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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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25話 帰還者


モメント

パラケルス

コーネイン

ベヒモス

クルアーン


 これら五つの街に構えている大図書館は特指定エリアが存在する。

 持ち出し禁止、写本禁止、魔術禁止、会話禁止、特定の書物に傷をつけたら罰金などといった、厳しいルールが課されているエリアだ。

 最悪、死刑となる場合もあるらしい。


 禁書や世界の深淵に迫る書物などが眠っている。一冊でも得られれば世界を支配できるとも噂されているほどだ。

 そして、それぞれの図書館に役割がある。


 時空 元素 外道 生命 神聖


 モメント図書館に秘められているのは、時空。

 時空を操れる力なのか、見識の力なのか、智慧なのかは分からない。

 ただ分かっているのは他の大図書館よりも、特筆して歴史に関して多くの本が置かれていることだ。

 じゃあ、もしかしたら智恵なのかもしれない。


「ふむ…」


 モメントの図書館はどういう存在か、調べている。

 事前調査というやつだ。

 モメント図書館の異質さは前から感じていた。モメントの、町としての成り立ち方もそうだったが、図書館はさらに異質だ。守られ方も、本の数も、規制もあるのだ。

 あまり気にしなかったが、今回の依頼と調査で確信した。

 モメント図書館はただの図書館じゃない。

 何か、あるということだけは分かるが、

 その何かは分からない。

 そりゃそうか。世界に影響する力を得られるような何かを簡単に、はいどーぞと明るみに出すわけがない。


「むむ…」


 しかし…時空か…なんともいえぬ高揚感があるのだが…なんだろうかこれは…

 いや、これは厨二の呪いだ。

 間違いない。


「ふぅ、特指定エリア以外ではこんなもんか」


 本を閉じる。

 多分5、6冊くらい読んだと思う。

 一冊に1時間程度かかるとして、5時間以上は経っている。


「遅いな」


 今回、同行者にB級冒険者であるエンジェを連れるためには入場許可が必要だ。

 一回、しれっと特指定エリアに入ろうとしたが、当然警備員に突っぱねられたのだ。仕方なくまた一旦ギルドに戻って入場許可申請をした。

 面倒臭い。


「特指定エリアの入場申請にどれだけ時間がかかるんだ…」


 前世では遊園地で並んでも1時間くらいだった気がする。

 世界でも限定された人間にしか入れないエリアだから、諸申請に時間がかかっているのだろう。

 あ、規制に特指定エリアでの魔術は禁止されているんだった。これも関係しているだろうな。


「エンジェ、おい」


 1時間足らずでエンジェは熟睡した。

 最初こそは図書館員に何度か起こされていたが、一向に起きず、寝続けたため放置した。

 特指定エリアなら即強制退場されるが、一般エリアは特に取り締まりはないため、図書館員もあまり気にしないようだ。

 まあ、マナーもあるらしく、気にした職員が何度か呼びかけたが、無反応だったのだ。

 いびきをかいていないだけでもマシだが…うん…

 よだれがひどい。


 溢れ出る唾液。小鴉丸が攫われたというのにこのリラックス。

 どういう神経してんだコイツは。

 まあ、流石の俺も気にして周りに置かれた本を回収して、元の場所に戻し、見守った。

 結果、図書館員も寄り付かない領域が完成した(※引いているだけ)。


「起きろ」


