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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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➤22話 迷宮攻略① 人化と失態


 星樹内部に張り巡らされた迷宮は全てで108階層あるといわれている。なぜ判明しているかというと、踏破者が多数存在するからだ。危険な罠や強力な魔物がほとんどいなく、挑みやすい迷宮ともいえる。


 とはいえ、命落とす者も多数いる。駆け出しが挑んで死んでしまった事例も多いが、その中で少数ながらもA級やS級冒険者が迷宮で行方不明になっている。


 リディック支部長によると明確な原因は公表されてないらしいが、おそらく原因は十中八九『呪転』だろう。死体がないため証拠がなく、正しいかは分からないが……万に一つにも備えなくてはならない。


 反転は迷宮内にのみ適用され、一度出れば解除されるということだ。大幅な弱体化だった場合は、エンジェの転移魔術で外に出て解除してから再度挑む。


 階層を上がると反転対象が変わる場合もあるが、非常に稀だという。もしものこともある。都度、転移魔術のセッティングをしながら進んでいく必要がある。


 そのためエンジェを中心とした編成フォーメーションで入る。斥候の小鴉丸を先頭に、戦士ポジョンに俺とアートがつき、エンジェは戦局を見て魔術を発動する形だ。


「とはいえ、樹の迷宮内で爆炎は危険だ。間違っても使うなよ」


「うぅ……」


 閉塞空間内だと酸欠するうえ、下手すれば樹ごと炎上して全員が火に包まれる。エンジェは特化魔術士のため、他の攻撃魔術はほとんど使えない。


「迷宮内で爆炎魔術は使えないが、転移魔術は大いに役に立つ。そうしょげた顔をするな」


 迷宮攻略に大きく影響を与える魔術なのだ。もう少し自信を持ってもいいものだが、彼女の理想とは違うようだから俺から言えることはないだろう。


「さあ、迷宮攻略開始だ」


 そう言って俺は気剣を手に入り口へと向かう。

 

 実は内心うずうずしている自分がいた。迷宮といえば数多くの試練や未知の発見、そして、莫大な金貨の宝箱などと冒険者にとってワクワクさせるものが詰まっている。


 今回は数多くの踏破者がいるため宝箱など大きな発見はできそうにないが、それでもこの世界に転生して初めての迷宮に高揚を覚えずにはいられなかった。


 入り口は門というよりも大樹に空いた薄暗い穴で、奥には蔦が敷きつめられている。大樹内に張り巡らされた蔦がそのま迷宮と化したもののようだ。


「閉まるぞ」


 小鴉丸がそう言うと背後の割かれていた木表がミシミシと閉じていく。これで転移か、踏破する以外脱出するすべはなくなったということだ。


 さて、ここからが問題の『呪転』だ。

 何が反転したのか確認してから前に進……


「グ、ガルァァアッ!?」


「アート!?」


 最悪だ。命に関わる呪転にかかる確率は万に一つもないはずなのに、アートが当たってしまったのか!?


「う、グァア……!?」


 アートの巨躯がだんだんと小さくなっていく。慌てた俺は迷宮から転移して脱出するべく、エンジェに呼び掛けようとするが、それは憚られた。


「主よ、待ってくれ。これは……」


 それは───声だった。今まで頭に語りかけていた声とは違う、耳に直接震わせる言葉が響いたのだ。


「な……お前、その姿は?」


「分からねぇが、どうやら『人化』したみたいだな」


 獣らしい荒々しさを残しつつも、獣人族とそう変わりない姿へと変化していた。


「人化……?」


 獣から人へ変化する獣人もいる、と小鴉丸も言っていたな。それよりも人化になったことによって、全裸の犬耳イケメン男子になっている。エンジェたちが叫ぶ前に俺の予備の服を貸し、アートはぐっぐっと調子を確かめるべく体を動かした。


「感謝する。……早速だが、敵意のにおいがある」


「ああ。俺やエンジェ、小鴉丸の呪転対象が何になったのかは今のところ判別はつかないが、一先ずは眼前の敵を倒してからだな」


 エンジェと小鴉丸を挟んで、アートと背中合わせに構える。迫ってくる気配は悪性精霊インプだ。人に害をなし、自然を破壊する魔物の一種。そして、俺の前に出てきたのは風を操るタイプで、アートの前には水を操るようだ。


