➤27話 迷宮攻略⑥ 再会と連携
パリパリ、と体が帯電している。下手すれば自身が感電させてしまうため出力の調整は戦いながらになるが、今はこの状態を試したくて仕方がなかった。
《マサカ邪神ノ力ヲ操レルトハナ》
「全然操れてないぞ。さっきまで暴走してただろう。
………そんなことよりも、続きをやるぞ」
一拍、間をおいてアケディに襲いかかった。
《! 雷速ヲ得タカ》
「その通りだ。さっきまでの俺と同じとは思わないほうがいいぞ」
意識を研ぎ澄ませ、アケディの動き全てを捉える。
迫ってくる無数の剣戟を剣で受け、そっくりそのまま返す。
《ナントイウ高度ナ技量。速度ガ匹敵シタダケデコレ程ニ圧倒サレルトハ。現時点デモ人カラ外レテイル》
「どうした?速度はまだまだ上があるのだろう。
舐めプが過ぎるんじゃないか?」
《ナメプ……? 確カニ速度ニハマダ先ガアル。
ダガ、貴公ヲ相手スルニハマダ不足ダ》
「そうか、なら試してみるか? 今の俺の最大速を」
雷功で手にしたのは『速度』。稲妻の速度で移動する雷動には及ばないが、匹敵しうるほどの疾さを手に入れた。万能型の気操流を再編し、新たな技を作る。
「気操流───」
と、そこで雑嚢から光がこぼれ出た。アケディも警戒して動きを止めた。隙を見せぬよう開いてみるとエンジェに渡された石ころの魔術陣が輝いていた。
「これは……」
間違いない。エンジェの転移魔術が発動しようといている。それを理解し、アケディに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「遅いぞ。こっから反撃をするところだった」
「……不覚を取ったのは主だ。これから加勢するから手を打ってくれ」
「ハハ、言っとくが、魔王は強いぞ」
「だからこそ、だ」
「そうだな。お前はそういう奴だ。それと──知らない顔がいるな」
アートをはじめとし、エンジェ、小鴉丸、そして、見知らぬ顔がひとり。鱗肌からして竜人で間違いないことを見抜き、同時に内包する高い魔力を感知した。
「………ボクはカムイ。大剣と……」
「みなまで言わなくていい。大体分かった。俺はアベルという。主攻は俺がやるから合わせてくれ」
「……………わかった」
再び剣を構え、アケディと相対する。
「さて、続きをやろうか。土くれの魔王よ」
岩兜の奥の赤い双眸が動き、対峙する挑戦者を分析する。
《……剣士、戦士、拳闘士、暗殺者、魔術士。中々良イ組ミ合ワセダ。───因子再編》
アケディが組み立て変えられていく。岩の鎧が一回り巨大化し、背中にジェットが搭載された。そして、排出口から魔力が噴出され、翼のように広がった。
《岩門盾イガリマ》
巨大な盾を片手に持ち、迎撃体勢へ移行する。
「お前……俺の時は手加減していたのか?」
明らかに大きく隔絶したステータスに変わっている。はち切れんばかりの圧倒的な存在感に眉間を寄せたが、それは誤りだったとすぐ理解する。
《生憎ト我ノ能力ノ特性デナ。非礼ト思ウナラ詫ビヨウ》
「いや、疑って悪かった。俺たちは此処を越え、星樹の頂点を目指す冒険者……そして、挑戦者だった」
《ソノ通リ。我ハ試練。挑戦者ニ相応シイ存在ヘト姿変エル人形ダ。我ガ怠惰ノ試練、乗リ越エテミセヨ》
アケディは盾を前に、剣を後ろに構えた。
睨み合いが続き、エンジェの握る大杖が僅かに動いた瞬間、アケディの姿が搔き消えた。
すると、小鴉丸が吹き飛び、カムイは防御し、アートは受け流した。
「うぁっ!?」「………ッッ!」「ッ、っぶね」
そこでアケディの真意に気づき、飛び込む。
数撃、エンジェを狙った剣を真正面に受け、地面を削りながら後退する。
「真っ先に後衛を狙うとか抜け目ないな」
《戦イニオイテ後衛潰シハ常套句。奇襲、奸計、卑怯、我ハアラユル策ヲ認メル。ソノ全テヲ叩キ潰ス》
「そうかよ、なら恨むなよ」
がら空きとなった背後にアートが襲いかかる。
完全にアケディの意識外を突いた奇襲だ。
「『咆衝』!」
《弾盾》
大きく弾かれる拳。顔に驚きで染まるが、止まっている余裕などない。とっさにアートは防御姿勢へ移行するが間に合わない。
そこに。
「『風纏剣』」
風を纏わせた大剣を下から振り上げ。盾で直撃は防がれるも剣にのせた風で大きく吹き飛ばされる。
「『風落墜』」
あらかじめ天に設置していた風の塊が炸裂し、凄まじい風の奔流が広がる。
しかし、手応えはなかった。風落墜の衝突の瞬間に離脱していたのである。アケディはカムイの背後へ回り、岩剣を大きく振り上げていた。
「『弾拳』」
意趣返しとばかり、アートが同じ技で岩剣を弾く。
《………! 学ンダカ》
