➤14話 事の始まり
『なぁ、アート君よ、どうしたらいいと思う?』
『ヴォルル……』
そんなのわかんねーよ、と。それもそうだ。邪神の痕跡を追うにしても手掛かりが無さすぎる。書本や知識に明るくない町や村を転々としてきたのもあり、未だに尻尾すら掴めていなかった。
『はぁ、まだまだ徒労にあり、だな』
足元にいる山のように巨大な土人形なら何かしら知識を持っているのでは、と任務ついでに期待もしていたが完全にハズレだった。
そうそう簡単に真相に迫れるわけではないよな、と大いにため息を吐きながら空を仰いだ。
『それにしても、また難易度査定のミスか?』
このところ支部長のリディックに介されて、いくつか低ランクの任務を頼まれている。いざやってみればA級案件だったりすることが多数ある。
勿論、支部長直々の調査のため別口から報酬が出る。だから、請けているが予想以上に多い。
『……リディックはないか。わざわざ俺に依頼をよこしてくるくらいだしな』
となると、誰かが意図的に難易度を操作した者がいる可能性があるということだ。しかし、自分は知ったことではない。
『はぁー、面倒に巻き込まれたなぁ』
そう言って、変化する雲の形をぼうっと眺めた。
事の始まりはいつも単なる善意からだ。
旅中に必要な食い物を調達しつつ野宿と移動を繰り返して、ようやくモメントに辿り着いたのだが、早速問題に突き当たった。
この世界の通貨……手持ちに金がなかったのだ!
様々な面で交渉するにしても金が絡んでくるし、金は圧力にもなり得る。無銭では何の力もなく、知識も得られない。どうしたものか、と路頭で考えていた折にある商人に声をかけられた。
以前、旅中に盗賊から偶然助けた商人なのだが、恩があるので魔物から取った素材などがあれば、少し高めに買い取りますと言ってくれたのだ。
ちょうど悩んでいたところだったし、快くいくつか出して鑑定してもらったのだが大層に驚かれた。手持ちのどれもA級の魔獣の素材だったらしく、是非とも買い取らせてくださいと懇願された。
そうして、さっさっと買い取られた金で装備や旅に必要な一式を全て一新し、冒険者に登録するための初期費用、今後の宿泊代に全て費やした。
その後も冒険者としていくつか任務をクリアしていったが、ある日に突然支部長に呼ばれた。部屋に入るやいきなり「大丈夫か!?何か大怪我とかしてないか!?」と肩を掴まれながら聞かれた。
事情を聞いてみると、どうやら規定のランク難易度に該当しないクエストが多く流出しているらしい。例えば、C級なのにA級相当だったりすることもあるとのことだ。
始まりは『大剣虎』の牙を売ったことを目につけ、俺という冒険者を追っていくごとに、俺がこなしたクエストのうち、数件かがA級やS級相当のものだったことが判明したらしい。
報告に偽りがないとみるや、C級からS級へと上げられた。その後も支部長の依頼で調査も兼ねて任務をやってきた。旅に必要なものを買うための資金も怖いくらいスムーズに貯まっていき、そろそろ街を出ようかな、って考えていた。
そんな折に、冒険者を知らない女魔術士とB級戦士冒険者が言い合いしているのを見かけ、見るに見かねて割って入った。
「ねぇねぇ、君は何のために冒険者になったの?」
何の因果か助けたエンジェと名乗る魔術士に支部長の伝手で護衛を依頼された。
目標地は、モメントから見える空を覆ってしまいそうなほどに巨大な樹木……《星樹》と呼ばれる樹の上まで連れて行くことが任務だ。報酬も文句なしの大金だ。
「……金のためだ」
その護衛の旅で一時休憩しているのだが、自分にものすごく興味を持たれたようで、事あるごとに色々と聞いてくる。
今回の件に限れば金が目的なのは間違いないが、俺の本来の目標は『復讐』だ。俺の大切なものを奪った奴らを殺す、端的にそれが旅の理由である。会って半日も経ってない魔術士に明かすものではない。
「そうは見えないけど……本当?」
「ああ」
嘘は言っていない。次の目的地は海を渡った先の大陸で、そのための資金集めに専念している。乗船代もそうだが自分は海上戦ではほとんど役に立てそうにないため、護衛を雇う必要がある。護衛をして、護衛代を稼ぐって妙な話だけども。
「はぁ……怠惰だな」
そう言って、また広々とした青空を仰ぐ。
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