幕間 凡人の剣士
玉座で頬杖をつく漆黒は、瞳の奥にかつての記憶を映していた。
『俺は『平凡』の身でありながら、人外の領域へと辿り着いたことに誇りを持っている』
しかし、それでも人外に一歩踏み出した程度だ。
その男の言葉は諦めにしか聞こえなかった。
『ああ、もちろん諦めた訳じゃない。生涯を賭けて、研鑽は続けるさ。その果てに敗北もするかもしれないが、『技』は絶やさないつもりだよ』
その男がたどり着いた領域は、誰もが理想とし人生をかけて終ぞ辿りつけなかった極地でもある。そこへ辿り着くために、血反吐を吐く鍛錬、幾星霜の死闘を積み重ねたのだろう。
『新たな次世代へと継承する事で、俺の人生に意味はあったのだときっと思える』
今を満足してなお、充分としなかった。
凡人の身でありながら、此処まで辿り着いたという真実は変わらず、重ねた鍛錬に偽りはなかった。
『それが『意思を継ぐ』ってことなんだと思う』
俺には剣しかないから、と笑いながら言った。
納得は出来なかったが理解はできた。
今思えば、気に入っていたとは思う。凡人でありながら更なる高みへ歩もうとするあり方を……
『まあ、綺麗事だと思われるかもしれんが、それでもいいさ。なんたって、お前のひと欠片でも破ることができたんだからな』
その男は、自慢するような顔で刀を握った。
もちろん腹立たしい態度ではなかった。むしろ心地の良い達成感と充実感に満ちた顔だった。
『……長話が過ぎたな。何処かで会えると良いな』
一体、何がこの男を突き動かしているのか。
それだけ分からなかった。
そして、その男は最後まで剣に生き、死んだ。
何を想って、最後としたのか。
それが気かがりだった。
(…………あれが弟子か)
そんな時、何の因果か弟子と邂逅した。あの男とは違い、並々ならざる才もあり、邪神の絶大な力に耐えうる器を持った子供だった。
(確かに隔絶した強さを持ち、遥かな高みへ登ろうとする気概もある。しかし……… お前の言う『意思』はとやらは感じなかった)
受け継いだ技には何も感じなかった。
見えない道を彷徨う亡者と同じだ。
あの時は、転生者とはいえ子供だったから少し情けをかけたに過ぎない。
(……お前の弟子が、虚に世界を滅ぼすならば、自らの手で消してやろう)
『あれ』が絶大な力を持ち得た理由は能力だけではない。能力だろうと、器が伴わなければ崩壊する。
しかし、『あれ』は例外中の例外だ。
転生者には持て余すもの。
(───そう、我が現し身であろうともだ)




