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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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21話 修羅なる者



「飽くなき闘争の権化よ、荒れ狂え【修羅アレウス】」


 アベルの体から黒い魔力が際限なく溢れ出る。

 幼少期に埋め込まれた、固有能力ウェイクスキル


「ゆくぞ!」


 アドラヌスの体から激しい熱波が放たれる。

 その熱波は肌を焼き、赤く変化した。

 次第に火傷も『超再生』によって回復を繰り返していく。

 瞬間! アドラヌスの白熱化した左足が爆破する。


(速い!)


 隙だらけのライダーキックを放つが、アベルは左腕で逸らす。


「っち!」


 左腕が焼け、肉が溶けたのだ。

 その激痛に耐え、『超再生』によって超速回復を行使する。


「『陽炎』」


 ラーダーキックの体勢のまま、アドラヌスの体が、爆発した。

 赤い炎に巻き込まれる。そして、爆風からアベルが飛び出る。

 全身が焼かれ、爛れる。


「我の熱に耐えられるとはな!」


 大胆にも大振りで殴りかかってはまた、爆破。

 その繰り返しでしかなったのだが、熱量が異常に高くまともに触れられない。

 まるで歩く爆弾…いや、暴れる爆弾だ。


「ハハハハハハハハ!その程度かぁ!」


 アベルは殴りかかるアドラヌスの拳を弾き、蹴りを放つも、

 爆破により、吹き飛ばされる。

 だが、距離ができた。


「『気剣』」


 低く、抜刀の構えを取る。

 アドラヌスは構わず、アベルの前へ飛び出す。


「フッッ!!」


 白い刃が細い線となり、飛ぶ。

 飛ぶ斬撃が、アドラヌスの顔へと迫った。

 アドラヌスは避ける素ぶりも見せず前進した。


「何⁉︎」


 その白い斬撃は、アドラヌスに触れた瞬間、蒸発した。

 高熱と超硬度の体によって無効化されたのだ。

 そして、蹴り。左顎に衝撃が貫いた。


「ぐはぁ!!」

「ハハハハァ!」


 アベルを吹き飛ばし、勢いを止めるように地を滑る。

 アドラヌスは地を蹴り、すかさず追撃をする。

 アベルは手を地につけ、空中を一回転して受け身を取る。

 蹴られた左顎をひとさすりした。『超再生』により問題なく回復していることを確認する。


(耐え切れるか…?)


 既に眼前は炎に包まれた。


「『烈火』!」


 百の火球がアベルを直撃する。


「ッッ!」


 爆炎の中からアドラヌスが現れる。


(大振りが来る!)


 大振りを躱しても巨炎に吹き飛ばされる。

 拳を、足を受けても爆炎がブーストとなり、肉を焼き骨を砕く。

 隙がないように見えるが、微かに隙がある。

 アベルは、大振りを躱す。


「『気鎧』!」


 体に気を纏うが、完全に防げない。

 爆炎に吹き飛ばされる。


「ここだ!『気功』」


 一瞬で受け身を取り、地を蹴る。

 アドラヌスの前に踏み出した。


「『気剣』ッ!」


 爆破した炎は必ずアドラヌスへと収束する。

 その収束する瞬間に攻撃するチャンスがあったのだ。

 アベルは剣を振るう。

 無防備のアドラヌスへと刃が迫るーー。


(取った!)


 だが、アベルは忘れていたのだ。

 考えなかった。

 最初の攻撃(・・・・・)が如何にして消されたのかを。


「……!」


 首を捉えたはずの刃が、消滅していた。

 理由は単純明快だ。

 アドラヌスは常に炎を纏っている。その炎はあらゆる魔術を焼き消す超高熱。


(しまった!逆に隙がーー)


