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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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➤23話 迷宮攻略② 分断と琴線



 アベルが消失した。暫定的とはいえチームを率いる主格である彼が消えたのだ。そのことに最も冷静でいられなかったのは相棒たるアートだった。


 体を覆っている毛が逆立ち、拳を握りしめて己の不甲斐なさを怒っていたのである。小鴉丸にも口酸っぱく言っていた手前、なおさら腹を立てていたのだ。


「……どうする? アベルの捜索を優先するか、それとも一時撤退するか」


 流石の小鴉丸もからかう気すら一切なかった。自分の信じる存在を失えば、進むべき道が見えなくなり、どうすれば分からなくなる。主人を失う喪失感は理解できるが……アートの様子のそれは違っていた。


(アートが焦っている……? アベルは絶大な力を持っている。単独でも迷宮踏破は可能なはず)


 むしろアートが最もアベルの力を信じている。

 迷宮ごときでアベルが負ける訳がないと。


 『死』ではなく、別の『何か』を恐れている?


「ふぅーー……任務は失敗だ」


 アートは大きく息を吐いて言い切った。


「お前たちは転移で迷宮外に戻れ。迷宮の難易度自体はそう高くない。リディック支部長に頼めば適切な冒険者を選んでくれるだろう」


「えっ、な、何を言ってるの……?」


「小鴉丸も理解しているだろう。一時撤退して再度整えてから挑戦するべきだ」


「それは承知しているが……いいのか?」


 あまりにも冷淡。淡々とした判断だ。


「構わない。危険を冒して進む必要がないからな」


「でも、アベルはどうするの……?」


「俺が行く。……迷宮の魔物程度なら造作もない」


 言い切るアートだったが、どこか不安を感じている様子だ。それを見抜けないエンジェではない。


「アート、アベルには何かあるの?」


「────っ」


 ぐっと言い淀むアートの手に触れ、エンジェは真っ直ぐな瞳で向き合った。


「私を見くびらないで。そんな曖昧な言葉で仲間を見捨てられるような人に見える?」


「………いや」


「……もしかして」


 ぎくり、とアートは動揺を見せた。


「お腹空いてたのかな?」


「…………………へ?」


「爆炎魔術で鍋を吹き飛ばしてしまったせい……?

 自分の分を減らしちゃったのかな……」


 巨人族との混血だし、アベルって見かけによらず大食漢なのかな、と頭を傾げる彼女の様子を見て、馬鹿らしくなったアートは思わず吹き出してしまった。


「……ふっはは!これじゃ警戒していた俺が馬鹿みたいじゃねぇか」


「えっ、ち、違うの?」


 実際のところ、アートはエンジェたちを信用していない。会って間もない者を信用するほど、他人を信じていない。でも、この人は眩しいくらい純粋だ。


 人の本性を、本質を、ひっくるめて受け入れられる朗らかさがある。エンジェなら打ち明けてもいいかもしれない。そう思わせる器の大きさを感じた。


 しかし、主人アベルの許可なしに明かすことはできない。

 その代わり信用に対する誠心は見せるべきだろう。


「我儘なのは承知している。だが、これは俺の信念であり、譲れないことだ。……ここから先は任務よりも主人アベルを優先させてもらうが、それでもいいか?」


「大丈夫だよ! わたしには小鴉丸がいるし、何よりもアベルの優しさと強さを信じているからね!」


「……ならば、俺も出来る限りの最大限を以って、お前たちを守ると誓おう」


 ───誓約。主従の契約ではないが、今この時に誓った言葉に偽りがないことを示すためだけに、アートはエンジェの前で膝をついた。


「アート……」


 頭こそ下げはしなかったものの、悔しくも小鴉丸は彼の誠実な在り方を美しいと思ってしまったのだ。


「それと、貴女の質問に関しては俺の口からは言えない。再会したときに君の心が変わらなければ、アベルに直接聞いて欲しい」


「うん、分かった。約束するよ!」


 それを聞いてアートは小さく微笑んだ。

 そして、アベルを探すべく前へ進もうとした。


 その時、迷宮内に不自然な風が吹き始めた。


「……この風は」


 アートは気配を感知する技能は心得ている。今のところ敵意の匂いはないが、膨大な魔力の塊が真っ直ぐ近づいている。


「蔦の壁が震えている。迷宮の罠か?」


「……違うよ。これは『魔力』が吹き荒れている」


 ただの風ではない。魔力を混ぜ込んだ人為的なものだ。道の奥から流れてきた風ではなく、蔦の壁の中から空気が噴き出ている。壁の奥から切り裂くような風切音が大きくなっていく────?


「伏せろ!」


 凄絶な暴風が壁を突き抜け『何か』が入ってきた。


「………敵」


 身の丈よりも大きな大剣を持つ、全身に鱗が覆われた少女が立ち塞がった。ただならぬ魔力を内包し、鱗の体表を持つ人族はたった一族しかいない。


 ────竜人だ。


◇◆


 迷宮において最も恐れるべきは仲間と分断されることにある。編成フォーメーションが崩れることによる実力低下も関係するが、真っ暗な迷宮内で自分の他に頼れるものは仲間しかいないという状況下で、信頼できる者を失ったという負の感情は大きくなりやすく、増大した恐怖は錯乱パニックを招くのである。


 そして、それは心的外傷トラウマを抱える者ほど陥りやすいともいえる。たとえ頭で理解していたとしても、かつて感じた恐怖は打ち消せない。その恐怖は時に理性を凌駕し、狂気を引き寄せるのだ。


 そう、アートの焦りは的中していたとも言える。


(──────クソッ!)


 迷宮を駆け巡りながら己が犯したミスを悔いた。

 少し考えれば分かったはず、少し注意すれば起きなかった。そういくら嘆いても失敗は取り戻せない。


「『双落斬』! 『加及衝』!」


 常に周りに気配を探りながら先を進む。自身だけが飛ばされたとすると、下に進んでいけばおのずと彼女たちと交流できる。


 アートもいる。よほどのことがなければ大丈夫だろうが……もしものこともある。人化したばかりで俺とダブルで旅を続けてきたため護衛には慣れていない。不覚を取る可能性もゼロではないのだ。


「『十束乱陣』!」


 十剣の乱舞が木のゴーレムを切り裂く。

 進む足を一切止めず、ひたすらに前へ駆けた。


(どこだ アート……!)


 焦りが思慮を狭め、より乱暴に突進する。

 あくまで可能性に過ぎず、アートがやられるとは思わないが、それでも不安を感じずにはいられない。


 一抹の不安が切っ掛けとなって、負の感情が増幅され、焦りが、恐怖が、大きくなっていく。


 全てを奪われた、あの時に感じた絶望を。

 あの、こぼれていく喪失感を────


「──────ッッ!」


 ひたすらに一直線に突き進む。道を阻む魔物や精霊など意を介さず、問答無用に斬り刻まれていく。


「邪魔を……するな!!!」


読んでくださりありがとうございます。


《補足》

膂力を人種ごとに順序つけるとこんな感じ。


鬼人[狂化] >竜人[竜化]=巨人>鬼人

〜〜

越えられない壁

〜〜

竜人>獣人>黒妖精>人間>妖精


※系譜や資質によって変動します。


今後も思い当たったら、何か補足とかプチ設定とか公開していくと思います。

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