6 田宮くん
結構どうでもいい話だけど、ぼくと小岩井さんが付き合うようになってから数日後、小岩井さんに振られたばかりの田宮くんから、一度だけ話しかけられたことがあった。
廊下でばったり、彼と出会ってしまったのだ。
「あんな女、別れた方が身のためだぜ。だって、セックスどころか、キスだってしてくれなかったんだ。欲求ばかりがたまるし、あいつって変なことしか言わないし、ほんと、つまんない女だったぜ」
田宮くんは泣きそうな顔をして、強がったようなことを言った。ぼくは不覚にも、そんな彼に同情の念を覚えてしまうのだった。
「それとも、俺がいけなかったのかな。なぁ平井、小岩井は、お前にはキスしてくれるのか?」
「してくれそうだったけど、ぼくが拒否したよ」
「お前ってやつは、見た目に寄らず相当のやり手だな。女の子が求めてるのに拒むなんて。それさ、今まで相当な数の女を相手にしてきた、ってやつのすることだぜ。どう考えても俺は、お前に敵う気がしない」
田宮くんはがっくりと肩を落として、とぼとぼと廊下を歩いていった。
即物的な性を求めることも、男らしくていいんじゃないか、とぼくは思った。だけど、やっぱり気持ち悪いものは気持ち悪いので、ぼくは田宮くんみたいな男にはなりたくなかった。
やはり男は、ちょっとむっつりしてるくらいがちょうどいいのだ。