 アベルは後ろを振り向く。

 紅の手がアベルの喉を掴み、赤い彗星が地を走る。


「『紅穿星アドラヌス』」


 地に叩きつけられるアベル。

 アドラヌスは全身が焼け爛れる体を起こすように、首を掴み上げた。


「……その程度か」


 つまらない、とばかり吐き捨てた。


「少し、期待した我が愚かだった」


 大音量で叫んでいた男だとは思えないほど、低い声で喋る。

 『超再生』がなければ即死するレベルの攻撃を止めきれず、すべて受けてしまっていた。

 そして、近接戦で絶大な効果を誇る種族能力シュタムスキル『剛力』が通用しない。

 通用以前に触れられない。気操流による気剣や気衝も高熱により掻き消される。『超再生』もいつまで持つか分からない。

 どれも通用しない。

 残された使える手で通用するのは、【修羅アレウス】と『邪眼』の二つだけだ。


「…」


 アベルの肉が焼け爛れながらも、鋭い眼光は未だに見下すようにアドラヌスを射抜く。

 アベルは掴まれるその手を掴む。


「『陽炎』」


 全身から爆炎を発する。

 その熱に焼かれながらも掴んだその手を離さない。


「………?」 


 アドラヌスの腕を掴んでいるアベルの手が、体が焼かれていない。

 それどころか、爆風の中『超再生』による能力でみるみる再生していった。

 爆熱を無視するかのように…


「クク………」


 みしり、と握る手に力を込める。


「くっ!?」


 アドラヌスはその手を払いのけ、距離を取る。

 握られた腕を見る。


(我の高熱体表に触れられるとは…)


 初めて、アドラヌスの目が変わった。

 アドラヌスは咄嗟に手をなぎ払い、爆炎を放出する。

 その豪火はアベルを包んだ。

 しかし、アベルはその炎をものとせず、口を裂いていた。


「我の炎が効かないだと!?」

「これがわれの中に棲む欠片の権能だ」


 【修羅アレウス】の能力は、「成長」。

 パッとしない能力だが、とんでもない。

 その効果は、魔力がある限り無限に(・・・)進化し続ける能力である。

 自分の中に潜む種族としての能力を引き出したり、鍛えれば鍛えるほど強くなる。

 要するにゲームの中の経験値を倍増させる能力のようなものである。


「よくもわれを… だが、良い。おかげでまたひとつ、われは強くなった…!」


 そして、この能力の特筆するべき点は「受けたダメージに比例して進化する」。受けたダメージの大きさによって己の能力が大きく変動する能力である。

 先ほどまでアドラヌスの猛攻を致命打以外全て受け、アドラヌスの炎に適応した。


「『炎陽』!」


 空から太陽が落とされる。今度は、何もせず受けた。アベルは炎上した地の上を悠々と歩む。


「貴様…!」

「ククク…無駄無駄…われは邪神アーマン、闇により産み落とされし悪意の権化。さぁ、世界よ、再び我が手中に戻れーーー!」


 【修羅アレウス】の能力により、アドラヌスの炎に対する耐性が無効化するレベルに至ったのだ。

 黒い装束が所々焼かれながら炎に揺らぐ。炎上する地に立つアベルは天に手を掲げ、そう高らかに宣言した。


「………と、でも言うと思ったか」

「ぬ?」

「確かにわれの中には邪神の欠片があるが、邪神ではない。われの名はアベル・ヴァイオレットだ。覚えとけ!!」


 ビシィ!とアドラヌスを指差し、叫ぶ。

 つい姓名を名乗ってしまったが…


「……貴様、アーマンではないのか?」

「ああ、違う」

「諫言ではないのだな?」

「当たり前だ」

「…ふっ」

「?」

「フハハハハハハハハハハハ!」


 急に笑い出す。

 大音量でアベルは耳を塞ぐ。


「確かに、お前はアーマンではないな!あの方から聞いた性格とは違う」


 アベルの眉がぴくりと動く。


「お前、邪神のことを知っているのか?」

「いや、あの方からチラっと聞いてな。ここに邪神に似た気配がする、とな。それも悪の意思に染まった気配も同時にあったと聞いてな。邪神は遠方でいたぶり、見下すような下衆だったと聞いている!」


