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ならずの転生英雄〜故郷を奪われた俺は復讐を果たすために、剣聖の弟子になりました〜  作者: 杉滝マサヨ
一章 星の邂逅 ※改稿中につき➤のついてる話と大きく展開差と設定違いがあります
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➤17話 怪しげな魔術士


 モメントは冒険者で賑わう街だ。様々な進化を遂げた魔物や未知の魔獣が数多く存在するアルマ大陸の最東方を構え、未開の地を冒険する拠点のひとつである。特筆するべきはその貢献度である。


 未知を求める冒険者にとってはアルマ大陸は魅惑の地であり、夢の世界でもあった。そして新種や迷宮の発見者となった場合は多額の報酬が約束されている。


 王都や領地でもなく、冒険者のみで成り立った街であるのにも関わらず、絶えず任務クエストが発生し、常に挑戦しようと任務クエストを取る者がいるのである。


 しかし、未知の多い大陸であるが故にその難易度はなかなか設定できず、等級に合わない任務で返り討ちされることもしばしばある。そのため、モメントの町を拠点に冒険者稼業をするには『B級以上』であることが最低条件といわれている。


「妙だな。アルマ大陸の生態系が常に変化し続けるとはいえ、この早さは異常だ。何か厄災級の魔物が生まれる可能性もある」


 冒険者の等級に対応して魔物にも等級が存在する。


 S級、A級、B級、C級、D級


 汚物掃除や雑務しかできないF級やE級を除き、それぞれの等級に合わせた討伐任務エネミークエストが割り振られているのだ。しかし、稀にこの割り振りを超える高難度の任務クエストが発生する。


 在野最高等級であるS級でも手に負えないとなればその影響度は街や国にも及ぶと断定される。S級を超える任務クエストは総じて《厄災級》と呼ばれ、多数の冒険者を招集し大討伐任務レイドクエストが発行されるのだ。


「周辺調査をもう少し増やすべきか、魔物の生態調査に力を入れるべきか……うぅむ」


 アルマ大陸の過酷な環境に適応するべく進化を遂げた魔物だとしても『あの』変わりようは異常だ。


 魔物を解体して原因究明に資金を注ぎ込むか、その魔物が発生した周辺を冒険者に調査依頼を出して発生源を突き止めるべきか迷っていたのである。


 両方とも実施することも可能だが、資金にも限りがある。早期解決するためにも分配を定めなければならないのだ。


「支部長、面会希望です」


「……リリアか、通せ」


 紫炎を象った宝珠が埋め込まれた大杖を床に鳴らして出てきたのは黒いフードを被った魔術士だった。


「久しぶりでございます。リディックさん」


「おお、ディーヴ。こちらに来ていたのか」


 怪しげな格好ではあるが、これでも冒険者ギルドマスターを任されている。モメントにおけるギルドを担当している訳ではないが、同じギルドマスターで昔の親交関係もあり、度々顔を合わせることがあるのだ。


「いえ、これは『思念体』です」


 そう言いながら深く被っていたフードを外し、素顔を曝け出した。


「思念体だと? それにお前、目が……?」


「ええ、少し前にやられてしまいましてね。今は魔力感知を常時展開して日常生活には何ら問題ないです」


「……そうか。今回はどんな用件で来たのだ?」


「少し気になることがありましてね。この頃に次々と高難度の任務クエストが解決されていると耳にしています。なんでもリディックさんの独断でS級冒険者にしたんだとか」


 アベルのことで間違いない。彗星の如く現れた絶大な実力者でありながら、筋の通った依頼であれば何でも請ける人好しでもある。人好しというには少々愛想がないが……


 それよりも、S級への昇格は確かに独断。されど、S級となればどんな人物か伏して公認することはできないのだ。リディックの権限で、今は事実モメントの街限定でS級冒険者になっている状態である。


「疑っている訳ではないですが、個人的にも貴方が認めたというS級冒険者に関して聞かせて欲しいです」


 ディーヴに話を通せば、ほぼ全世界でS級冒険者として公認される。彼は若いながらもそれほどに強い権限を担っているのである。


「ああ、それなら今行かせている依頼が達成され次第で構わないか?」


「依頼?」


「いずれ突っ込まれると思っていたからな。S級に相応しい明確な実績を残すためにもこの依頼を出した」


 アベルに出した依頼は単なる捜索だが、行先と救出対象がS級として認めざる得ないものとなるのだ。


「なるほど 星樹の麓にある迷宮探索、それにS級冒険者の救出ですか。S級冒険者が達成できなかった迷宮を最速で踏破する形にもなりますね。これなら達成の折に公認としてもいいですね」

 

「それと、人格については俺が保証する。かなり重い闇を抱えているようだが……基本的に悪行を嫌い、頼まれれば断れない人好しだ」

 

 ふむ、とディーヴはアベルに関する人物像を記した書類を読み、ある記述を目にすると動きが止まった。


「どうした?」


「………いえ、コリオリの出身なのですね」


「ああ、消えたヘーリオス大陸(・・・・・・・・・・)の残骸となった(・・・・・・・)の出身ということは驚いたが、こちらとしても強い者ならば歓迎だ。それと今回の任務にエンジェも付いていっている。星樹の頂点からヘーリオス大陸が消滅したことを確認できれば彼女も納得するだろう」


「……ええ、彼女に関しては感謝します。この人であれば、いざとなればエンジェを連れ帰ることを最優先にしてくれるでしょうね」


 先ほどから暗い表情が晴れない様子だ。ディーヴは何か懸念点があると押し黙り、奥底で考えをまとめる性格だ。それを口に出さないということは、口に出すべき事柄ではないということだろう。そういう奴だ。


