勇者の終わりと拳士の始まり
初投稿、誤字脱字、文章のおかしいところが多々あると思いますが、試行錯誤しながらやっていくので、これからもよろしくお願いいたします。
「なあユース」
「んあ?」
瓦礫が降りしきる中、オレは腕の中にいる友に声をかけた。
「これで、一応世界平和? ってことになるのか?」
「ん~どうだろうな? ただ魔王はぶちのめしたし、しばらく平和になることは確かだな」
崩れる魔王城でこれから自分に訪れるものをまるで気にした様子も見せずに勇者、ユース・グレイラットはヘラヘラと気楽に笑っていた。
彼の体は完全に弛緩し、動くのは口だけで最早立つことすら出来ない状態であった。
その彼の手元には根元から折れた剣が転がっていた。
「つかさぁ、これひどくね? この剣、仮にも伝説とか呼ばれてるくせに最後の最後でポッキリ折れやがってよ、おかげで肝っ玉が冷えたわ。散々雑に扱ったツケがここにきてやってくるとか普通思わないだろ」
そういう彼は言葉の割にはそこまで怒っている様子はなく、それどころか彼は剣に対して労いの念を送っていた。
「ユース」
「んだよリク、言いたいことがあるなら早く言えって、俺はもうあんま時間ないぞ」
そんなことはとっくに理解している、理解しているからこそ何を言えばいいのかわからない。
彼の死はもう避けられない、たとえ今から彼の傷を完全に治癒することが出来たとしても彼の死は覆らないだろう。
彼は生命の核、『魂』をなくしてしまったのだから。
視界が滲み、声が震える、言いたいことはたくさんあるのに言葉が出ない。
「オレは……オレは!?……っ!」
「おうおう、なんだなんだ、何でも言ってみろ。ここにいるのは世界の勇者様だぞ」
そう茶化すユースがあまりにいつもらしくて、涙と同時につい本音が零れてしまった。
「オレは……これからどうすればいい?」
「…………」
「オレはユースのいない世界なんて知らない。オレを連れ出してくれたのはユースだ、面倒を見るって言ったのもユースだ、これからも一緒に旅をしようって約束したのもユースだ!!」
震えた声はいつの間にか怒声に変わり、腕の中の彼に向かって、ありったけの感情をぶつけていた。
彼は黙ったままこちらを真剣な眼で見ていた。
「オレはまだ全然世界のことなんて知らない! ユース達と旅をした二年間だけだ! 勉強だって教えてもらってない! 文字だってまだ読めないし書けない! オレはこれからどうすればいい! オレはどうやって生きていけばいい! オレを……」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃに顔を濡らしながらもその気持ちを言ってしまった。
「オレを……一人にしないで!!」
生まれてからずっと孤独だった、頼れる人なんていなくて、いるのは汚い大人と血と闘争に酔った人間だけだった。
物心付いたときから戦いを強要され、生き残るために多くの命を摘み、それが当たり前なのだと壊れた価値観を持った自分を救い出してくれた勇者。
やり方は荒っぽかったが、それでもあの地獄から救い出してくれたのはこの勇者なのだ。
勇者ユース・グレイラットは己にとって恩人であり、友であり、兄であり、そして『父』と呼べる存在になっていた。
涙が止まらず、必死に嗚咽を耐えようとしていると、腕の中からため息が聞こえた。
「ったく、んなガキみてえなこと言うんじゃねえよと言いたいところだが、あいにくお前はまだガキだったな」
やれやれと言った感じで彼はこちらに手を伸ばそうとしたのだろうが、弛緩した体に力が入ることはなく彼は再びため息を吐いた。
彼はこちらを見つめるとめんどくさそうに声を出した。
「お前な、いいかこれから俺は死ぬの! これは覆らないし仕方ないの! 一緒に旅してやれねえのはワリィと思ってるが、いつまでも俺にこだわるな」
