6月28日 四日目
誘拐されて四日目。目が覚めたらまた誰もいなかった。
今日は日曜日、幼稚園は休みのはずだが、照子は見当たらない。出かけているのだろうか。
特にやることもなく、昼が過ぎた。
それでも明子と照子は帰ってこなかった。どこかにいるのか探してみたが、どこにもいなかった。
しばらくして気づいた。あたりに物やレジ袋が見当たらなく、隅に集めてあったガラスの破片が自然に割れて落ちたように散らばっていた。
……引越しだ。一箇所に滞在していてもいずれ見つかってしまう。きっと、検討のある場所へ引っ越したんだ。これで僕は自由。解放された。これで家に……違う、違う違う。これじゃあの生活に逆戻りだ。
……探さなきゃ、探さなきゃいけない。そう思った。
きっと、またここみたいな場所だろう。僕は昔から家を出て、人気のない空家などに隠れて泣いていたことがあったから、僕はここらへんの空家をほぼ全て把握している。きっとそのなかでここから遠いものだろう。
そう思ってすぐに僕は走り出した。
(このとき僕は、自ら犯罪者の人質になろうとしていたことなど気づかなかった。ただ家から逃げたい一心で頭がいっぱいだったからなぁ。)
僕は誘拐された被害者。近所では有名人だった。見つかるわけにはいかず、人目を避けて走った。
心当たりのある空家へ走り回って、明子が空家を物色しているところへ行き着いた。
(明子が僕を見たときの驚いた顔は今でも覚えてる。僕のあのときの顔を明子も、照子も覚えているだろうか。)
――あんた……何でここに……せっかく逃がしてやったのに……!?
――……僕は家に帰りたくないんだ!
――は?……でも、帰りなさい。あんたとは一緒にいられないわ。
――!何で……!?
――……あんたが娘……照子と楽しそうに笑ってるから……!あたしまで微笑んじゃって、そんなんじゃ逃亡生活なんてできるわけないじゃない……っ!
――……っ!?
衝撃的な言葉だった。やっぱりこの人は悪い人ってわけじゃない。いい人だ。
その後は僕も事情を話し、何とか一緒にいられることになった。
僕は本当は優しい明子さんや天使のような照子と一緒にいたい。そのときは心の底から思っていた。あの家にいるより、この方が幸せだ。
僕は照子に初めての恋をしていた。