 ペシペシとエンジェのおでこを叩くが、反応なしだ。

 仕方あるまい。


「『気功』」


 痛烈なデコピン。

 エンジェの額から煙が出る。


「い…いったあぁああああい!」


 絶叫。


「な、何をするのさ!」

「いつまでも寝てんじゃねーよ。いいからギルドカード見せろ」

「うぅ…」


 渋々ギルドカードを取り出し、俺の手の上に乗せる。


「ふむ、入場許可はすでに降りてるようだな」


 一時的にとはいえ、装飾されている魔石がS級の証であるプラチナ色に変質していた。


「あとは魔術許可か」


 この許可の場合、図書館員から直接連絡が来るそうだ。まだかな。


「ここがモメント図書館なのか」

「行ったことないの⁉︎ 有名な図書館なのよ」

「エマ、バカに期待してはいかん」

「あ? なんか言ったか?」

「何でもございませぬ」


 聞き覚えのあるこの声…

 俺は後ろを振り向くと、牛角の巨大な男がいた。

 そいつは顰めっ面を俺に向ける。


「ぬ…アベル…!」


 リカルドだ。

 ちょっと前に見下した言葉をかけたっきりだ。

 俺も毎日のように任務に出かけていたし、会う気もないため遭遇しなかった。


「こんなところで何を…」

「アベル!あの時はありがとう!助かったよ!」


 ずいっとエマが割り込んできた。

 エンジェ曰く、エマは魔術師らしい。

 あらゆる属性の魔術を扱うことができる万能タイプの魔術師だ。

 ともかく、エマの話は置いといて、あの時って精霊に襲われた時の話かな。


「気にするな。誰も彼も無事だった、俺はそれだけで良い。それに、礼ならエンジェにしてやれ」


 少し微笑みながら応えてやる。

 エンジェのおかげである部分も大きいため、あまり助けた、という実感はない。

 結果的には全体的に貢献できた…のだろう。

 なので、こう答えるしかなかった…

 む、エマの目が丸くなった。どうした。


「なんだ?」

「いや…噂ですっごい怖い見た目って聞いていたけど…普通にイケメンじゃん」

「確かに。あの時とは大違いだ」


 なんと、イケメンだと。前世も含めて初めて言われたぞ。

 やべえ、ちょっと嬉しいかも。

 って、鉢金の忍者のような男は誰だ?

 どっかで会ったっけ。


「どうも、俺の名はカレブと申す者だ。よろしくな」


 おっと、自己紹介してくれた。

 誰だこいつ的な顔してたのかもしれない。

 カレブ…ああ、あの時項垂れていたリカルドのそばに居た奴か。


「俺はアベル。エンジェのPTを組んでる者だ」

「リカルドとエマから話を聞いている。めっぽうに強いと褒めていた」

「おい、言うな!」

「追いついたい相手が見つかっただけでも良いことだと思うが」

「チッ!」


 大きく舌打ちするリカルド。

 どうやら彼は立ち直ったようだ。力無き者は勇者になれない。

 力無き者が巨大な暴力に刃向かうのは愚者のすることだ。

 彼に力はある。

 ただ、力の使い方によっても愚者にも勇者にもなる。

 あの時、緊急招集の時点では力を放棄しただけだった。

 力を使わずただ待っているだけだった。

 それは愚者のすることだ。


「アベル、お前はこの俺がお前を倒す。それまで誰にも負けるんじゃねえぞ!」

 

 指差しでライバル宣言された。

 大声でそう叫ぶリカルド。

 どうやら分かっているようだ。今の彼ではこの俺には絶対に勝てない。

 だが、油断はしない。俺は誰にも負ける気なんぞ無い。


「まあ、ここは図書館だ。静かにしろよ」

「あ」


 あっちで図書館員が「シー!」と、シワを寄せてこちらを見ている。

 渋々指を下げ、いたたまれない顔をしている。

 

