68話 見えたもの
────星が見えなかった。
生まれながらに闇を抱え、すべての光が黒く塗り潰され世界。暗転した世界に住んでいた。
そして、私は模造人間。実験生物。
その失敗作だった。無限の魔力を扱えない駄作。
殺処分に連れて行かれようとした時。
黒い闇を纏う狼が現れた。
黒狼は人の姿へ変化して、外に連れ出してくれた。
追ってくる全ての敵を屠って私を救ってくれた。
でも、やっぱり顔が黒くて見えなかった。
『あの…貴方は……?』
『……俺か? そうだなぁ…』
と、少し男は悩んでいるようだった。
名乗ることに抵抗があるならば、せめてと。
『あっ、あの!言えないのでしたら構いません。その代わり、私に名前をくれませんか?』
『名前を?』
『はい、貴方に覚えていただく為の個体名。その…名前付けて欲しいのです』
『……分かった』
思考を巡らすような動作をする彼。
私は不安ながら、少しだけワクワクしながら待っていた。そして、彼は「よし」とひと頷きした。
『お前の名前は、マリー』
『マリー……』
意味は、健やかに長生きができるように。
───そして、光をもたらせるように。
『……マリー、その名を覚えておこう』
初めて与えられたもの。
そして、いつしか私は───……
◇◆
目を覚ますと、アートが自分を抱えていた。
抱えていた闇が全て浄化されて、初めて見えた。
夜空にいっぱい、輝く星が。
「綺麗……」
「星空か?」
「……うん」
それだけじゃなく、彼の姿もまた美しく見えた。
全身黒の体毛の中で一房、純白の髪。
それは暗闇を差す一筋の光のようだった。
「……私の名前思い出したんだね」
「ああ、マリー。響きの良い名前だ」
「……ふふ、ありがとう」
約束は果たされた。
それが自分の記憶ではなかったとしても。
「アート……だったかな」
「ああ、なんだ?」
無限に魔力を生み出す能力はすでに消失している。
熾烈な光が無限の魔力……闇を浄化した。
それ程の光をもたらせた理由をもう一度、教えて欲しかった。
「なんで、私を倒せたの?」
「……俺の忠誠はアベルのものだ。主に応える為にも俺は存在しなければならない」
「──…そう、貴方は白狼だったね。捧げた者の為ならいくらでも強くなる。……ああ、羨ましいなぁ」
その気持ちを自分に向けて欲しかった。
羨望の果て。想いは叶わなかったが、とても満たされていた。マリーは光に消えゆく。
───その最後に。
「……気をつけて」
アートの瞳を見据えて忠告した。
「敵は、ネロじゃない──」
「なに……?」
マリーはそう言い残して消えた。
不気味さを孕んだまま夜が明けようとしていた。




