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「カズっち、女の子といる最中、胸に視線を感じるひとは嫌われるぞ?」

0時定期更新の予定でしたが、導入部分である一章が終わるまで1時間ごとに更新していきます。(7月13日)方針が二転三転してしまって申し訳ないです。

 ノアはさておき、放課後である。

 学園生は各々の望む授業を取っているが、全ての時間割を埋めなければいけないのは

共通のルールだ。

 従って終業時間は必ず皆、同一になる。

 最後のコマの授業が終わると全員、自分のクラスに戻ってホームルームに参加して解散となる。

 ホームルームに出なければ全単位が無効になる。

 奔放が過ぎて不真面目になりがちなアクマ、聡明が過ぎて効率を重視しがちな天使、

抜け目なく楽をしようとする人間。

 多様な三種族を縛り付けるための鎖だった。


「まぁ――それでも俺の知ってるアクマは話も聞かないでギターのチューニングしたりしてるんだけどね」

「前から思っていたが、カズヤは独り言が多いな」


 二人はヨウコとリッピが来るのを待っていた。

 教師から用事を頼まれているらしく、終わったら迎えに来る、という約束だった。


「でねー」

「うん」


 と、ゼップの席のそばを同級生が通りがかる。


「あはは!」


 二人がふざけ合ったせいで鞄がゼップの頭に当たった。  


「あ――ごめん」


 瞬間、二人が青ざめる。恐怖が顔に張り付いていた。

 天使と人間の二人組だった。

 ゼップは二人に一瞥くれて、興味を失ってギターを弄りはじめた。


「気をつけてなー」


 にへら、とカズヤが手を振る。


「う、うん。ばいばい、カズヤくん」


 助け舟にありがたく乗り合わせた二人がたたっ、と逃げ去っていく。

 カズヤがそれとなく周囲を見渡すと、遠巻きに見ていた同級生がつい、と首を背けた。

 視線を戻すと、ゼップはギターに集中していた。


「カズヤ」

「うん?」

「余計なこと、するな」


 ビィン、ビィン、とギターの弦が震える。


「あはは。悪い! 余計なこと言った! ほら俺、ヒトの心読めない奴だからさ!」

「…………」

「ほんと、ヤになっちゃうよなー」


 ゼップはカズヤをちらり、と流し見る。


「余計な心配するな、という話だ」

「なんだーそっちかー。俺の心配は安値で販売中だから、いつでも押し売りしてやるよ」

「クーリングオフさせろ」

「返品は二秒までです。ついでに本日の受付時間は終了致しました」

「……あぁン?」

「いやんっ、怖い! クレーマーよ!」


 カズヤが身体にしなを作ってくねらせると、ゼップがギターを置いた。

 バチン! と尻尾の電撃が爆ぜた。


「待った待った待った待った待った待った、それは反則だ?」


 ゼップの顔に、酷薄な笑み。


「自分、アクマで不器用で、ついでに空気読む奴なんで」

「うそだーッ! 学園にバイオレンスな空気は似合わない!」


 学生プロレス種族無差別級・決勝戦の開始だった。


「二人とも、何やってんの?」


 迎えにきたリッピがキョトン、と首を傾げる。

 椅子を構えて息を切らすカズヤ。

 カズヤの腕を掴んで押し倒そうとしているゼップ。

 二人ともほこりまみれだった。教室にはもう誰もいなかった。


「こいつが”##”$#”!」

「あいつが%(&’#”#!」


 互いを指差し。二人による未成年の主張。


「あーはいはいはいはいはい。けんかしないの」


 結論。女は強い。


「ヨウコは?」

「外で待ってるよー。――一応」


 リッピの歯切れが悪い。


「うん?」

「ま、ままま、とりあえず出ようよ」


 リッピが二人の背中を押して教室の外へ出る。

 廊下に出るとヨウコがいた。


「あ――、やぁ」


 優男と一緒にいた。


「…………。おぅ! エレルじゃないか!」


 ゼップがカズヤに「誰だ?」と目線を寄越して尋ねている。


(俺とてめぇの元クラスメイトだよボケナス)

(こんな奴いたか?)

