14 六と九
霧島さんも、慣れない恋愛に苦悩を重ねていたようだが、彼女もまずは、沢木くんと友達として関係を始める決意をしたようである。
ぼくと小岩井さんとが廊下を歩いているとき、沢木くんと霧島さんが一緒にいるのを見かけた。彼らは廊下の壁に背中をあずけ、何事かを討論し合っていた。
ぼくと小岩井さんはちょっと嬉しくなって、二人に話しかけようとしたのだが、あまりに彼らが真剣な面持ちで話し合っているもので、ぼくらは話しかけるのを遠慮しておくことにした。
二人の前を通り過ぎるとき聞こえたのだけど、彼らは、シックスだかナインだかの数学的な話をしていた。
そんな二人の様子に、小岩井さんは晴れやかな笑みを浮かべる。
「沢木くんも霧島さんも、ああ見えて、二人とも勉強が得意なのよね。てっきり私は、二人がお下品エロカップルになるものと思っていたけれど、なんだか素敵な知的カップルという感じだったわ」
「まだカップルじゃないけどね。ぼくは勉強が苦手だから、今度二人から教えてもらおうかな」
「私も勉強が苦手だから、今度二人から教えてもらうわ」
ぼくと小岩井さんは、知的好奇心旺盛な沢木くんと霧島さんに尊敬の念を覚えた。ほほえましい限りである。
しかし、ぼくたちが沢木くんと霧島さんの会話の内容を理解して赤面してしまうのは、それからほんの数日あとのことであった。




