表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

「――カズヤくん、あとで少し話せないか?」

 ヨウコの相談が終わったあと、カズヤは礼拝堂でアリアと共に脚本の製作に

取りかかっていた。

 大まかな流れはカズヤも知っているが、神話の細部となると明るくない。

 書いては彼女に確認して、修正して、また書いて、の繰り返しだった。

 二人でやっている分、サボったり現実逃避ができないので作業ははかどっていた。


「このペースなら十分間に合いそうですね」

「ヨウコもエヴァ役、ちゃんとやるってさ」

「まぁ。……断られるかもしれないと思っていたので、よかったです」


 アリアはホッとした様子だった。

 夕飯の時間まで二人で作業をして、一旦解散となった。


「またあとで来るよ」


 カズヤは約束をしてから食堂へ向かう。

 いつもなら仲の良い四人で食事を摂る場面だが、今日はカズヤが遅れたので席順が普段と違う。

 ヨウコはリッピ、メフィーと座っていて、ゼップはひとりでポツン、と遠くに座って

いた。

 カズヤはゼップの隣を選んだ。


「そっか、やるんだ。いいね! ヨウコの晴れ姿見に行くよ!」


 メフィーの大きな声が聞こえた。

 儀式の参加を報告しているようだ。


「あたしも行くよ」とリッピ。

「――がんばります」


 カズヤの座る位置から見てもわかる。

 ヨウコはガチガチに緊張していた。

 アクマの天使教信者は少ないが、エヴァはアクマたちにとって神に屈しなかった聖母である。

 だからエヴァを演じることはアクマたちにも名誉なこととして認識されている。


「出るのか、ヨウコ」


 食堂でもギターケースを手放さない男がカズヤに質問した。


「聞いての通りだ」

「そうか。ヴァリ子も応援している」


 ゼップはそれ以上、何も言わずに黙々と食事を続けた。


「そういえばリッピちゃん、好きなひとがいるってほんと?」

「え」

「なぬっ!」


 ヨウコの発言にアクマ二人がそれぞれ過敏に反応した。


(……あ、やばい。ヨウコに口止めするの忘れてた)


 ちょうど食事も終わっていたので、カズヤはそそくさと逃げるように退散した。

 食堂を出るとき、カズヤが背中にキツイ視線を感じたのは――彼の気のせいではない。


「あいつにそんな奴いたんだな」

「やっぱりアニキとしては気になるところ?」

「家族だからな」


 食堂を出たカズヤはアリアとの約束通り、礼拝堂へ向かう。

 寮の前まではゼップと二人で帰って、寮の前を通り過ぎて――。


「なんでついてくる」


 ゼップが後ろに続いていた。


「わけあって、ヨウコが助力を必要とするときは助けると決めた」

「……んで?」

「演劇には音がいるだろう?」

「え? お前、演奏するつもりか? 人前で? 誰かのために?」


 こくり、とゼップが無言で頷く。


「まじかよ」


 カズヤの知る限り、ゼップが誰かのために演奏したことは一度もない。


「アリアさんがいいって言うなら、ありだとは思うけど……」

「許可がなくても俺は勝手にやるぞ」

「……これだから、アクマって奴は」


 決めたら一直線である。

 決定権を持つアリアは、


「あら。いいんじゃないですか?」


 二つ返事で了承だった。


「ただ、やはり神事ですから。真面目にやって頂きたくはあります。厳かな場面にはそれなりの曲を、悲しみに暮れる場面ではそれなりの曲を。それが条件です」

「…………」


 ゼップはギターケースを軽く開いて一考する。


「わかりました。ヴァリ子も了承しています」

「えぇ。『原罪』を歌うストラト・ヴァリウスの協力が得られるなら、これほど心強い

ことはございません」


 カズヤはよくわからなかったが、ゼップはアリアの発言に驚いていた。


「あなたは、」

「よろしくお願いしますね」


 何か言いかけたゼップを、アリアは笑顔で遮った。


「…………」


 ゼップは無言でギターケースを開き、チューニングをはじめる。


「何曲かやります。劇中で使えるか、判断してください」

「はい」

「じゃあ、俺も書きはじめるから、わからないところあったら質問します」

「はい」


 礼拝堂に曲が響いて、カズヤはペンを走らせる。

 時間はあっという間に過ぎていった。

 先に仕事を終えたのは、ゼップの方だった。


「申し分ないです」


 選曲が終わってアリアが嬉しそうに手を叩く。


「見事なものですね。神話に伝わるストラト・ヴァリウスの音色、堪能させていただき

ました」

「神話があるのですか、こいつに」

「えぇ。興味があるなら今度本を貸しますよ?」

「気恥ずかしいのでやめてくれ、とヴァリ子が言っています」

「そうですか。がんばって説き伏せてやってください」


 アリアが唇に手を添えて上品に微笑んでいた。


「……やー、やっぱゼップはすげぇなぁ」


 カズヤはずいぶん前から手を止めてしまっていた。

 彼がゼップの演奏を聴くのは常に部屋の壁越しなので、間近で体験するのは初めてに

近い。

 礼拝堂の高い天井も相まって、とても聴きごたえがあった。


「カズヤさんの作業はどうですか?」

「大筋は完成――だと思う」


 カズヤからA4用紙の束を受け取ったアリアがパラパラ、と紙面を確認してめくって

いく。


「――どうかな」

「きれいにまとまっていると思います。私が伝えた通りやってもらっていますね。明日も来れますか?」

「うん、あけておくよ」

「俺はカズヤの脚本待ちだな」

「そうですね。場面が全て決まってから、曲の順番を決めていきましょう」


 カズヤは脚本が完成したらゼップに声をかけると約束して後片付けを始めた。


「じゃあ、また」


 と別れの挨拶を交わしたところで、礼拝堂の重厚な扉がギギギギギ、と音を立てて

開いた。

 学園生が自由に歩き回れる時間なので、アリアへの相談者が来訪することは珍しくないのだが、


「――げ」


 カズヤが声を上げる。見覚えのある顔だった。


「あ」


 来訪者も気づいた。エレルだった。


「誰だ?」


 ぼそ、とゼップが呟いて「なんでだよ」とカズヤがツッコミを入れた。


(エレルだよ! この前ヨウコと色々あった!)

(ああ、そうだったか)

「……お邪魔だったかい」


 憮然とした表情でエレルがカズヤに突っかかる。


「いやいやいや。そんなことない。久しぶりだな、会うの」

「そうだね」


 ――ひたすらに気まずかった。

 カズヤは思わず胃の辺りを押さえる。


「脚本、がんばってるの?」


 カズヤが抱えているA4用紙の束に目をつけたエレルが訊いた。


「え、あー、うー」

「……どうなんですか?」


 エレルがアリアを見る。


「順調ですよ」


 しどろもどろになっているカズヤに代わって、アリアが返答した。


「この分だと、明日にはもう完成しているでしょう」

「そうですか」


 エレルは神妙な顔を崩さない。


「――カズヤくん、あとで少し話せないか?」

「う?」

「話がしたいんだ」

「今じゃだめなのか?」

「アリアさんに相談してから、キミと話したい」

「うーん……わかった。場所は?」

「裏庭にしよう。一時間後でどうかな」


 というわけで、二人は話をすることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