っていない拳がアベルの眼前を空振る。

 

『コレハ…転移ヴァンデルン…!』


 俺はつい笑顔を溢してしまう。

 神胤の解放には少し溜める必要がある。殆ど賭けだったが、良いタイミングで剣を飛ばしてくれた。

 隙は充分。溜めも充分。これでーー…終わりだ!


『グ…ヌゥ!』


 アケディは後退するが、俺の方が早い。


「『断界』!」


 俺は抜刀の型から薙ぎ斬る。

 堅強なゴーレムの体ごと、空間を断つ。

 胸部が裂かれ、パキンと核の砕かれる音が聞こえた。


『ーー…』


 二歩後退したアケディは、斬られた体を省みた。

 そして、裂かれた胸部に手を添える。


『マサカ…我ノ最速ヲ超エ、我ヲ斬ルトハナ…』


 アケディの体が少しずつ砂へと散りゆく。

 核なきゴーレムは地へと還るのだ。


『ソレニ…』


 エンジェの方に顔を向ける。

 岩の顔がふっと笑ったように見えた。


『ーー…認メヨウ。怠惰ノ試験、貴公ラノ勝利ダ。御前ニ失礼ノナイヨウニナ』


 その言葉を最後にアケディは散った。


……


 俺はふらりと前へと落ちる。

 そこにアートの腕が俺を支えた。


「…すまなかったな。役に立てなくて」

「はは……そんなことないさ…お前もいなかったら勝てなかった」


 掠れた声しか出なかった。アートが俺を叱ってくれなきゃ折れていたかもしれないのだ。

 俺は本当に怠惰だ。誰かいなきゃ弱い人間だ。


「はぁっ…スゥー…」


 魔力回復に努めるも、疲労困憊で体が動かない。

 だが、これでまた一つ強くなれた。


「少し横になれ。楽になる」

「ああ…ありがとう」


 アートが地に寝かしてくれた。

 蔦の天井の横からエンジェの顔が覗く。


「アベル!大丈夫?」


 心配そうな顔で俺を見ている。

 そうだ…今回の戦いはエンジェのおかげで勝てた。


「エンジェ、ありがとうな」


 俺は思わず、エンジェの頭に手を置く。エンジェはそれを拒まず、受け入れた。

 今思うと女が男を撫でるって変な感じだな。

 まあ、エンジェは元々女で、俺も元々男だ。構いやせん。


「やったな」

「エンジェ様…もう…!無理はしないでください!」


 カムイと小鴉丸もやってくる。小鴉丸は早速とばかり、エンジェを叱った。


「エンジェ様の身に何かあったらどうするのです!貴女が死んだら叔父様や叔母様に顔向けができません!」

「ご、ごめんって…」

「ごめんで済むことではありません!」

「小鴉丸、それくらいにしてやってくれ。今回は俺が頼んだことなんだ」

「それはそれ!これはこれ!アベルは黙ってなさい!」

「うぉぅ…」


 珍しく俺に反言し、そのまま説教を続けた。

 すまぬ、エンジェ。


「なあ、アベル」


 カムイが俺の隣にどかっと座る。


「お前を追い詰めたあのゴーレムは一体…?」


 そうか、知らないんだったな。


「奴はアケディと名乗っていた」

「…あの守護神と呼ばれた?」

「ああ、それで間違いない」


 アケディは魔王と呼ばれていた。

 それも、先代・・魔王だ。現在の魔王ディアの領域を支配していた元魔王だ。一度(いか)れば凄絶な怪力と頑強さを発揮し、動けば動くほど加速していく初代守護神のゴーレムだと伝えられている。

 俺がデルラの樹海で見たゴーレムはその継承者だ。


「さすがだな、それでこそ超え甲斐があるってもんだ」


 ハッハ、とカムイは笑った。

 これから毎日勝負でも挑まれるんだろうか。


「あの斬撃は見事なものだった。あの斬撃に絶大な魔力を感じたのだが…魔力の無い身であれを放てたのはなぜだ?」

「ああ、それはーー…」


 神胤は二つの特性がある。

 一つは、原初の炎(アドラヌス)戦時に使用した”浄化カルタシス”。

 もう一つは、”気”の装填。つまり、刀自体に気を溜めることができる。

 俺はカムイと戦った後、神胤は使っていない。『雷功』発動中、己の気で生成した剣で戦った。持ち前の『気剣』とは別に、神胤に”気”をずっと溜めていたのだ。


「ということは…己が魔力を溜めておくことができるってことか?」

「そうだ。ややこしいが、気も魔力の一つだからな」


 俺は日頃の瞑想により、気を注入し続けている。一度、魔神戦で全ての”気”を使い果たしたが、それ以降少しずつ溜めていた。カムイで消耗した”気”も含め、あの瞬間(・・・・)『断界』の境地までに至れたのだ。


「”気操流”…か。どんな鍛錬をするのだ?」

「んー…秘密、だな」

「ちぇっ」


 一応、神胤を介さずに『断界』は使えるが、使用後にしばらく"気操流"が使えなくなる。その上、溜めがもっと長くなる。今回のような詠唱の間を潰してくる奴には使えない。


「…」


 神胤、それはジン師匠の遺品。

 師匠なしで勝ち得ることはなかった。

 そして、母親の魔術なしでも勝てなかった。


「お母さん、師匠、感謝します」



◆◇


 しばらくして、地響きとともに巨大な扉が開いた。

 その音に小鴉丸の説教が止まった。よかったなエンジェ。

 とにかく、俺も戦えるほどではないが歩ける程度には回復できた。


「大丈夫か?」

「ああ…行こう。ゼインがいるかもしれない」


 俺たちは扉の中へ入る。

 蔦の洞窟が続いているが、奥に光が溢れている。

 そこがゴールであるように優しく光が俺たちを差し込めていた。


「…一応警戒はしろよ」


 全員ひと頷きした。みんな分かっているようだ。

 奥にはアケディよりも巨大な魔力を持つ存在がいる。

 一応、アートの鼻に敵意は嗅ぎ取れていない。

 戦う気は無いようだが、その気になれば一瞬で全滅するだろう。

 慎重に洞窟を抜け、一瞬視界が真っ白になる。


「ーーー」


 そして、白の世界が拓ける。

 そこには荘厳な一本の大樹が聳え立っていた。

 薄暗い大樹の影から垂れ出ている実が輝き、星天のようだ。

 そして、星天の大樹の麓に何者かが佇んでいた。


「綺麗…」

 

 と、エンジェは声を溢す。

 透き通る真っ白な肌に、

   星の輝きを束ねたような黄金こがねの髪。


 どこか懐かしい雰囲気を纏う少女が眠っていた。

ーー

読んでくださりありがとうございます!

元・魔王との戦いが決着…自分の肌を鳥肌立たせながら書いてみました。如何でしたでしょうか…(震え声

そして、ついに次話で迷宮主の登場…!

次話「星天下に眠る幻想」

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