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『八つ当たりの壺』前編

掲載日:2026/08/19

登場人物


八尾やつお

主人公。会社員。上司から毎日のように怒られ、ストレスをためている。


▲ 謎の老婆

ガラクタ屋の店主。大きながま袋を背負った謎

『八つ当たりの壺』前編



俺は、会社の上司が嫌いだ。


仕事で失敗すると、すぐに怒鳴ってくる。


「何やっているんだよ」


「真面目にやれよ」


「使えねーな」


この三つの言葉を、毎日のように聞かされていた。


「クソ上司が……」


今日も仕事が終わり、俺はイライラしながら家へ帰っていた。


毎日のように、帰り道で上司の愚痴をこぼす。


「ちょっと失敗したくらいで、あんなに怒ることないだろ……」


そのときだった。


▲「ちょいと、そこの若い方」


後ろから、しわがれた声が聞こえた。


●「はい?」


振り返る。


そこには、一人のおばあさんが立っていた。


背中には、大きながま袋を背負っている。


▲「お前さん、どうやらイライラしておるの〜」


俺は驚いた。


●「なんでそれを?」


▲「分かるんだよ。あたしにはね」


そう言って、おばあさんは背負っていたがま袋に手を入れた。


そして、中から何かを取り出す。


出てきたのは、小さな壺だった。


手のひらに乗りそうなくらいの大きさしかない。


●「それは?」


俺が尋ねると、おばあさんは壺を見せながら言った。


▲「これはな、**『八つ当たりの壺』**じゃ」


●「八つ当たりの壺?」


▲「お前さんみたいに、嫌なことがあってイライラしたときに使う壺じゃ」


俺はもう一度、老婆の持つ壺に目を向けた。


●「どうやって使うんですか?」


▲「使い方は簡単じゃよ」


おばあさんは壺を指さした。


▲「イライラしたときに、この壺を叩くんじゃ」


●「叩く?」


▲「そうじゃ。腹が立った分だけ、この壺を叩けばいい。そうすれば、お前さんのイライラが少しずつ鎮まっていく」


●「イライラが……鎮まる?」


▲「そうじゃ。お前さん、今この壺が必要なんじゃないかい?」


確かに、今の俺には必要かもしれない。


毎日毎日、上司への怒りがたまっている。


本当に叩くだけでイライラが鎮まるのなら、使ってみたい気もする。


でも――。


●「お断りします」


▲「ほう?」


●「いきなり知らない人から声をかけられて、そんな怪しい壺を渡されても信用できませんよ」


俺はそう言って、その場から立ち去ろうとした。


すると、おばあさんが後ろから言った。


▲「何もあたしは、金を払えなんて言ってないよ」


俺は足を止めた。


▲「その壺は**無料タダ**さ」


●「……タダ?」


俺は振り返った。


●「タダってことは、無料?」


おばあさんは笑いながら言った。


▲「そりゃそうさ」


俺は少し迷ったあと、おばあさんのところへ戻った。


▲「ガラクタだからね。まあ、騙されたと思ってもらいな」


そう言って、おばあさんは俺に『八つ当たりの壺』を渡した。


俺は受け取った壺を眺める。


●「小さいな……」


すると、おばあさんが思い出したように言った。


▲「あぁ、言い忘れていたよ」


●「まだ何か?」


▲「その八つ当たりの壺はな、叩けば叩くほど大きくなっていくんじゃ」


●「でかくなる?」


▲「そうそう。それと、もう一つ」


それまで笑っていたおばあさんの表情が変わった。


▲「この壺は、大きさが限界に達すると――割れる」


●「壺が割れる?」


▲「そうじゃ」


おばあさんは低い声で続けた。


▲「そして壺が割れたら、今までお前さんが壺にぶつけてきた八つ当たりが、全部お前さん自身に返ってくる」


●「返ってくる!?」


▲「そうじゃ。だから、調子に乗って叩きすぎるんじゃないよ」


おばあさんは俺をじっと見た。


▲「これは忘れず、頭に入れておきな」


俺は黙って、手の中の小さな壺を眺めた。


イライラしたときに、この壺を叩く。


そうすれば、イライラが鎮まる。


ただし、叩けば叩くほど壺は大きくなる。


そして限界まで大きくなると壺は割れ、今までの八つ当たりが全部自分に返ってくる。


●「これって、本当に大丈夫なん――」


そう言いながら顔を上げた。


しかし、


●「……え?」


おばあさんがいない。


ほんの少し目を離しただけだった。


●「消えた!?」


俺は慌てて周囲を見渡した。


道の先にも、後ろにも、おばあさんの姿はない。


まるで最初から、そこには誰もいなかったかのようだった。


俺はもう一度、手の中の壺を見る。


●「この壺を叩けば、上司へのイライラも……」


小さな壺を握りしめる。


このときの俺は、まだ知らなかった。


この**『八つ当たりの壺』**を使ったことで、


まさかあんなことが起きるなんて――。


『八つ当たりの壺』


――続く。

最後まで見てくれてありがとうございました。

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