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21 誘惑×拒絶

 突然だが、未来のえろ文化における革命児となるであろうと賛辞をうける沢木くんに言わせてみれば、『女はときにコケットリーを駆使し、男の心を惑わす。平井くんはこれから、このコケットリーとうまく付き合っていくべきだ』とのことらしかった。


 ぼくは、沢木くんの言う、『コケットリー』の意味がよく分からなかったため、彼にそれを尋ねてみると、

「色仕掛けをしたり、ぶりっ子をしたりして、男を上手く利用することさ」

 分かったような、分からないような、という感じだった。ぼくは、とりあえず分かったふりをして、「ぼくは、これから、うまくコケットリーと付き合っていく」と宣言した。




 放課後、ぼくと小岩井さんは、よく寄り道をして帰る。九割くらいの確率で寄り道をする。ぼくらは常に暇を持てあます、典型的な中学生帰宅部なのだ。


 校門の前で、ぼくと小岩井さんは本日の寄り道の予定を話しあった。

「今日は、コールドストーンで新作のアイスを食べるのよ」

「でも、今日は国語の宿題がいっぱい出ただろ。どこかのファミレスで宿題をやろう」

「そんなものは家に帰ってやればいいわ。今日はアイスよ」

「いや、宿題を片づけよう」

 珍しく、ぼくたちの意見は対立した。ぴりっとした空気が二人の間を包むが、いきなり、小岩井さんがぼくの腕に手を回してきた。小さな胸を、ぼくの二の腕にぎゅうぎゅう押しつけてくる。

「ねぇ、期間限定のアイスなのよ。ストロベリーと抹茶のやつ。きっとすごく美味しいわ」


 さっそく出た。これがコケットリーか。

 沢木くんの説明によると、コケットリーには大きくわけて二種類の方法があるらしい。それが、誘惑と拒絶なのだという。誘ったり、突き放したりと、その絶妙な使い分けがポイントだ。

 女の子は本能的に、この誘惑と拒絶を身につけ、男を使いっ走りにする術を得る。

 そして、今はまさに『誘い』の状態だ。ここで、多くの男の脳みそがとろとろのホワイトシチュー状態にされるわけだが、いくら冷静に判断したところで、ぼくは生来からの健全むっつりシャイボーイなので、出来れば、このまま曖昧な態度をとって、小岩井さんの胸を押しつけられていたい。


 しかし、そうはいかないのがコケットリーの神髄なのであった。

「そんなに宿題がしたいの?」

 小岩井さんが、ぼくの腕から手を離した。

「じゃあ、いいわよ。平井くんの言う通り、ファミレスで宿題をするわ」

 まさにぴったりなタイミングで『拒絶』がきた。さすがは小岩井さんだ。美少女としての宿命を負う彼女は、人一倍、男を上手く扱わなければ生きていけないのだろう。ぼくなんかを手玉に取るのは、お手ものというわけだ。

 そして、このコケットリーの痛いところは、女の子が色仕掛けまで使ったのに、それに応じなかった場合、ぼくら男側が精神的な罪悪感を背負うはめになるのだ。ましてやこんなもの、大好きな小岩井さんを相手に、ぼくがどうして惑わされずに付き合っていけってんだ。

「待ってくれ、小岩井さんっ」


 振り返る小岩井さんの瞳は、心なしかうるうるしていた。しかも上目遣い。もしこれが演技でも、心が痛くて張り裂けてしまいそうだった。ぼくのチキンハートは、いとも簡単に瓦解してしまった。

「そういえば、なんだかぼくも、アイスが食べたくなってきたよ」

「ほんと?」

 小岩井さんがまた僕の腕に抱きついた。小さいけど、すごく柔らかかった。ぐへへ。

「じゃあ行きましょう、コールドストーン。アイスを作るとき、店員さんが歌ってくれるから、私たちも一緒に歌うのよ」

「あぁ、歌おっちゃおう。ぐへへ」

「ぐへへ?」


 ぼくは沢木くんの助言をきっかけに、自分は将来、間違いなく女性の尻に敷かれるタイプになるのだろうと、いさぎよく諦観してしまうのだった。

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