「ぬ、ぬぬ」

「まあまあ、ここは図書館だよ。静かにしよう」

「リカルド、どんまい」

「てめえ…」


 わなわなと震える。

 叫びたい気分だろうな。


「それはそうと、エンジェ、魔術の件は大丈夫かな?」

「うん、大丈夫!」

「なら良かった。また分からないことがあったらいつでもおいで。じゃあ」


 リカルドの巨躯がエマとカレブに押されながら、退却していく。

 そのまま行かせるのも悪いな。

 リカルドも男だ。応えてやろう。


「リカルド」

「…なんだよ?」

「いつでもかかってこい」

「……ふん、覚悟しろよ」


 リカルド一行は図書館から出ていく。

 追われている存在というのも必要かもしれない。

 今俺はまさに上だけを見ていた。

 足元を見て気持ちを再認識できる。初心に帰れる。

 そこから得られるものもあるかもしれない。


「んで、エンジェ、エマとはどういう関係なんだ?」


 エマを救出した時もそうだったが、エンジェとエマは近しい関係にあるように思える。

 そうでなければ、躊躇いなく飛び出したりはしないはずだ。


「エマ? エマは私の友達で、魔術の先生でもあるんだよ」

「そうだったのか」


 しまった。

 彼女から魔術を学べば良かった。


ーー


 リカルドらと別れてから小一時間過ぎた。

 俺は『ユベル神話』という本を読んでいる。

 創造神ユベルは五人の神子を生み出した際に消滅し、五人の神子が星を作り守護する話だ。

 五人の神子は星を作り、守護した。しかし、ある一人の神子が裏切り、星を破壊しようとした。

 破壊側二人、守護側三人で争い、その果てに一度、星は消滅したが、生き残った二人の神子が再創造した。

 その星が今、この世界だという。


凶堕ち(ダークフォールン)は破壊側の神子が起源だと言われている…か」


 初めて有益な情報が得られた。

 この世界における凶堕ち(ダークフォールン)はこのユベル神話の破壊側についた神子が始まりだ。

 じゃあ、生き残ったのは破壊側二人…なのか?

 ううむ…この本には、神子A、神子Bのような記載ばかりで、誰が何の神子なのかはっきりとした記載がない。

 伏せときたい情報なのかな。特指定エリアの本を読めば何かがわかるかもしれない。


「さて」


 と、俺は本を閉じる。

 本を元の場所に戻そうと立ち上がり、後ろを向く。


「うおっ」


 人の顔が目の前に現れた。

 久々に声出して驚いてしまったじゃねえか。

 極意『圏域』は解いてはいないんだがな…。


「……ゼイン」


 金髪のチャラそうな男がそこに直立して居た。


「やあ〜、お久しぶりねえ」

「…何の用だ?」

「あらぁ、冷たいわねえ。魔術許可を通達しようと来たのにい」

「え、お前が?」


 何でこいつが来るんだ。

 図書館員から通達来るって話じゃなかったのか。


「そうよぉ。リディックが忙しそうにしていたから、かわりにあたくしが来てあげたのよぉん」

「…なるほど」


 暇だったようだ。


「図書館迷宮に行くんだってねぇ?」

「ああ」

「良ければ、あたくしも同行させてもらえないかしらぁ?」


 戦力面では大いに助かるが、ゼインに益などあるのだろうか。

 報酬か?


「報酬山分けが望みか?」

「んん〜」


 と頭を振った。

 どうやら違うようだ。


「報酬はちょっと頂ければと思うけどぉ、貴方に興味があるっていうのが一番かしらぁ」


 ぎらりとゼインの目に輝くものがあった。

 …少しだけ身震いした。


「それにぃ、あたくしは帰還者ーーー、もとい迷宮踏破者よぉ。役に立てると思ってねぇ」


 何と、このチャラ男、踏破者だった。

 戦力面でも報酬的にも助かる。

 翼竜迎撃作戦ではリディックに任され、総指揮をしたという。

 リディックからはかなり信頼を置かれている。

 リディックが信用するならば、俺も信用しても良いが…

 一応警戒しておくか。


「すまない。S級冒険者の実力は伊達じゃないようだな。だが、裏切るなよ」

「うふふ、念を押さなくてもそんなことしないよぉ」

「俺らは初の迷宮入りだ。色々教えてくれるか?」

「喜んで」


 手を差し伸べてくるゼインだ。

 俺は少し警戒しつつも組む。

 ゼインは俺の手を掴んだまま離さない。


「くふふ…良い手ねえ」

「やめぃ」


 俺の手を両手でぬるっと触りやがった。

 本当に男好きのようだなコイツ。

 

