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「……強敵だとも。世界に挑む者としてな」

「そのうち、また来る」


 演奏を終えてから約三十分。

 休憩と片付けを終えたゼップは白頭巾の変態に別れを告げていた。


「うむ、いつでも来るが良い友よ。強敵と書いて友よ」

「誰がライバルだ」


 ゼップは頭痛がひどくなるのを感じた。


「……強敵だとも」


 ふと、変態の――否、男の雰囲気が変わった。


「世界に挑む者としてな」


 男は白頭巾の奥の目を、遠く、過去に飛ばした。


「かつて、お前のように妖精の世界から帰還した男がいた。男はお前のようにギターを持

ち帰らなかったが、妖精の知識を詰め込んだ本を持って帰還した。そして男は作ったのだ。人間もアクマも天使も作ることのできなかった、多くの秘薬をな」


 男は――ゼップすら名前を知らない男は、ゼップに過去を語っていた。


「クスリは世界に蔓延する悪名高い不治の病を打ち砕くものだった。副作用はないが代償として金と時間が必要なクスリだった。一部の金持ちの、さらにその中の一握りにしか負担できないような額の金が、な」


 ゼップは黙って聞いている。


「少年、キミに問おう。安価で一万人を救う誰にでも作れる薬と、高価で一人しか救えない、とある男にしか作れない薬。世界の役に立つのはどちらかね」


 一万人が良い評価を口ずさむモノと、一人しか恩恵に与れないモノ。

 伝説の名医とは、多くの人間が語ることで産まれるのだ。

 孤高のギタリストであるゼップ=ムラサメは思った。

 比べるまでもない。

 考えるまでもなく、俺の答えは決まっている。


「世界は一万人の方を評価するだろうが、俺は一人しか救えない薬を評価する。そいつにしか作れないんだろう、そのクスリは。だったらそいつは、世界で一番すごいはずだ」


 答えを聞いた男は、丸くくり貫かれた白頭巾の奥で目を細めた。


「――実にアクマ的な意見だ。だが私もその意見に賛同し、男の往く道を愛そうではない

か。誰にも語られることのない音速の魔弾を放つ男を強敵と見なし、世界へ挑み続けよう」


 男がこの話をゼップにした回数は、ゼップがここを訪れた回数と同じである。

 この男もまた、壊れているのだ。

 同じ話を何回もしてしまう程度には十分なほど、妖精に頭を破壊された存在なのだ。


「そうしてくれ。それでは、また」


 ゼップは軽く挨拶をしてライブハウスを出て行く。

 白頭巾の男は扉が閉まるまでの間、直立不動で敬礼をしてゼップの背中を見送った。

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