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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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➤24話 迷宮攻略③ 狼人と竜人


 竜人。七族で最強の種族と名高い人族である。一族全員が非常に高い身体能力を持ち、『竜核』と呼ばれる魔素を溜め込む機構によって災害が如き魔力行使を可能としている。ある者は天候さえも操り、ある者は一撃で山を消滅させたという。


「何だ、お前は?」


「………『風纏剣』」


 壁から突入してきた鱗の少女は手に持つ巨大な剣に風をまとわせ、問答無用に薙ぎ払った。


「ちぃっ!」


 見よう見真似だが、相手のベクトルを操るアベルが独自で会得した『操水ナガレ』────魔力を纏った剣を流してみせる。


「…………! 流した……」


「感心している暇なんてあるのか?」


「………ある」


 竜人は風を纏った腕で追撃を防ごうとした。

 その次の瞬間、竜人の顔が弾かれて後ろに下がった。


「ッッ!……確かに感心している暇なんてなかった」


「動きが大雑把なんだよ ウスノロ」


「……む、今のはカチンときた」


 距離を離されても瞬きした瞬間、懐に踏み込んで攻撃を繰り出すアートだが、竜人は魔力の風で強引に反応遅れを取り戻し、真正面から衝突した。


 アートのほうが圧倒的に手数と速度があるのに対して、竜人は補って余りのある自在性のある魔力の風で互角に渡り合ってみせている。


「な、何が起こってるの?」


「………全てが見えたわけではないですが、追撃の拳を『わざと』外して、その勢いのまま防御の腕の隙間を通して、後ろ蹴りをしたように見えました。対して竜人は強引に大剣を引き戻して防御した模様です」


 間違いなくアートは『気操流』を会得している。攻防の中をよく凝らすとアートの手足に『気』をまとわせて竜人の大剣を受け流している。


 それだけではなく、誰よりも長く共にいたアベルが研鑽してきた技術を自らも習得し、完全なる我流のものへと昇華させつつあった。


「『破哮砲』!」


「『穿空風』!」


 音による振動破壊の砲弾と触れるものすべてを切り裂く風の大槍が迷宮の狭い道で衝突し、蔦の壁が大きく削られた。


 今のところ、純粋なぶつかり合いは互角。そのことを互いに理解し、敵の実力を大幅に上方修正した。


「………キミ、名前は?」


「アートだ」


「……そう、ボクは《竜王》を頂く───カムイ」


 竜人の周囲に風が吹き荒れ、巨大な嵐が渦巻く。

 胸部の竜核が翡翠色に輝き、まだまだ余力を隠すアートを本気の一撃で引き摺り出してみせる気でいた。


「………これで決着をつける。女の身なれど甘く見ると痛い目に合うよ。ボクの───全霊を受けてみろ」


 周囲の風が更に加速され、カムイを中心に引き絞られていく。吹き荒れていた嵐が静まり返り、手のひらに収束され、そして、放たれる。


「『嵐王アイオロス』」


 風が蔦の壁に触れた瞬間、木っ端微塵に散っていった。先ほどまでの斬撃の風とは違い、より緻密な斬撃が練られた、触れるもの全てを切り裂く嵐だ。


 ちらり、とアートは背後のエンジェたちを一瞥して、重心を根付かせるように脚を踏み出した。


「フゥーーー、要領は掴んだ。あとは手数と集中だ」


 嵐といっても、ひとつひとつを操って鋭刃化させている以上、全部見切れば受けられる。丁寧に、かつ愚直に無数の風刃を流し続ければ、必ず隙間は作れる。


 そう、無数の風には無数の手を以って流せばいい。


「…………すごい」


 驚嘆をこぼすはエンジェたちだけではなく、カムイも同様だった。あらゆるものを切り裂く嵐がアートを呑み込んだかと思えば、その渦中───かき分けるように魔力の風を流していた。


 川の流水を堰き止める岩のように、背後のエンジェと小鴉丸に刃を届かせぬよう斬撃の嵐を受け続けていたのだ。それがどれだけ卓越した速度と技量であるか、誰の目からでも明らかであった。


「そろそろ嵐に横穴が空くぞ」


「……ッッ!」


 ついぞ、斬撃の渦の横っ腹に空いた孔を抜けて、

 調整したての『思いつき』の技を仕掛ける。


 ───『破哮砲』は音による振動破壊の砲弾だが、広範囲かつ魔力を持っていかれるため、ここぞの時しか使えない。いくら範囲を絞ろうと『溜め』がいるため、近接戦闘中に隙を作って放つ必要がある。


 それではこの相手には通用しない。出会い頭の一撃は大雑把だったが、今では戦い方に精細さがある。剣術自体はお粗末なものだが、それ以上に身をまとう風の操作性が異常に高く、迂闊に触れれば拳が裂ける。


