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「俺たちは人間だから、アクマと同じようにはなれないし、考えられねぇよ」

 ――さて。話をカズヤへ戻す。


「ったく、なんなんだあのクソアクマは」


 電話を切ったあと、カズヤは寮の自転車を借りて街へ出ていた。


「いまどきこんな使い古されたクソ展開、流行らないっつーの……」


 寮母が使っている買い物カゴ付き、荷台つきの自転車である。チェーンが錆びている

せいで加速が悪く、スピードもあまり出せないが歩くよりましだった。

 バスはまだ動いている時間だが、カズヤは運賃をケチったのだ。


(あ、いた)


 カズヤがバス停の傍で佇むヨウコを遠目に見つける。

 彼が近くまで寄ると「……カズちゃん」と、ヨウコは弱々しく呼びかけた。


「……ていっ」

「あだっ」


 カズヤはその態度が気に入らなかったので、片手でチョップした。


「理不尽な迎えの電話に応じてやったのに辛気臭い顔してんじゃねぇよ」


 びしっ、びしっ。


「いたい、いたいーっ」


 ヨウコがううー、と頭を押さえる。


「……ほれ、帰るぞ」


 カズヤが自転車を引いて大通りを歩き出す。


「んで、いったいなんで俺が迎えに呼ばれたんだ? なんかあったのか?」

「えぇと――ゼップさんの気まぐれ、かな……」

「なんだそりゃ。ったく、これだからアクマはよぅ」

「…………」

「って、待て。別にお前のアレが嫌いだって言ってんじゃねぇぞ? 俺はリッピのデリカシーのなさとゼップの乱暴さ加減に頭きてるだけだからな」

「リッピちゃんとも何かあったの?」

「大アリだ! あんにゃろうめぇぇ……」

「野郎じゃないでしょう」


 ヨウコは困ったように苦笑した。


「カズちゃんって、二人とよく喧嘩するのにいつも一緒にいるよね」

「本気で嫌いなわけじゃねぇからな。……本気でうっとうしいときもあるけど」

「そっか」


 ヨウコはカズヤの隣に並んで歩く。カズヤの歩く速度についていくために少し早歩きになっている。


(……でも、歩く速度は変えないもんね)


 微妙な年頃だった。


「ね、カズちゃん」

「ん?」

「リッピちゃんのこと好きだよね?」


 ぶっ、とカズヤが噴き出した。


「おおお、おいおい、なんだそりゃ?」

「違う?」

「あーいや……あいつ、別に好きなひといるぞ?」

「えっ、そうなの?」

「お前も知らなかったか。……んで、なんでそんなこといきなり訊くんだよ」


 問われたヨウコはもったいつけるように、少し黙ってから言った。


「さっきゼップさんと話してて、すてきだなって思ったの」

「……なんだ、惚れたのか?」


 カズヤは内心穏やかではなかったが、平静を装って確認した。


「そういうのじゃなくて。なんていうのかな――」


 うまく整理できていなかったらしい。カズヤはヨウコの考えがまとまるのを待った。


「私ね、自分がアクマになるのはすごく嫌なんだけど」


 前置きしてから彼女は言う。


「リッピちゃんやゼップさんのことは大好きなの」

「……うん」

「おかしいよね。こんなに好きなら、自分がアクマになっちゃっても嫌じゃないはずなんだけどな……」

「それは、しょうがないんじゃないか」


 からから、と自転車のタイヤが回る。


「俺たちは人間だから、アクマと同じようにはなれないし、考えられねぇよ」


 からから、からから、と。


「たとえアクマが嫌いじゃなくても――な」


 自転車は歯車のように、回っている。


「――でも」


 ヨウコは言う。


「私は二人がちょっと、うらやましいな」

「そうか」

「……うん。……ね、手繋いでいい?」

「うん?」


 カズヤは戸惑った。が、すぐに納得した。


(まだエレルのこと引きずってんのかな)


 甘えたいのかもしれない、と考えた。

 カズヤは「ほれ」と手のひらを向ける。すぐにヨウコの手が重なった。冷たい手だった。


「……あったかい」

「俺の手だからな。心が冷たい奴は体温が高いらしい」

「そうなんだ。どうしたら優しくしてもらえるかな」


 冗談を返したヨウコは、続けて言う。


「……どうしたら、『誰か』に『好き』になってもらえるかな」


 カズヤは、何も返せなかった。


 二人がアクマに引っ掻き回された日。

 ゼップがヨウコに助力を約束した日は、緩やかに過ぎ去っていく。

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