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01

 翌日、昼休み。

 朝から降っていた雨は、もうすでに上がっている。陽が照ってきたおかげで、じめっとむしっとした空気が肌にまとわりついて気持ちが悪い。不快指数は七十五くらい。

 部室に集まった僕たちは、昼食をとりながら作戦会議をすることになった。


「ののちゃんは、きっとまだあたしたちが気づいてないと思ってるはず」

「どうして?」


 デザートの抹茶プリンに舌鼓を打ちながら、静巴先輩が尋ねる。


「さっき美術の課題出しに行ったらさ、普通だったんだよね」

「普通?」

「そ、普通。いたって普段と変わらない、ぽややーんとしたののちゃんだったよ」

「でも部長。それは冷静を装って、あたかも自分ではないですよアピールしてるだけかもしれませんよ」

「あたしもそれは勘ぐったんだけどねー。うーん、どうなんだろ。あたしが見る限りじゃ、普段と変わらないように見受けられたんだけど……」


 腕組し、先ほど見てきた東雲先生の状態を思い出すように、部長は唸る。

 そこで――ガラッと、毎度のように部室のドアが開いた。しかし勢いがない。


「またこんな所でたむろって。ここは空き教室なのよ」


 彩華さんだ。僕らを見るなりため息をついた。

 生徒会か日直の仕事の最中なのだろうか。その腕にはいっぱいのプリント用紙を抱えている。

 どうりで、声にいつもみたいな覇気がないわけだ。


「うーん……」

「ん、姫川さん? そんな気難しい顔してどうしたの?」

「ああ、今ですね――むぐっ」


 彩華さんに状況を説明しようとしたところで、横から静巴先輩に口を塞がれた。

 やっぱり、いい匂いがする。


「んん?」

「いえ、なんでもないですよ。ね、ひめさん?」


 横目で見た静巴先輩は、僕に目線で何かを訴えているようだった。

 そんな中、頭を悩ませていた部長と彩華さんの視線が合う。


「う、あ……」


 なぜか彩華さんは反射的に顔を背けた。その顔は、少し赤いように思える。

 なおも彩華さんに視線を注ぐ部長。

 やがて真顔が綻び、にんまりとした弓型の笑みを作った。


「いいこと思いついた!」

「な、なにがっ!? 」


 急に声を上げられビックリしたのか、彩華さんの肩が跳ね上がる。


「彩華、放課後ののちゃんに用事とかない?」

「東雲先生? 別にないけど」

「いや、あるでしょ」

「ないってば。放課後は役員会議で忙しいんだから」

「んじゃ、はい」


 どういう話の流れで「んじゃ」なのかは理解できないけど。

 部長はボストンバッグからお菓子を取り出し、彩華さんに差し出した。


「また賄賂? そんな手に何度も引っかかる私じゃな……ッ!?  こ、これは、幻のマシュマロフォンデュプッキー! お菓子のくせに限定生産販売一万個でそのくせコンビニの各店舗にランダムで二百個までしか取り置いていない……あの、噂のプッキー――!! 」


 彩華さんって、もしかしてコンビニ菓子マニアなのかな。

 それともただ単に、マシュマロ味は必ずチェックする変人か……。


「なんで美咲が持ってるのよ!」

「素に戻ってるぞー」

「あ……、こほんっ! なんで姫川さんが、持ってるの?」

「そりゃあコンビニで買ったからだよ」

「へ、へえー」


 部長と話しているのに、彩華さんの視線はプッキーに釘付けだ。

 それをいいことに、部長はプッキーの箱を右に左に視界移動させる。

 やはり彩華さんの視線はそれに追随し……、


「ハッ! そ、それで、私になにをしろって言うの?」


 気づいたように体裁を繕った。


「いやーあたしたちって、友達ジャン!」

「だからなに?」

「プッキーを進呈するから、ののちゃんがさっさと帰っちゃわないように足止めしてくんない?」

「足止めって。あなた、また変なこと企んでるの?」

「違うよ違う。ののちゃんとゆっくりお話したいなーって思っただけだよ。親睦を深めたいって言うかさ……他意はないっ」


 眼力つよ!

 彩華さんがじゃっかん引き気味な顔をしている。ややあって小さく息を吐くと、今度は呆れたように肩をすくめた。


「どうだか。あなたがそういう顔する時って、いつもよからぬ事を考えてそうだけど。まあ仕方がないわね。プッキーには代えられないし」


 彩華さんが釣れた。どれだけ大きな釣り針だったんだろうか。不正を忌避する彼女が賄賂に負け、代えられないとまで言い切るなんて。

 マシュマロフォンデュプッキー、恐るべし!


「よしきた!」


 勢いをつけて椅子から飛び降りると、部長は彩華さんへと駆け寄る。

 そして、その肩をばしんばしんと叩いた。


「痛いわね、なんなのよ」

「なら早速、今日の放課後に頼むね!」

「うっ……、わ、分かったわ」


 返事する彩華さんの顔は、やっぱり少し赤かった。


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