(えぇい……空気どころか空気のような奴すら認識できない奴め)

「久しぶりだね、カズヤくん」


 ひそひそ話をしている二人に、エレルが声をかけていた。


「お、おう。クラス変わって、授業でも会わないしなー」


 学園には年に一度、クラス替えがある。ゼップとカズヤはずっと同じクラスだが、エレルと一緒だったのは一昨年までだった。


「背中、大丈夫か?」


 さっきのドッヂボールでヨウコを庇ったのは彼だったりする。


「変化球だったからね。野球のときは負傷退場したけど」

「アハハハ、アハハハ、アハハ」


 リッピが笑って誤魔化していた。


「おそらがきれい」


 そのあからさまな一言で盛大に失敗していた。


「……あのね、カズちゃん。エレルさん今日、一緒にきちゃだめ?」

「一緒に?」

「うん――だめ?」


 と、ヨウコが首を縮ませてカズヤに『お願い』の上目遣いを繰り出す。


「邪魔じゃなければ一緒したいな」


 と、しばらく会わない間に押しが強くなったエレル。


 ――おまえは、いいのか?

 ――カズっちがいいなら。


 高速で怪しいブロックサインがしゅぴんしゅぴん、とリッピとカズヤの間に飛び交う。

 目にも留まらぬ速さだった。魔法の詠唱のようだった。


「それなら、俺は抜ける」

「ぬ? 何故に?」


 訊きつつ、カズヤはサインを送る順番を間違えたことを悟っていた。


「奇数の集まりは、あまり好きではない」


 ひとり、あぶれやすいから。

 その感覚までは口にしなかったが、ゼップがそういう感覚の持ち主であることをカズヤは知っている。


「ヨウコ、気にするな。最近お前たちと一緒にいて本気で弾いていないし、ちょうどいいだろう」

「……うん。でもごめんなさい、ゼップさん」

「いい」


 ゼップがギターを背負って一人で歩き出す。

 最初から最後まで、エレルの方はまるで見なかった。


「悪いこと、したかな」


 困った顔になったエレルが逃げ場を求めて呟いた。


「おニィは、カズちん以外にはいつもあんなんだから気にしないで、センパイ」

「……。そうだったね」

「うん。ヨッコも気にしちゃだめ。わかった?」

「……。うん」

「よっし! ここからはリッピの休日です! 景気よく張り切ってゴー?」


 真剣な顔から一転、ころっと笑顔になったリッピが拳を突き上げる。


「ごーごー!」


 カズヤがリッピと一緒になって騒いでいた。肩も組んでいた。

 その様子を見てヨウコがやっと楽しそうに笑った。

 そんな彼女をエレルが見ていた。


「――ほんとによかったの?」


 リッピがカズヤに小さく囁く。


「…………。何がー?」


 リッピの頬が少し、不満を訴える子供のようにぷくーっと膨らんだ。


 ***


 学園は全寮制である。

 門限は十八時。

 夕飯前に設定されているが、それを普段から守って申請さえしっかりすれば外出の

許可は得られる。


「あたしか兄ちゃんだったら、ある程度融通きくとは思うけどねぇ」


 とはリッピ=ムラサメの発言。


「いつも言っているけど、それはなんだか反則臭いので却下だ!」


 小心者のカズヤとヨウコは特権行使に消極的だ。

 校門には警備員がいて出入国(?)を管理している。

 変質者が来たらカラーボールを発射するマシンガンで弾幕が出来る。

 カズヤは訓練でその光景を見たことがある。

 面白半分で強盗役に立候補した学生の姿は、同情に値するものだった。


「じゃ、行くか」


 外出の届出を代表カズヤ=アサクラの名前で出して街へ一歩を踏み出した。

 校門の脇。

 学園名のところには『私立ムラサメ学園』の名前が金色に輝いていた。


「で、どこ行きたいんだ?」

「ゲーセン行きたいなー。抱いて寝るぬいぐるみが欲しい」

「……ふむ」


 知らず、リッピに抱かれる人形を想像して胸にカズヤの視線が行く。


 ――人形のくせに。

 ――人形のくせに!

 ――人形のくせにぃぃ!