初見で技を覚えたのだ。学習力もさることながら実戦で即使いこなすセンスの高さには少し妬けるが、まだ荒い。それでも、アケディに驚きを与え、隙を作ることはできた。
「気操流『瞬斬』」
まともに一撃が当たる。大きく揺らぐアケディだったが、まだまだ打ち倒せる一手には届いていない。
もっとだ、もっと疾く、深く、斬り込め。
◇◆
《剣術、魔術、体術、拳闘、ソシテ、連携力ノ高サ、称賛ニ値スル》
アケディが戦いのなかで称賛した。剣士も、拳闘士も、スペックを補って余りある高い技量を持っている。拳闘士は、戦いの中に研鑽されていく技量と初見で技を覚える圧倒的なセンスで何度も隙をこじ開け、魔剣士であるボクの一撃を与えることができている。
通常ならボクの一撃なんて当たらない。それほどに隔絶した速度を持ちながらも更に加速を続けている。
初めてとは思えない連携でアケディの黒い岩鎧を削り続けている。まだ致命打には程遠いが、それでも優勢な戦況が続いている。アートも次の展開が見えているのだ。そのため、予め戦略を立てていたような試合運びができているのだ。
そして、何よりも、剣士が異常だ。
「気操流───『渦雷』」
アケディは、恐らく空中でも戦える。背中の魔力噴出によって可能としているはずなのだが、剣士の猛攻で地に足をつけてさせられているのだ。そして、魔力噴出による超速の突撃も『返し』を狙われるため迂闊に飛び込めないでいるのだ。
剣士ひとりで主攻を担い、あらゆる場面でアケディの全力を出させない立ち回りを続けている。戦いにおいて如何に相手の一手を潰すかは重要な戦術でもあるのだが、剣士のそれは次元が違う。アケディの僅かな挙動を見抜き、全ての動きの出鼻を完璧にくじいている。もはや──、封印魔術の域に達している。
そして──
「『落陽斬』」
「『咆衝』!」
魔力噴出でアベルの猛攻から離脱しようと試みるも先回りされ、地面に足をつけさせられる。そこにアートの掌打が入った。僅かに背後へぐらついた隙を突こうとボクは大剣を構えた。
「『地刃』」
「『穿空風』!」
地面に刃を生やし、足を引っ掛けられて大きく体勢を崩した。溜め時間も十分、風をまとわせた大剣の突きを放ち、盾の防御ごと叩き飛ばした。
「『気衝』」
「『破哮砲』!!」
吹き飛ばされたアケディに掌を触れ、衝撃を放って僅かにアケディを前方に動かし、咆衝の直後から溜めていた咆哮砲が直撃した。
必ず、攻撃に合わせてくるのだ。威力が溜められる僅かな合間を稼いだり、足止めをしたりしている。
そう、彼一人で主攻と支援を両立させているのだ。
(…………すごい。アートの学習能力も凄いけど、彼は次元が違う。大きく開いたステータスをものとしない体技と剣術で魔王アケディを封じ込めている……)
素のスペックはすでに人族の枠組みから外れつつある。彼は七族のなかで最強人族とよばれた竜人に匹敵している。それでもアケディには大きく及ばない。
スペックで及ばないのにも関わらず、ここまで優勢に戦いが続くのは、ひとえに彼の技量によるものだ。
「────………これが『力』を凌駕する『技』」
幼い頃、竜神のある御伽噺を聞いた。竜の里では英雄だった竜人は妻を失い、闇に堕ちて里に災いをもたらしたが、ある人間に止められたという。
その後、竜神は人間と友になり、人間を英雄として里に迎えた。祭典の際に自ら竜神は位から降りたが、最後に竜神として人間に褒め称えた言葉がある。
曰く、力に限り在り、されど技に限り無し。
人間の道を応援する意味でもあり、竜神が敗北したのは力ではなく、技であったと語り継がれる一節となった。
彼──、アベルとは近しいものを感じた。
「………ふふ、『劈風』!」
竜人の血が騒ぐ。是非、是非とも戦ってみたい。
己の目標を後回しにしてしまいたくなるほどに興奮が冷めやらぬ。そのためには迷宮を突破しなければならない、と小さく口角が上がった。
────凄まじさが増していく戦いから完全に蚊帳の外にされ、何もできずただ立っている自分に歯噛みをするエンジェだった。
「………っ」
そして、ある暗殺者は気配を極限に消し、黒小刀を握りしめて影に潜み、その機を突く策を立てた。
(エンジェ様、お願いがあります)
読んでくださりありがとうございます。
補足
【修羅】…邪神の能力のひとつ。発動後は常時莫大な魔力を消耗し、戦いに対する意欲が何倍も膨れ上がる。その代わりに一度受けた攻撃に対する耐性をつけ、通らなかった攻撃は更に強化される。解除後も耐性や攻撃力は維持される。
スキル詳細
・耐性補正(極大)
・攻撃補正(極大)
・速度補正(極大)
・知覚補正(極大)
・消耗魔力増加(極大)
・戦闘狂化