彼は鬱陶しそうに、けれど手のかかる子供に言い聞かせるようにそう言った。
「世界には俺よりすげえ奴だってたくさんいる、別に強いことだけがすげえってわけじゃないんだ。俺より頭いい奴はたくさんいるし、俺より優しい奴なんてそれこそ星の数ほどいるさ」
彼の体が徐々に発光していき、足元から消失していく。
魂を失った肉体は世界に留まることが出来ず、その肉体は消滅する運命にある。
「もう時間か、思ったよりは持ったほうだな」
体が消失しているのにも関わらず彼はやはり笑っていた。
けれども、彼は消失し始めた体のことなど意に介さず、自分に対してこう言った。
「そうだ、お前学校行け」
「え?」
あまりにも唐突だったが、彼はまるでそれが名案とだと言わんばかりに笑っていた。
「学校なら世界のことを学べる、勉強も出来る。それに……」
彼はそこで区切り、満面の笑顔向けてきた。
「お前を受け入れてくれる奴なんてたくさんいるだろうよ」
「……ユース」
彼は本気でそれを言っているのだろう。
そうでなければここまで屈託ない笑顔を見せることはないだろう。
「そうだな~、どうせなら帝都の騎士学校行ってこい、俺の母校があるはずだし、あそこはなかなか楽しいぞ」
肩口まで消失し、残りの時間もあと僅かとなっても彼は泣き言一つ言わず、未来を悲観する自分の心配をしてくれている。
そのことが嬉しく、それと同時にいつまでも泣いている自分が恥ずかしくなった。
「わかった、ユースの母校に絶対行く。そこでオレのやりたいことを見つけてくる」
涙を拭い、消え行く彼に笑顔を向ける。
彼もまた、その笑顔につられて笑みを浮かべる。
「そうだ、お前はまだ十四歳のガキだ。 ガキはガキの間にやりたいこと全部やっとけ。 大人になると色々めんどくせぇことが山済みだからな」
首まで消失し、彼との時間も残り僅かとなった。
消失する前に彼は眠るようにその瞳を閉じ言葉を紡いだ。
「俺は俺の人生を生き抜いた、悔いも後悔もありはしない。だからリク、お前は自分の道を進め良いな」
それはこちらへ確認の言葉だった。
その言葉にオレはありったけの笑顔と声量で、ユースが安心して逝けるように答えてやった。
「もっちろん!」
オレの言葉を聴いたユースは満足そうに笑った後、その姿を完全に消失させた。
手から重みが消え、そこには最初から何もなかったようにただ空間だけが空いていた。
「ありがとうユース、アンタに合えたことがオレにとって一番の幸せだったよ」
自然と零れた感謝の言葉、ユースの体はすでに無くなってしまっているが、それでも空へと昇っていく粒子が一瞬だけ強く発光したのを見て、確かに自分言葉は彼に届いていると思えた。
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そんな感動的? とも言える別れから早四年。
オレは亡きユースの言葉どおり、帝都の騎士学校に無事入学……
「なん……だと?」
出来ていなかったりします。はい。
ただ今を持ちまして四浪が確定しました。
手に持つ受験番号は張り出された掲示板を何度見ても存在しなかった。
帝都の騎士学校、ユースが通っていたというその学校は名を『リメディア騎士学校』
そこは帝都内で最難関の騎士学校であり、当然受かるのは容易くはない、ないのだが……。
「ユース……もしかしてとは思っていたけど」
考えたくなかった結論、実際は一回目の受験で出ていた結論だが、あまりに残酷な結論故に見て見ぬ振りをしていた。
それでも、もう認めるしかないだろう。
「オレ、ものすごく馬鹿なのかもしれない」
はらりと自分の頬を水が流れたような気がした。
約束はいまだ果たせず。
リク・レオモルド
一回目の受験、文字が読めず、落選。
二回目の受験、問題が理解できず、落選。
今回の受験、学力不足で、落選。