失意
事件は、和平締結から一年後に起きた。
聖域中央区。
夜。
セレナは魔族側使節団の代表として滞在していた。
リオルフは、その夜だけ任務で外れていた。
だから、
間に合わなかった。
爆音
炎
悲鳴。
リオルフが駆けつけた時には、既に建物が崩れていた。
強烈な魔力反応。
暗殺だ。
しかも内部犯。
リオルフは瓦礫を掘り返した。
狂ったように。
血だらけになりながら。
そして、
見つけた。
セレナだった。
腹部を深く貫かれていた。
呼吸が浅い。
血が止まらない。
リオルフの頭が真っ白になる。
「セレナ!!」
彼は光魔法を発動した。
反動も気にせずありったけの魔力を使った。
だが。
乱れる。
魔力が震える。
術式が崩れる。
焦れば焦るほど、制御が壊れる。
「動け……っ!!」
魔法陣が安定しない。
光が散る。
治癒が届かない。
セレナが弱々しく笑った。
「そんな顔、しないで。」
「しゃべらないで。」
「……リオルフ。」
彼女が彼の頬へ触れる。
冷たい手だった。
「あなた、ちゃんと……」
咳。
血。
それでも彼女は笑おうとした。
「生きて。」
リオルフは叫ぶ。
「嫌だ。」
初めてだった。
彼が感情をむき出しにしたのは。
「死ぬな…!」
「頼むから……っ。」
光魔法がまた崩れる。
発動できない。
届かない。
救えない。
セレナは静かに彼を見た。
悲しそうに。
でも優しく。
「……好きだった。」
その言葉を最後に。
彼女の手から力が抜けた。
リオルフは、しばらく壊れた。
騎士団長を辞した。
聖域を離れた。
誰にも会わなくなった。
ただ、旅をした。
師からもらった剣はあの夜折れてしまった。
だから、
彼女の剣を持って旅をした。
それは彼女の形見でもあったから。
彼女の技を忘れないために。
彼女を救えなかった自分を許さないために。
苦手な光魔法を学んだ。
狂ったように毎日図書館に通った。
治癒術を研究した。
薬学を学んだ。
人体を調べた。
再生魔法。
浄化。
解呪。
蘇生理論。
「もう誰も救えないのは嫌だ。」
その執念だけで、生き続けた。
五百年。
長い時間だった。
彼は各地で“名もない薬師”として過ごした。
人を救い、
病を治し、
戦場を巡った。
たくさん感謝もされた。
だが、
心のどこかはずっと止まっていた。
湖畔。
夕暮れ。
笑う彼女。
そこから、ずっと。
進めなかった。
だから、
五百年後。
彼らに出会った時。
彼の時間は、ようやくまた動き始めたのだった。
ここでいったん区切りとさせてください。
ここからはメインストーリーを先に仕上げます。
それが終わったらこちらに戻ってくるかもしれませんし、並行して投稿するかもしれません。
何かしらの投稿は続けますので少々お待ちを。




