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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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29話 魔王アケディ



 円柱の蝋燭に火が灯り、暗闇が明ける。



『アノオ方ノ契約ニヨリ、全テノ力ヲ解放シヨウ』



 アケディと名乗ったゴーレムの体が刺々しく変貌する。赫赫とした魔力を纏う黒き鎧のゴーレムだ。


 その様はまさにーー”魔王”。


 肌がピリピリとする。俺の本能が警鐘する。過去の中でも三指を数えるほどの存在感。他のゴーレムと比べて小回りな体躯ながらも、全てを圧殺する重圧が俺にのしかかった。


 ーー間違いない。こいつだ。


 こいつが一帯のゴーレムを粉砕した存在だ。


『我ニ挑メ 小サキ者ヨ』

「そうさせてもらおう」


 俺は『気功』を発動し、アケディの顔面に剣を振り上げながら飛びかかる。

 先ほどと同じ、先制攻撃だ。


「ヒュォ」


 俺は一息吸い、無数の剣戟をくらわせる。

 顔面、肩、腹部を集中的に斬った。バチバチと火花を放ちながら後退するアケディ。

 だが、決定打になっていない。先ほどとは違い、鎧が異常に硬い。


「っだらぁ!」


 剣を持っていない左拳を全力で振り抜く。

 そして、再び剣戟を放ち、少しずつ鎧も削れている。このまま押していけば、勝機も見える。

 ーー…だが、効いているのか…? 妙なほどにアケディが無気力だ。

 ただ受けているだけで、何の抵抗もなく、だ。



 瞬間、巨大な岩の拳が眼前に広がる。



「ッッ!?」


 右上半身に凄絶な衝撃が響いた。

 俺は意識を失わないよう、歯を食いしばり、足を踏みしめる。


『コノ状態デ、ココマデ鎧ヲ削ラレタノハ久シイ』


 鎧は自己再生していった。先ほどまで欠けていた傷跡が全て、元通りとなった。全ての攻撃が無意味。

 どれだけ攻撃を積み重ねようと、どれだけ押し込もうと、たった一撃で俺の優勢が覆されたーー


「『気…鎧』!」


 二撃目。

 辛うじて、鎧を纏うが砕かれる。


「ーーッ! 『気功』!」


 俺は距離を取る。

 そして、手に剣を持つ。


「『気剣』!」


 アケディは眼前に巨大な岩の剣を持った。


岩剛剣スタヴァンゲル


 その岩は赤く、轟々しく、巨大で、全てを叩き割る重厚さを感じた。

 そして、アケディはゴーレムという鈍臭そうな見た目とは思えない速度で剣を振るった。


「なっ⁉︎」


 俺はその剣をじかに受ける。足を踏み、耐えるが吹き飛ばされる。

 手が痺れる。あの、魔神の魔弾以上の威力だ。


「雷神よ、雷如き足を我に『雷動』!」


 俺は弾かれた瞬間を狙い、詠唱を完了。

 アケディの懐に飛び込む。


『ヌッ!』

「『気剣』・山!」


 全身から剣を生やし、回転。刃の渦だ。ゴーレムの鎧を削ぐが、致命傷ではない。

 背中を痒く程度のダメージだ。ゴーレムは針鼠と化した俺ごと、剣を振るった。

 俺の剣を砕きながら岩剣が迫ってくる。


「『気鎧』」


 俺は地を蹴り、背後に飛ぶ。衝撃を流しつつ距離を取った。


「雷神よーー」

『逃ガサン』


 アケディの速度が上昇する。

 剣で防ぐも詠唱を潰される。そして、受けた俺の右親指に岩剣が沈む。


「くっ!」


 俺は距離を取りつつ、右手を抑える。

 右手はジュゥウ…と煙を立てる。『超再生』を行使しているのだ。

 後退に専念するが、すでにアケディは俺の側面で剣を構えていた。


「『気剣』!『気鎧』!」


 両肩から生やした剣で受け、鎧で耐える。


『超再生カ。ダガ、イズレ限界ヲ迎エルダロウ』


 俺の指は再生完了した瞬間、ブンッ!とアケディがブレる。

 背後から剣が迫るが、体を屈んで回避。次は右!


