表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

13 恋愛相談

 翌日のこと。

 単刀直入に言うが、霧島さんはもう、沢木くんに交際を要求してしまったらしい。

 ぼくは昨日、霧島さんから、『わたしに沢木くんを紹介して』と言われたはずなのに、霧島さんは一人で勝手に沢木くんのところへ行って、初っぱなから『わたしと付き合え』と言ったらしいのだ。


 沢木くんの返答はというと、

「霧島は一体、何に追われているんだ。おれら、今まで話したことすらないだろ。友達から始めようぜ」

 と、言ったらしい。なんという正論であろうか。エロチシズムの申し子として誉れ高い沢木くんという男は、実際の恋愛においても取り乱しはしないのである。




 昼休み、ぼくは小岩井さんから、その風の噂を聞きつけたのであった。

 小岩井さんは、軽く頭を抱える仕草をした。

「霧島さんという子は、本当に駄目ね。初対面なのに、ただ告白すりゃいいってものじゃないのよ」

「でも、ぼくも小岩井さんと初めて話したとき、君もいきなり告ってきたと思うけど」

「そうだったかしら? 全く記憶にないわ。でも、私たちの場合は結果オーライよ」


 そんな会話をしていると、廊下の方で霧島さんが立っていて、ちょいちょい、とぼくらを手招きしてきた。

 ぼくらは顔を見合わせて首を傾げるも、とりあえず霧島さんのところへ歩み寄っていった。

 ぼくらは、霧島さんに連れられて三組の教室に入り、霧島さんの机に集合した。


「どうしてわたしは振られたの?」

 霧島さんはいきなりそう言った。

「別に振られたわけじゃないだろう。友達から始めようって、沢木くんは言ったんだろ」

「いや、そうじゃなくて。何故わたしに告白されて、すぐに付き合おうとしない男が、この世に存在するの?」

 ぼくは呆れて小岩井さんを見た。小岩井さんも呆れていた。

「今のを聞いたか小岩井さん。ぼくの言った通り、とんでもなく自意識過剰な女だろ」

「全くだわ。美人の面を被った、ただのうぬぼれね」

 そうは言うものの、霧島さんは結構落ち込んでいるようだった。

「わたしは、今まで色んな男から告白されたけど、自分から告白するのは今日が初めてだった。なのに付き合ってくれないだなんて。まったく世間というやつは、需要と供給のバランスがなっちゃいないね」

 ぼくは肩をすくめた。

「霧島さんの恋愛は、アウトロー過ぎるな。その高慢ちきな性格を治さない限り、霧島さんに恋愛は十年早いと思うぜ。はっきり言って、君の感性は普通じゃないんだ」

「あら、平井くんもひどいことを言うのね。いくらなんでも、女の子にその言い方はないんじゃないかしら」

 小岩井さんが厳しい顔つきでぼくを責める。

「私に言わせると、平井くんだって普通じゃないわ。あなた、いつもへんてこな妄想ばかりするでしょう。しょっちゅう私のことを無視するし。私はたまに、妄想をしない普通の男の子がよかったわ、なんて思うくらいよ」

「小岩井さんにだけは言われたくないよ。小岩井さんだって、ぼくのことそっちのけで、よくメルヘンな妄想世界に閉じこもるだろう。ぼくだって、妄想をしない普通の女の子がよかった、と思っちゃうぜ」

 霧島さんが、ぽかん、としていた。

「あなた、人畜無害を装っておいて、実は心の中でそんなことを考えていたのね」

「ぼくも、小岩井さんがそんなことを考えていただなんて、幻滅したよ」

「なら、もう別れる?」

「あぁ、別れるさ」

「本当に別れちゃうのね? あぁ、また一つの恋が終わったわ」

 ぼくらはそっぽを向き合った。霧島さんがおろおろとしていた。


 すると小岩井さんが切ない表情で、ぽつり、とこう言う。

「でもね平井くん、最後にこれだけは言わせて。私は今、平井くんを失って初めて気づいたわ。私はやはり普通の男では駄目だった。私は、どう強がっていても、平井くんのような妄想男がそばにいなければ、生きていけなかったのよ」

「そうなのか。実はぼくも今、小岩井さんと別れて、小岩井さんを失って初めて気づいたよ。ぼくは小岩井さんのような妄想女が近くにいなければ、人生がつまらなさ過ぎて、もう死ぬしか道はなかったんだ」

 ぼくらは、ひしと手を取り合った。

「私たち、まだやりなおせるわ」

「やりなおそう。小岩井さん、愛してるよ」

「私も愛してるわ、平井くん」

 そのとき、ばん、と机が叩かれた。霧島さんが大激怒していた。

「何故、なんの前触れもなく、どうでもいい茶番を見せつけてくる。おたくら、いつもそんな風に、ふざけたのろけ妄想劇を周りに披露しているのか。わたしの方は、真面目に恋愛相談をしているつもりなのに」

「反省しているよ」

「反省しているわ」

「もういい。あんたらに相談したわたしが馬鹿だった。もう帰って。帰って死ね、このバカップル」

 ぼくらは結局、まともに霧島さんの話も聞けずに、三組の教室から追い出された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