「一体何が…?」


 再び眠りから目を覚ますエンジェ。

 状況が掴めず、目をパチパチと瞬きをしていた。


ーー


 俺たち一行は特指定エリアに入る。

 魔術許可もあってか、人払いも済んでいるようだ。

 誰一人もいない。

 まあ、元々S級冒険者は世界でも五十にも満たない人数だ。

 このエリアが人で賑わうということは永遠にないだろう。


「ウォン!」


 俺の右後ろにはアートがいる。

 どうやらリディックが魔獣の入場許可も処理してくれていたようだ。

 魔獣入場許可と魔術許可、エンジェの一時S級昇格の手続きだ。

 苦労かけさせるな。

 今度、うまい酒奢ってやるとするか。


「この依頼によると特指定エリアに入ってすぐ後ろの壁に魔術をぶつける…」


 煌びやか…というほどではないが、古風で花が彫られているドアだ。

 下手したら、ドアが壊れる。

 依頼によると、に魔術をぶつける、ということだが…大丈夫なのか?


「大丈夫よぉ、よく見てみなさぁい」


 ゼインにそう言われ、ドアをよく見てみる。

 すると、うっすらと結界のような壁が見えた。これか。壁って結界の壁ことだったのか。


「おお、透明な膜があるな。エンジェ、お前に命じる」

「うぇっ!?」


 ビクッと反応するエンジェ。

 まさか、自分に当てられるとは思わなかったのだろうな。

 ”気操流”が魔術に寄るものなのか怪しいため、不安もあった。多分魔術だろうけど。

 しかし、念には念だ。魔術に属する攻撃手段を持つエンジェに任せる。

 理由はある。ちゃんと…した理由なのかこれ。まあいい。


「は、爆ぜよ『爆炎』」


 恐る恐る魔術を詠唱した。

 膜に爆撃がぶつかる。

 すると、ボロボロと空間が剥がれ落ち、本当に暗黒空間が空いた。


「ここから入れば良いのか」

「よぉしぃ、先に行くわぁ。あたくしに付いて来なさいねぇ」


 アートの歩数はどうするんだろう。

 聞いてみるべしだな。


「待て、アートはどうしたいいんだ?」

「アベルが持てば良いんじゃあなぁい?」

「お、おお」


 雑だな。

 まあ、余裕だが。


「いいか?」

「グルル」


 横になるアートだ。

 俺は姫さま抱っこのように持ち上げる。


「うわぁ、すごい…」

「よし、行くぞ。エンジェ、しっかりと俺の足を見てついてこい」

「分かった!」


 ゼインが先頭、真ん中に俺、後ろにはエンジェ、というフォーメーションで暗闇に入る。

 エンジェは歩数を間違える可能性もあるため、俺の足をついて来るように言いつけた。

 俺はアートの巨躯で前が見えないため、自分で数えるしかない。

 えーと、まずは右150歩だっけな。

 1、2、3、4……


……


 ………149、150。右に1歩、っと。

 よし、またさらに右に25…6歩だっけな。


「ゼイン、先に行っているか?」

「うん、今、2歩前にいるよぉ」

「エンジェは?」

「いる!0歩目!」

「よし」


 確認の後、右に歩を進める。

 2、3、4……


……


 ……254、255、256。


「いたっ!」


 後ろからエンジェがぶつかった。

 エンジェは足を後ろに下げるため、足を浮かそうとした瞬間、


「止まれ!」

「…っっ」


 これ以上足が前に行かないように少し強めに声をあげた。

 その声で気づいたエンジェは硬直する。


「俺は今、ちょうど256歩目だ。お前は?」

「えっと…ぶつかった時に一歩進んでしまったから…256歩!」

「間違いはないな?」

「う、うん」

「よし、ゼインは大丈夫だったか?」

「はぁい、今は左2歩目よお。エンジェ、アベルと並列してついて来なさぁい」

「了解!」


 危なかった…下手したらエンジェは暗黒空間におさらばしていたのかもしれない。

 次は、左62歩だな。油断せず行こう。

 油断したら永遠に暗黒空間に漂うことだってありえるかもしれないのだ。

 蟻を数える気持ちで行くんだ。よし。

 左、1、2、3、4……