「話が変わりますが、さっき少し耳にしてしまいまして。この頃、突然変異した魔物が多いんだとか?」


「ああ……長年冒険者やってるが初めて見た。毒や呪いに侵された訳でもないのに、あの肥大化は妙だ。おそらくは人為的に創り出された魔物かもしれない」


「ふむ……」


 ディーヴは顎に手をやりながら、壁に張り出されているアルマ大陸の地図を見て思慮した。


「見えるのか?」


「というよりも感じます。もともと感知は得意だったのもあって、今では以前以上には視えます」


 世界にはあらゆるもの全てに魔力が帯び、感知を極めれば見えているのとほぼ変わらないほどになると聞くが、ディーヴとは格が違う。


 ───思念体でありながら、常に部屋にある全ての物体を捉え、どういうものか識別している。その気になれば範囲を広げて知覚することも可能だろう。


「であれば、この辺りを調査してみてください」


「確かに調査してない場所だが……何かあるのか?」


 ディーヴがピンで刺した場所は星樹とはかなり離れ、特に認識していなかった広場だ。少しだけ開けた広場だが、未開の地であるのに変わりはないが……何か目をつけたのだろうか。


「まず変異した魔物のほとんどが星樹から離れた場所に出現しています。そのことから、変異魔物も《聖気》に帯びた星樹を忌避していると考えられます」


 星樹が何故、魔力と相反する《聖気》を帯びているのかは謎とされているが、そもそも魔物が《聖気》を持つ者を嫌う習性があるということはあまり知られていないのだ。


 実際、星樹周辺の調査は数回のみにとどまり、このままでは原因は見つけられない見切りをつけたが、自分に考えられたのはそこまでだった。


「次に、これは俯瞰しての推測ですが、ここを中心に魔物が出現しているように思えないですか?」


 そう言われて、ディーヴが刺したピンを中心に出現した魔物をピンで刺していくと、確かにここが中心になっていた。


「確かに……ここが怪しい。一度調査してみる価値はありそうだな」


「はい、なので魔物研究は規定の資金で問題ないかと。魔物を解体して変異した原因を究明調査するよりも『現場』を発見する方が先決した方がいいです」


「そうだな……ここまで周辺調査が進んでいるんだ。

 もう一度この辺りを調査依頼を出してみよう」


 しかし、来たばかりだというのにここまで全てを俯瞰して今最も優先するべきものを選定できるとは……


「───流石というべきか、朧火の大魔導士」


 魔術士にもランク分けが存在する。冒険者の等級とは異なるが、試験で認められていない魔術使いを含めると次のように職業が段階的に分かれている。


 魔導士 魔術士 魔術使い


 それぞれの職業ごとに上位、中位、下位と三階位に分かれ、魔術を扱う職業は九段階になっている。上位魔導士となればA級は確実といわれ、高い実力を擁していることが保証されている。


 しかし───、『大魔導士』は別格。


 三階位は存在せず、職業を認められるだけで歴史に名を残す魔導士となるのだ。ある時代では一人しかいなかったとされるほどに高位な職業でもある。


「いえいえ、名に恥じないよう精一杯なのです」


「随分と謙遜するな。なんでも四大魔導士とも言われてるらしいな」


「……やめてください。流石に恥ずかしいです」


 今代に認められた大魔導士は四名が選ばれ、歴代最多ともいわれる。一国が一名を擁するだけで他国への牽制も可能なほどに強い地位を持ち得るのだ。


 その四名のうちにディーヴが選ばれている。


 選出条件に高位の魔術が扱えるのもひとつだが、特に際立っているのはその頭脳である。さまざまな勉学や魔術を取り込み、新たな魔術を数多く生み出し、研究業界において数多くの実績を残していることが認められている証左でもあるのだ。


 それがどれだけ凄いことか。年下とはいえ、もう少し偉ぶってもいいものだが、あまり誇示することを好まず、敬意を忘れない真面目な性格も嫌いではない。


「では、要件も済みましたので思念体を切らせてもらいますね」


「今回も助かった。会った時に何か奢らせてくれ」


「んー、では魔導本を……」


「分かった。何か見繕っておこう」


「冗談だったのですが……」


「それくらいは役立っているということだ。

 今までの礼だとでも思ってくれ」


「……ありがとうございます。では、次回に」


 そう言うと思念体が掠れて消えた。


 それを見計らったかのように受付嬢のリリアがドアをノックして部屋に入ってきた。


「早速だがこの辺りの調査を出してくれ」


「分かりました。任務クエストを貼り出しておきます」


「はぁ、これで少しは進展があるといいが……」


「………」


「リリア?」


「……いえ、私から見れば、ただの怪しい魔術士にしか見えませんでしたが……大魔導士だったんですね」


「はは、あいつはあまり身嗜みを気にしないからな」


 魔術開発に没頭する生粋の研究者気質でもあり、一週間ほど食事を忘れたという逸話もある。宮廷入りしてからはマシになった様だが、前はもっと酷かった。


「それよりも二人の時くらいは敬語やめようよ……」


「断ります。父といえど、これは分別の問題です」


 我が娘が真面目なのはいいが、自分の前では少しくらい気を緩めて欲しいと思うリディックであった。


リディックは支部長とよく呼ばれてはいますが、役職的にはギルドマスターです。娘とは公私共に敬語使われているので少し寂しいと思っているらしいです。


あと、『魔術使い』は自称に近く、例えば上級魔術を一つでも覚えれば上級魔術使いを名乗れるといった具合です。『魔術士』以上はちゃんとした資格を表明しないと認められない職業です。


※イメージ的に料理が得意な資格なしの母さんと、資格を持って仕事をしている料理人の違いです。

 分かりにくいかな……

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