 邪神のイメージが険悪だということはわかったが、邪神という存在は無視できない。

 母親を殺したセトも邪神を言及していた。

 少なからずアベルにとっても関わり深い凶神であるのだ。

 アドラヌスが邪神を知っているのならば、もっと情報を引き出したいアベルだった。


「それがわれだったと?」

「微妙なところだ。貴様が我の攻撃を受け止めていた時、貴様から微かに悪の意思を感じた」

「…」


 アベルの中には邪神の力が埋め込まれている。

 アドラヌスの言う、悪の意思とはそれのことを指すことに間違いはないため、否定はしなかった。


「だが、貴様は悪の意思に逆らい、コントロールできているようだな。まあ、貴様が邪神か否かはどちらでも良い。元々、我々は邪神には関与しない」

「ちょっと待て。悪意の気配に用があったのではないのか?」

「我々はとある凶神を打倒としている。そして、それは邪神ではない」

「…その凶神は”死神”…か?」


 師匠ユージンやエンジェから聞いている凶神は”死神”、”魔神”、今回は除外されているが”邪神”が存在する。

 そして、アドラヌスが真に魔星将の一人だとしたら、”死神”に絞られる。

 もしかすると別の凶神の可能性もある。

 しかしーー、


「知らん」

「…おい」

「我ら魔星将はあの方の僕。あの方のお意思に沿うだけのことよ。あの方の胸中なぞ、我には分かるまいよ」

「…じゃあなぜ、ここに?」

「面白そうだったから」

「その…あの方の意思とは関係あるのか?」

「ない!」

「……」


 要するに魔神とやらが話した内容をチラッと聞いて興味本位でここに来た、ということだ。

 自分勝手にやって来て町が滅びかけた。シャレにならないとアベルは目を細める。


「さて、そろそろ我は帰るが、その前に一つ頼みがある」


 アドラヌスは指一本を立て、ニヤリと笑った。


「一撃だ。貴様の最大の一撃で我を攻撃してみせよ」

「は?」

「先ほど殴打したお詫びと言っちゃあなんだが、我がスッキリしないのだ」

「いいのか?」

「貴様の力を知りたい。貴様の全力を以ってぶつけてこい」

「…」


 完全に受けの体勢に入るアドラヌスだが、無抵抗の人を攻撃するのにはさすがに気が引ける。


「我は不滅。精霊は自然そのもの、そうそう簡単に死にはせぬ。遠慮するなかれ!」


 アドラヌスは大らかに手を広げた。

 アドラヌスの言葉を否定してもいい結果が見えない。

 そう考えたアベルは静かに決心した。


「……わかった」


 ふぅー、と一息をつく。

 