「カズっち、女の子といる最中、胸に視線を感じるひとは嫌われるぞ?」

「ぐはっ」


 道中、大きな声で話しているのはリッピとカズヤだ。


「そんなに触りたいなら八十センチ中盤を維持する自慢の桃マン、タッチくらいは考えなくもありません!」

「なにーっ! じゃさっそく……」

「え? なに本気にしてんの? ばかじゃないの?」


 振り逃げだった。


「おぶぅぅ……なんたる仕打ち。このアクマめ!」

「アクマです! カズっちごとき、掌の上でごろんごろんです」


 その光景を見て愛想よくにこにこしているのがヨウコで、時折彼女に話しかけるのが

エレルだった。


「賑やかだね。いつもこんな感じ?」

「はい。見てるだけで幸せになれます」


 ヨウコが穏和な瞳を向ける先で、二人がまた騒いでいる。


「あの二人、付き合っているのかい?」

「え?」

「や、あんまり仲が良いものだから。違うのかな?」

「…………。たぶん、違うと思います」


 でも、とヨウコは続けた。


「そうなったらきっと二人とも幸せで、私も嬉しいと思います」


 彼女はあまり表情を作らずにそう言った。

 表情と発言の非同調。

 彼女にしてはとても珍しいことだったのだが――エレルにはそれがわからなかったし、理解できる二人は彼女を見ていなかった。

 四人は程なくして、人混みで賑わうアメムラシティ駅前のショッピングモールに到着

した。

 ファーストフードショップにクレープ屋に、服に本。なんでも揃う場所だ。

 そして金さえ続けばいくらでも時間を潰せる場所だ。


「遊ぶぞーっ!」


 意気込んでゲームセンターにリッピが飛び込んでいく。

 三人が追いついたころには彼女の操作するクレーンアームがぬいぐるみの山に挑んで

いた。

 結果、惨敗。


「むきーっ!」


 たぬきのぬいぐるみが欲しいらしい。


「俺がやろう!」


 カズヤがずいっ、と前に出る。

 結果、惨敗。

 彼が天から与えられた才能設定値はペン回しと紙飛行機工場で使い切っていた。

 二物を与えられているので上出来だろう?


「役立たず! 甲斐性なし!」

「うぅー……」

「あれを見なさい!」


 隣の台ではエレルが三つほど景品を捕獲していた。


「わー、エレルさん、すごい」

「や――まぐれだよ」


 あげる、と手渡されたぬいぐるみを抱くヨウコが愛らしく笑う。


「ひとつ、リッピちゃんにあげていいですか?」

「もちろん」


 カズヤがひとり、蚊帳の外だった。


(だがこんなとき、普段苛めてくるアクマっ娘が「しょ、しょうがないわね」と助けて

くれるはず!)


 カズヤの視線がリッピに向かう。


「やーん、センパイ、ステキ」


 嗚呼、無残。


「敗者は所詮ゴミであったのだ、まる」


 カズヤは持ち歩いているネタ帳兼・日記帳にメモする。

 その間にリッピは別のクレーンゲームに移動していて、エレルとヨウコは何やら話していて、


「ん?」


 エレルが何かメモを渡しているのが、カズヤの目に映った。


「カズっち、挽回のチャンスをやろう。五百円ちょうだい」

「やなこった」


 ぱちんっ、と静電気が弾けるような音がした。


「だめぇー?」


 リッピの尻尾の先端がカズヤの顎をフェザータッチで擦っていた。


「……え、うーん」


 逃れるようにカズヤが背伸びする。

 尻尾の先端が持ち上がって、リッピのスカートも徐々に徐々に持ち上がって――。


(……ニクい。俺の平凡な身長が憎い)

「どんだけがんばっても所詮は太ももどまりの男だもんね」

「ギャーッ! バレてたーッ?」

「ほほほ、計算済みに決まってるでしょーが、バカズちん」


 結局カズヤは五百円を没収され、店内での時間があっという間に過ぎていく。

 その間、ヨウコはあんまり喋らなくなって、エレルはリッピとカズヤにちょくちょく

話しかけるようになって――門限に遅れないよう、時間がきたら全員で帰った。


 笑っているのは、リッピとカズヤだけだった。


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