あたしの記念すべき日
外で誰かがはしゃぐ声がする。
見なくたってわかる、あれはステアの声。
一週間前からずーっとあんな調子。
あたしにはわかんないよ、その楽しさが、その喜びが、その嬉しさが。
そうだよね、普通の子は喜ぶんだろうね。
だけどあたしは違う。
一週間前・・・それはステアの16歳の誕生日だった。
むくっと体を起こし、窓を開ける。
薄いピンクに花柄のワンピースを着た少女があたしの家の前を鼻歌まじりで通り過ぎる。
その横をピッタリとくっついて空を飛んでいる黄色い光・・・ハニーだ。
ハニー、それはステアの妖精・・・
あたしは妖精の本当の姿は見たことがない。
妖精の実体は本当のパートナーにしか見えない。
だからあたしには、ハニーがどんな顔してるのかさえも見ることは叶わない。
妖精がまだ来ていないあたしにとって、妖精の姿は未知のものだった・・・
階段を下りるとお母さんが朝食を用意してくれたみたいだった。
「おはよう、ミラ。」
「おはよー・・・。」
『おはようございます、ミラさん。もうご飯は出来てますよ。』
最後にあたしの耳に入ってきたのはお母さんのパートナー妖精、リコル。
お母さんの横にフワフワ浮いているが、その姿は見えない、声だけが耳の中に入り込んでくる。
あたしの朝食は、ハムエッグにポテトサラダ、そしてお母さんの得意料理のコンソメスープ。
「早く食べちゃいなさいよね、お客さんもういるから。」
「・・・うん。」
スプーンを片手にハムエッグを一口大に切り、黄身が垂れないように口に運ぶ。
この通りあたしのお母さんの職業は料理をすること。
このリコルがお母さんにやってきたときにそれは決まっていた。
さっき外にいたステアも近い将来にハチミツを売ることとなる。
あたしはハムエッグとポテトサラダを少し残し、外へ飛び出した。
あたしは早く妖精が来て欲しいと願いつつ、本当は来なくてもいいかな、と思い始めていた。
よく考えれば、あたしの元に妖精が来ることによって、今は自由なあたしの未来はなんの前触れもなく決まってしまうからである。
ステアは妖精が来たことに喜んではいるが、それで自分の一生がたかがハチミツ売りで終わってしまうことを考えていない。
あたしはそんなの嫌だった。
自分の夢は自分で叶えたいし、やってみたいことだって山ほどある。
そんなことを考えているから、妖精はあたしの元へは来てくれないのだろうか・・・
草原に寝転んで空を見上げる。
どこまでも青く、どこまでも広い・・・
あたしはいったい何になりたいんだろう・・・
そんなことを考えていると遠い遥か彼方に、虹色に輝いている何かを見つけた。
「・・・あれは?」
だんだんと近づくにつれて目にはっきりと映るそれは・・・
「妖精!?」
あたしの目の前に降りてきたそれは、手のひらサイズの小さい人のようだった。
白いワンピースのようなものを着ていて、髪の毛は薄い茶色で長さはセミロングの少しパーマがかかったような髪形。
背中には薄いガラスのような羽がついていてせわしなく動いている。
それは日の光に反射してさまざまな色に見える。
少し照れたようにあたしへ顔を向け微笑む、だけどそのくりくりとした黒い瞳だけはあたしから目を離さなかった。
そして彼女はこう言った。
『こんにちわ、あたしの名前はクレア。これからよろしくね。』