「『気剣』」


 手のひらを差し出し、直剣を顕現。


「形状変化」


 直剣が長い槍へと変化する。

 そして、アベルの体から黒い魔力が槍に巻きつく。


「全魔力付与、圧縮」


 その白い槍は真っ黒に染まった。

 アベルの魔力は闇。


「---完了」


 魔力を全て、槍に込め圧縮した。


「…さて、行くぞ?」

「来い!」


 アドラヌスの体が灼熱と化し、ずぶぶと地面に足が沈む。

 その灼熱の体表はあらゆる攻撃を溶かし、無効化する。

 あらゆる魔術を焼き消す体表だ。


「『黑槍ダーインスレイフ』」


 対し、アベルはその高熱体表を貫くために超高密度に圧縮した槍を生成した。

 溜める時間も与えられていたため、今までかつてないほどの魔力を圧縮することができた。

 その黒い槍を沿えるように投げる。

 アドラヌスの手前に黒槍が迫る。


「---!」


 アドラヌスは思わず、体を横に逸らした。

 槍が、左肩を貫く。 肩の炎が弾け、左腕が宙を舞った。

 黒い槍が後方で弾けた。

 瞬間、後方の森林が闇に呑まれる。


ズドォオオオオオオオオオオオォォォォォォ………


 アベルの魔力値S+。

 冒険者限界値であるSを超えた数値である。その絶大な魔力のほとんどを槍に込めた。

 その闇の魔力が解放され、アドラヌスが作り出した更地と同規模の森林が消し飛ぶ。


「……」


 アドラヌスは少し体をかがみながら、左腕を見る。

 そのまま視線をアベルへと戻す。

 そして、笑う。


「……フ、フハハハハハハハハハハハハハ!!」


 左腕を失ってなお、何事もなかったように笑うアドラヌス。


「…おい、腕…大丈夫なのか?」

「ん?ああ、問題ない」


 アドラヌスは地に落ちている左腕を一瞥する。

 すると、左腕が炎と化し、アドラヌスへと回帰した。


「この通りだ」


 ぱっと左手を広げた。


「…『超再生』か?」

「いや、これは再生ではない。元に戻しただけだ」


 精霊には肉体が存在しない。

 故に超再生は持たない。


「ともあれ、さすがの我でも今の攻撃はひやっとしたぞ! 我の炎をここまで削られたのは久しい」

「…俺もここまで魔力を込めて放ったのは初めてだ」


 魔力を解放し、少し気だる気なアベルだった。

 既に【修羅アレウス】の解放状態も解除している。

 無限に成長続けられるチート能力だが、発動中のみに成長した防御力や攻撃力が得られる。

 つまり発動中にのみアドラヌスの炎が耐えられるのである。そして、発動すると全身から常に魔力が放出される権能のため、時間制限もある。

 そうそう簡単には使えない。それほどの相手だったのだ。


「そうかそうか!その魔力間違いなく、邪神のものではない!安心しろ!」

「言われなくても…」

「だが!あの方ならば問答無用で消すだろう!しもべの我が言うものなんだが、我以上に話を聞かない方だからな!気をつけよ!!」

「なあ、あの方って魔…」


 アドラヌスは脚部を白熱化させ、


「貴様の武運を祈る!さらばだ!ハッハッハッハッハッハゲホゲホ!!」


 足から炎を噴出し、去って行った。

 アベルはアドラヌスが去るのを眺める。

 あまりの身勝手な言動にアベルは呆れざる得なかった。


「…”魔神”だよな」


 アドラヌスの強さを振り返ると凄まじいものだった。

 おそらく魔力を全開すれば、デルラの森全てを更地にすることもできただろう。それほどの内包魔力を感じていたのだ。本気を出せば、先ほどの黑槍ダーインスレイフを相殺することも可能だったのかもしれない。

 結局、アドラヌスは戦いたかっただけであって、勝ちたいわけではなかった。

 要するに--試された。


「ち…まぁいいか」


 まだ魔力は尽きていないが、所々痛む。

 『超再生』で傷そのものは治ったものの、痛みは少し残っている。

 肉体が再生しても、脳内で未だに怪我した、という認識が残っているためである。

 ともあれ、さっさとモメントの町に戻って助勢しなければならない。

 そう思ったアベルは踵を返す。


「確かモメントはあっちだな」


 モメントの方向へ向かう。

 歩を進めようと思ったその時、空間が震える。


「⁉︎」


 空間が震え、大地がカタカタと響く。


「世界が、怯えている…?」

 

 そして、重苦しい空気がのしかかる。


「ッッ!?」


 冷や汗が止まらない。

 そして、気がついたら己の手も震えていた。

 幼少期に死の瞬間を何度も味わったアベルでさえも、恐怖する存在を感じた。


「アドラヌスが暴れていると聞いて来てみたが…」


ピシッ


 と、アベルの後方から何かが割れる音がした。


「入れ違いになったか」


 アベルはその気配の方へ振り向く。

 そこには亀裂が立っていた。


(空間が…?)


 その亀裂の中から感じる存在に、ぞわりと戦慄する。

 空中が剝がれ落ち、黒い空間からそいつは現れた。


「全くあいつは……なんだ?お前は…」


 そいつはみしりと眉間を寄せた。


「…そうか、お前が”アンラ”を継ぐ者か」


 アベルと同じ、

   真っ黒な髪に、

      真っ赤な瞳。


「--俺?」


 アベルは自分とほぼ同じ姿をしている、そいつの存在を疑った。


「消す」


 その紅い眼光に絶望する。


「---」



 そいつは、”魔神”。



--

読んでくださりありがとうございます。

次話「運のない邂逅」

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