「気操流『刺転斬』」


「『破哮砲』」


 瞬殺。俺は踏み出しと同時に喉元を刺し、そのまま悪性精霊インプの首を刎ね飛ばす。一方アートは音による共振破壊───音による砲撃で吹き飛ばした。


「どうだ。戦闘に支障はありそうか?」


「違和感はない。むしろ獣の時よりは色々技を試せそうだ」


 確かに先日の変異牛鬼と比べて範囲を狭め、悪性精霊のみを破壊した。人型だと技の繊細性が向上するようだ。


「く……出遅れた」


 とても悔しそうに小鴉丸は小刀を握りしめている。

 そこに若干見下しながらアートは鼻で笑った。


「一度ならず二度。せっかく良い目を持っているんだ。その目をもっと生かして周りを見たらどうだ」


 はぁ、と溜息気味に見せたアートの説教くさい口ぶりに、エンジェは呆然した。今まではアートの声が聞こえなくて分からなかっただろうが、これがアートの性格なのだ。


 まあ、小鴉丸相手だからか挑発的な態度は珍しい。


「二人とも落ち着け。もうここは迷宮だぞ」


 そう言うと押し黙った。こういう時だけは素直だ。


「アート以外の呪転対象が分からない以上、慎重に進まなくてはならない。少しでも違和感があれば言え」


 全員が頷く。呪転は目に見えるものとは限らない。

 目に見える呪転だったのがアートのみだったのは不安要素だが……


「あっ」


 と声を出す小鴉丸の手に持つ魔小刀を見やると、刀身が逆になっていた。逆◯刀というやつだ。


「このままでは使いにくいな。少し待て」


 俺は小鴉丸の持つ魔小刀に触れ、気操流で反りに刃をつける。応急処置だが、通常通り小刀として使うことができる。


「耐久力も一定を超えれば割れる。リミットは一時間だ」


「十分だ。感謝する」


 これで小鴉丸の呪転は解消された。あとは俺とエンジェだが、俺は一通りの動作を確かめてみた限りでは問題はなく、身体的な変化もない。


 エンジェも特に変わりはなさそうだ。爆炎魔術の何かに影響がある可能性もあるが、迷宮内では封じている以上、ひとまずは度外視とする。


 迷宮を慎重に進む。聞いていた通り蔦でできた迷宮で人工的な建築物は皆無だ。星樹の規模で自然に迷宮が作られたとは信じられない。


 その途中、蔦が触手のように襲ってくる場面もあったが難なく突破した。粘液による被害は並々ならぬものがあったようだが、ここは割あい……


「もうやだぁ!! 帰る!」


 おいおい、まだ一時間も経ってないぞ。


 階層も10階程度だ。難易度も話に聞いていた通り難しくない。階層ごとの広さもそこまでではなく、順調に登っているのだが、こういういやらしい罠はいくつかあるようだ。粘液が気持ち悪いのは分かるが……ギブアップには早すぎないか。


「くっ……見るな!」


 俺とアートは問題なく無数の触手を捌いて無傷だったが、彼女たちは取り込まれてしまったのだ。咄嗟に俺が触手を斬ってアートが救出したのだが、粘液によって肌身が露わになったのである。


 エンジェの見た目は幼いが、案外……


「貴様……見るなと言っただろう!」


 おほん。思わず見てしまっていたようだ。生まれつき顔には出ないから、少なくとも下劣には思われてないことを祈るばかりだ。

 

「うぇー……気持ち悪いよぉ」


「我慢しろ。ここは既に迷宮内だ。

 その程度で撤退してもいいのか?」


「うっ……」


 少し強めに言ってしまったかもしれないが、この程度で撤退を繰り返していては前に進めないのだ。ここがどんな場所か改めて理解した彼女たちも押し黙り武器を持った。


「洗浄魔術を覚えられたらなぁ……」


「洗浄? そんなのがあるのか」


「うん! 四元素魔術や光闇魔術とか色々あるんだけど、生活魔術は色々種類があるんだよ」


 ジン師匠に教わった魔術は指で数える程度だ。生活魔術を覚えておいて損はないし、他に色々魔術を覚えれば更なる高みへ進める。迷宮から帰還したら、自分の適性を調べるついでに魔術本を漁ってみよう。


「そういえば転移魔術の属性ってあるのか?」


「う〜ん……実は分からないんだよ。無属性と言われているけど、無属性でも適性がないこともあるんだ」


「固有魔術に近いと言われているものだ。エンジェ様の以外の使い手は指で数えるよりも少ないかと」


 かなり希少な魔術なのは間違いないようだ。多少の制約があるとはいえ『空間魔術』の一種、多数の使い手がいれば世界の情勢が一変するほどのもの。


 彼女の使い方は帰還魔術に近いが、転移先を海の底にしたり、土の中に埋めることだって可能とする使いようによっては最凶の魔術と変貌するのだ。


「俺に適性があるかどうか調べられたりするのか?」


「ちょっと待ってね。彼方かなたを今、ここに繋ぎ止めん」


 差し出されたのは術式が刻まれた石コロだ。

 

「『転移ヴァンデルン』と唱えて発動したら適性ありになるの。転移先との繋ぎ合わせは少し難しいけど適正あるなら習得はできるんだ。転移先はその場から一歩前にしてるよ」


「ほう……『転移ヴァンデルン』」


 一瞬だけ視界にノイズが入っただけで何も起こらなかった。適性がなかったということだろうか。


「あれ? おかしいな……発動したのに何も起こらない?」


「俺には使えないということか?」


「適正はあると思うんだけど……あっれぇ?」


 頭を傾げて唸っている。どうやら起動はしたが、術式がうまく働かなかったみたいだ。エンジェの言では適性はあるようだし、魔術理論とか学べば使いこなせるようになるかもしれない。


 そもそも使い手の少ない固有魔術と言われているのだ。術者が違えば勝手が違うといったこともあるだろう。それに、ここは、反転の……………まさか!?


「しまっ─────!」


 失態だ。失念していた。


 呪転は必ずしも目に見えるものとは限らない。


 概念さえも対象になるのだ。つまりは心、思想、そして、生死までも対象になるということ。予測不能であるがゆえに反転迷宮で最も恐ろしい罠ともいえる。


 それに気づいた時には全てが遅かった。



 俺の反転対象は─────『転移先』。



《補足》※今後言及するかもですが……

 星樹に帯びている聖気を嫌う魔物は非常に多いですが、避けたいものであって近づけないわけではないです。聖気による不快感を感じない魔物は安全地帯として利用することがあります。その一種が翼竜ワイバーンです。


 魔物と相反する『聖獣』も存在し、精霊も聖気をまとう知性生命体の一種です。星樹の中には聖気に耐性のある魔物や聖獣、精霊などが棲みつき、外敵である冒険者やテトリーを侵した魔物を迎撃しています。

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