 刃の風を流して即座に強烈な一撃を叩き込むにはどうしたらいいか、それはシンプルに最速最大を叩き込めればいい。つまりは最大火力である『破哮砲』を最速の一撃は昇華させる必要がある。


 見よう見真似で覚えた体内の気を衝撃として放つ気操流の基本技である『気衝』と、音の振動破壊を組み合わせる。気という殻に音の振動を閉じ込め、接触インパクトの瞬間に解き放つ。威力は落ちるものの、堅牢な鱗を突破して体内に直接ダメージを与えることができる。


 その技の名は───


「『哮衝カクショウ』!」


 カムイは防御した大剣が腕ごと大きく弾き飛ばされ、体ごと大きくひるがえして後退した。だが、この技は単なる打撃ではなく衝撃を体内に浸透させる発勁に近い技だ。アートが狙い打ったのは───頭部。


 伝播した振動は脳震とうを引き起こし、それは如何に堅牢な鱗を持つ竜人であろうと同様だ。まともに大剣で受けたカムイの視界は揺れ、歪む平衡感覚に逆らえず膝をついた。


「これで、敵ではないことは証明できたか?」


 えっ、とエンジェたちが驚く。無理もないが、カムイは最初でこそ敵意はあったものの、戦ううちにアートの実力を見てみたくなっていたのだ。


「………うん、ごめんなさい。敵意がないことが分かったけど、挑発するもので試してみたくなった」


 竜人は誇り高く、己の強さを信じている。それがゆえに他種族を試そうとする気質を持つ者が多いといわれている。だが、決して戦闘民族ではなく、相手の強さを認めれば潔く場を収める器の大きさも併せ持つ。


「………改めて、ボクはカムイ。とある竜人を追って旅をしている冒険者。……よろしく」


 大剣を振り回して戦っていた者とは同一人物とは思えない大人しそうな雰囲気に変わった。


 そんな彼女の顔をまじまじと眺めるエンジェだ。


「……あ、あの……?」


「あっ、ごめんね。私はエンジェだよ!

 で、こっちは小鴉丸」


「よろしくお願いします」


 じっと真っ直ぐ見つめるエンジェの目に耐えられなくなったのか、カムイは恥ずかしそうに逸らした。


「貴女って……『暴風ミストラル』だよね?」


「………そう名乗ったことはないけど、周りにはそう呼ばれている」


 やっぱり、とエンジェは目を輝かせた。その名はここしばらくモメントに滞在しているS級冒険者の通り名だ。天災が如き暴風を操り、発令された大討伐任務レイドクエストを単騎で達成させたという竜人である。


 それだけではなく森羅を干渉するほどの膨大な魔力量から竜人の中でも、最も竜の血が濃いといわれている希少な純血種という噂だ。


「そういえばモメントには最高峰の冒険者がいるって聞いた。もっとも、自由が過ぎるとも言ってたな」


「………うっ、それよりもキミたちは何故ここに?」


「俺の主が……アベルが失踪してな」


「…………敵前逃走?」


「違う。転移でどこかに飛ばされたのだ」


「………転移? トラップに転移陣がある?」


 アートはエンジェたちに目を向け、小鴉丸が小さく頷き、カムイにこれまでのあらましを説明した。


 S級は実績だけではなく信頼も評価されたうえでの等級なのだ。彼女は高い実力と実績があり、アベルの抜けた穴を埋めるためにも力を貸してもらえないか交渉を持ちかけた。


「これからアベルを探すんだけど、力を貸してくれないかな?」


「……なるほど。ボクも星樹の天辺に用がある。ここを出るまでなら力を貸してもいい」


「ありがとう! それで報酬は……」


「……それはいらない。ここには個人的に調べたいことがあって来た。ボクは任務クエストを受けたわけじゃない」


「でも……」


「………だったら、報酬は情報でいい。ボクの追っている竜人に関して何か知っているのであれば教えて」


「その竜人っていうのは誰だ?」


「…………あとでいい。それに今情報を持っていなくとも、今後も何か情報が得られたら教えてほしい」


「そっか、わかった。約束するよ!」


 先ずはアベルの捜索だ。下層と上層のどちらから探索するべきか、小鴉丸が尋ねようとした。


「話もまとまったことですし、どこから……」

 

 瞬間───途轍もない重圧がのしかかってきた。

 重力が突如重くなったような感覚だった。


「───主が、何かと戦っている」


 これ程の気配に対抗できる存在は主人アベルしかいない。

 そう確信するアートだった。


「…………やっぱりここにいる」


「カムイちゃん? 何か知ってるの?」


「……ちゃん付けはむず痒い。カムイでいい」


 気の弱そうな雰囲気から打って変わり、カムイは真剣な表情で上を仰ぎ、その名を告げた。


「─────………魔王アケディ」


読んでくださりありがとうございます。

あれ、アートが主人公だっけ……

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