……


 …61歩。とゼインがまず立ち止まる。


「ストップ。あたくしが今、62歩目よぉ。多分、開かれた空間は歩数さえ間違っていなければ入れるはずよぉ」


 そうか、なるほど。

 最初と同じで一撃、魔術使えば空間は開かれ、閉じることはなかった。

 エンジェが入ってきて初めて閉じたのだ。

 最初から三人と一匹が入って来ることがわかっていたように、だ。

 なら、出口も同じ原理なのだろう。


「頼む」

「はぁい。ちょっと強めに行くよぉ。神聖なる使徒よ、汝の正義を以って悪しき者を浄化せよ『聖絶エゼキエル』」


 ゼインの手元から光が放射された。

 ゼインが使ったのは光魔術ではなく、神聖魔術というものだ。

 通常の光とは違い、闇を払う力の持った光である。

 その浄化の光は闇に対して強力な威力を誇る。そして、その攻撃力は炎と同義とされており、その光に直接、当てられた者は焼かれるらしい。

 その神聖なるビームを以って、虚空を貫いた。

 すると、空間がボロボロと欠落ち、真っ白な光が溢れ出る空間が現れた。


「先に出るよぉ」


 と、まず、ゼインが出る。


「エンジェ、一歩踏んだ後に、同時に入るぞ」

「はい!」 


 俺たちは一歩踏み出した後、開かれた空間に飛び込んだ。

 瞬間、俺の視界は真っ白になった。


ーー


 そして、眼前に森が広がった。


「ここは…?」


 見覚えがある。

 俺は今、広場のような場に光が差し込んでいる場に立っていた。

 俺の周りは蔦が絡みに絡まり、作られた壁。青空以外、全て緑だ。

 そして、前、右、左に一つずつ蔦のトンネルがある。


「む?」


 ふと、周りを見回るが、誰もいない。俺一人だ。

 アートもエンジェもいない。転移か何かで別々の場所に移動されたのかもしれない。


「…妙に胸が苦しいな」


 圧迫されるような感覚だ。

 ここは魔素が濃いのかもしれない。

 それとも、空気が薄いのか。


「どの穴から行こうか…アートやエンジェ、ゼインを探さなくてはな」


 ひとまず、最終目的としては小鴉丸の救出だ。

 その前に集結せねばな。全員で帰還することが最上。

 全員で帰還できなければ、俺にとっては任務失敗だ。

 しかし、あいつらがどこにいるのか全くわからない。『気圏』で感知範囲を広げるが、引っかからない。

 とりあえず、トンネルを軽くチェックして回る。

 早速、違いは発見できた。


前…不規則な風があり、少しだけ奥の曲がり角が見える。

右…少し他と比べて暗く、奥が全く見えない。

左…蔦から生えてくる枝が草のように茂っている。


「前左から溢れ出ている風…魔素も少し濃いな…はぁ…」


 魔術によって発生した風の可能性もある。

 妙に不規則に風が強くなったり弱くなったりしている。


「エンジェあたりが入りそうな気もするしな…っっ…」


 「この穴が怪しい…風もあるし。入ってみるか」と入りそうだ。

 ゼインも察してくれるかもしれない。

 風はトンネル自体に通っている可能性もあるため、あっちの穴も風が通っているのかもしれない。

 うまくいけば、みんなと遭遇する可能性もあるしな。

 リスクもあるが…仕方ない。


「っふぅ…」


 先ほどから胸が圧迫され、呼吸がしづらい。

 もうすでに毒とか空気を薄くする罠にはまったりしたんだろうか。

 俺は胸を抑えるように手で押し込む。


むにゅ


 ………ん?

 なんか、柔らかいものに当たった。

 懐に何か入れていたっけ。

 手を動かしてみる。


もにゅにゅ


 俺は、下方を見た。

 そこに、あるはずの無い膨らみがあった。

 巨大化した胸部ーーー、谷間だ。


「な、なな、何じゃこりゃああああーーー……!」


 蔦の迷宮に絶叫が響き渡る。

 俺の初めての迷宮攻略は始まったばかりである。



ーー

読んでくださりありがとうございます。

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