「『気剣』」


 剣で岩剣を弾いて上方に逸らす。

 そして、縦横無尽に攻撃される。俺は剣を弾いて弾いて流し続ける。

 岩の巨剣が右、左、後ろ…前!


「ヒュッ」


 迫りくる岩剣に剣の切っ先を添える。

 潜り込むように左足を前に踏み出し、体を逸らし気味に、岩剣を後ろへと流す!


ズッドォオオオオ!


 と岩剣が俺の刀に滑らされ、壁に衝突するゴーレム。

 そのまま左足に力を込め、がら空きとなった背首を刈る!

 響音、剣と剣が衝突する。鉄の響く音が浸透していく。


『ヤルナ』

「…ち」


 剣を挟み込んで止めやがった。魔王と称するだけの強さがある。隙が無い。

 ここで俺は飛び、距離を取る。

 迷宮主戦に取って置きたかったが、仕方ない。【修羅アレウス】を発動する。

 隙がないのなら、こじ開ければ良い。


「飽くなき闘争のーーッッ!?」

『ソレハサセン』


 詠唱の間も与えてくれないか。このまま受け流しを続けても負けは明確だ。パワーもスピードもディフェンスも全て俺の上を行く。しかもスピードはまだまだ上昇している。

 現在の俺の手札で、アケディの速度について行けるのは雷移動魔術、『雷動』のみだ。

 それ以外に対応できるものがない。


「ぐーーッ!」


 移動速度がさらに加速する。


『貴様ガ邪神ヲ継グ者ダロウ?』


 加速したアケディは攻撃しながら喋る。


「知っているのか…ぐッ!」

『アア、全テアノオ方ハ知ッテオラレルノダ』

「それは後ろの扉の中にいる…迷宮主か…ッッ」

『ソノ通リ、我ハタダノ守護者。我ハ試験。アノオ方ニ会イタケレバ、我ヲ超エロ』


 何が俺ならば余裕でクリアできるクエストだッ!

 ふざけんな!


『サモナクバ、我ハ貴様ヲ殺スダロウ』


 さらに速度が上昇する。

 ランダムに撃ってくる魔神の魔弾とは違い、正確にアクションの予備動作を潰してくる。反撃の余地すら与えてくれず、俺はひたすら流し続ける。

 呼吸も次第に乱れ、体力も徐々に落ちゆく。


……


「はぁ…はぁ…」


 何度も何撃も受け流したが、限界。

 まだ剣は作れるが、もはや【修羅アレウス】を使う魔力が足りない。

 発動したとて、十秒も持たないだろう。


『我ヲ相手ニココマデ持チコタエルトハナ』

「はぁっ…はぁはぁ…!ッッ…『気剣』」


 俺は息を飲み、剣を手に握る。


『ソノ闘争、称賛ニ値スル。健闘ヲ讃エテ一思イニ殺シテヤロウ』


 一息を吐き、足を踏み出す。

 瞬間、上空の蔦が爆発した。


「なんだ⁉︎」


 煙に巻かれながら四つの人影が現れる。


「ーーーアベル!」

「お前ら…!」


 天井の穴からアート、カムイ、小鴉丸、エンジェが降ってくる。


『邪魔ヲスルナ』


 ブンッ、とアケディの巨躯がブレる。


「ッッ、よせ!」


 俺は足を踏み出すが、遅い。


「っぐぅ!」

「ぬぉ!」

「ぐわっ!」「えっ?」


 カムイはアケディの剣を三撃ほど受けるが、受け切れず吹き飛ぶ。

 小鴉丸は岩剣の一撃で吹き飛び、エンジェと衝突した。

 小鴉丸とエンジェは気絶した。カムイは壁にもたれ、立ち上がろうとするが立てないといった状態だ。

 三人とももう戦闘は不可能だろう。だが、アートは全て切って悠々と立っていた。さすが俺の相棒だ。


『ホウ…』

「この木偶野郎…アベルに何をした…?」

『貴様、"迅滅狼ヴァナルガンド"カ』

「殺す!」


 アケディの巨躯の前に飛びかかる。


《早イ!》


 予想外の速度に驚くが、その巨躯が再びブレる。


「ッッ!」

「アート!」


 空中を舞うアートを滅多斬りだ。自前の速度でかろうじて全ての斬撃をいなしているが、無理だ。躱しきれない。


「ぐぁっ!」


 アートの脇腹が斬られる。

 殺させるかよ。俺の相棒に何をする。


「飽くなき闘争の権化よ、荒れ狂…」

『何度モ言ワセルナ。ソレハ使ワセナイ』


 またにしても剣を振るわれ、止められる。


「ッッ、くぅ!」


 くそったれ!どうしたらコイツを倒せる?

 最後の切り札もまだ使えない。カムイ戦で少し使ってしまったのが失敗だった。

 このままでは敗北は必至だ…わ。アートがやられる前にやれるかしら…?


「アベーーーール!」


 アートは迷う私に一喝。


「ッ!」

「何だ、その情けねえ面は!俺がやられるとでも思っているのか!」

『ヌン!』

「『破哮砲ハコウホウ』!」


 剣を振るうアケディごと円柱に叩きつける。

 アートがやられる…?そんなの考えられない。アートが死ぬわけがない…アートは強いんだ。今も魔王と対峙してなお生きている。

 でも、力の差が圧倒的なのよ。私はあんたが死ぬのが怖い。死なせたくないの。

 だって私の唯一の相棒なのだから…


「俺が死ぬかどうかで揺らいでんじゃねえ!お前は何のために生きてきた!俺のためか⁉︎」

「ち、ちが…」

「違うだろう!お前は自分のために生きているんだろ!」


 …そう、だ…そうだ。

 俺は俺のために生きて…


「何のために力を手に入れた?何を腑抜けている?

 こんなところで挫けてんじゃねえよ」


 そうだーー…我ながら情けない。

 少し俺は腑抜けていたようだ。ここ1ヶ月間のモメントの町は、俺にとって裕福すぎた。この程度の逆境で挫けている場合ではない

 怠惰スロウスだ。全くもって怠惰スロウスだ。


 奴言った。自分は試験だ、と。ならば踏み越えてやる。

 奴をぶっ壊し、俺は先を行く。


 俺の望みは、復讐。

 俺の全てを奪いし者を殺す。その邪魔をする者が何者であろうと殺してやるーー。

 全力の殺気を込めた目でアケディを見据える。


「それでいい。それでこそ俺の相棒だ」

『ーー…話ハ終ワッタカ?』


 うだうだ迷っている暇はない。今すぐ、こいつ(アケディ)を倒す方法すべを考えなければならない。

 迷うなら考えろ。最適解を導き出せ。

 アケディはもう目の前だ。


「くっ!」

「ヒュッ!」


 俺とアートはアケディの猛撃を凌ぐ。

 こいつを制するには速度が必要だ。そして、頑強さは今の俺には看破できない。


「くぅう!」


 明らかにアートの負傷が増えている。

 俺は『超再生』で再生できるほどではあるが、アートはそんな能力はない。

 アートがやられるのも時間の問題だろう。


 俺も【修羅アレウス】を発動したとて、魔力が足りず十秒すら持つかわからない。この能力を発動しようとしたのは軽率だった。

 結果、やはりあれを使うしかない。

 それには時間稼ぎが必要だ。時間稼ぎをするにはアケディの猛撃を押し返す必要がある。先ほどのように剣を流して強引に隙を作るか?


 いや、無理だ。先ほどのように次は油断してくれない。

 やはり速度が必要だ。アケディの速度を超える手段は『雷動』のみ。

 魔神戦のように並列詠唱を…これも駄目だ。【修羅アレウス】の発動を妨げたのだ。さらに加速したアケディは並列詠唱の間も潰してくるだろう。

 今の俺にできることは何だ?俺の得意な技は”気操流”。

 俺が移動速度を得るには…


 ーーー付与だ。

 使える魔術がなければ、組み合わせれば良い。

 そこで俺の母ーー、イザベルの魔術を思い出す。


「『気功』」


 ”気操流”の技に、『雷動』をーー付与する。


我が願いを付与せよ(ヒェーヴン)


 バリリッ、と俺の体に蒼い雷が疾る。

読んでくださりありがとうございます!

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