第4話 初めての配合
底まで透き通る巨大な泉のほとりで、僕は時間を忘れて森の動物や光の玉たちと遊び回った。
冷たくて気持ちいい泉の水に足をつけてみたり、シエルと一緒に光の玉を追いかけて芝生を転げ回ったり。誰も僕を「黒髪の忌み子」だと罵らない、穏やかで優しい時間。
そうして日が少し傾き始めた頃、ふと胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
ウルフとテイムの繋がりを持った時に感じた、あの温かい「光の糸」の感覚だ。
「えっ...?」
見渡すと、僕の周りを飛んでいる光の玉たちや、泉の水を飲んでいた水晶の角を持つ鹿、それに宝石のような蝶たちの胸からも、僕に向かって淡い光の糸が伸びていた。
「これって...みんなともテイムが繋がったってこと!?」
僕は慌てて、空中に向かって【ステータス】と念じた。
目の前に浮かび上がった透明な板には、信じられない文字が並んでいた。
《新しい従魔(小精霊×15、水晶鹿、宝石蝶×3…他)を獲得しました》
《条件達成:【10連ガチャ】が引けます》×10
《機能解放:【配合】メニューが使用可能になりました》
「うわぁ...みんな、僕の家族になってくれたんだね。ありがとう」
「ピィ!」
僕が喜ぶと、シエルも僕の頭の上で嬉しそうに羽ばたいた。
でも、ステータス画面には恐ろしい文字が点滅している。仲間がたくさん増えたせいで、10連ガチャが10回...つまり、一気に100連も引けるようになっていたのだ。
「ひゃ、100回!?」
「い、一気に引くのはなんだか怖いし、とりあえず今回は1回(10連)だけ引いておこうかな...」
光るボタンをタップすると、目の前の空間に再び虹色の魔法陣が展開され、ポンッポンッポンッ!と軽快な音を立てて新しい素材のメニューが追加されていった。
1.【称号:精霊の友】Rank:A
2.【色:赫炎】Rank:A
3.【聖魔遺物:海神の涙結晶】Rank:S
4.【聖魔遺物:太陽神の祝福石】Rank:S
5.【称号:理を拒絶せし特異点】Rank:EX
6.【色:万象を嚥下する「飢餓の黒」】Rank:UN
7.【聖魔遺物:軍神の失われし右腕】Rank:UN
8.【称号:暴虐の魔王を屠る者】Rank:SS
9.【色:神聖なる天の階】Rank:SS
10.【聖魔遺物:星海を統べる大樹の枝】Rank:S
「...」
僕は息を呑んだ。
AランクやSランクのアイテムはなんとなく綺麗で凄そうなのが分かるけれど、相変わらず所々に混ざっているUNやEXの文字の圧が凄まじい。
『万象を嚥下する「飢餓の黒」』?『軍神の失われし右腕』?
名前からして絶対に僕みたいな素人が触っていいものじゃない。やっぱりUNっていうのは、呪いのアイテムかなにかの『アンダー・ノーマル』に違いない。
残りのガチャは、また後でゆっくり引くことにしよう。
「えっと、ガチャは引いたけど、この新しく出た『配合』っていうのはどうしようかな。4つまでアイテムを混ぜられるみたいだけど、呪いのアイテムとかあったら危ないし...」
ぽつりとこぼした本音。正直に言えば、こんな得体の知れない力からは逃げ出したかった。
僕がシエルや小精霊たちに相談するように呟いていると、隣でお座りをしていた白いウルフがガバッと立ち上がった。
「ウォフ!」
僕の前に進み出たウルフは、力強く吠えた。まるで「俺がやってみる」と自ら名乗り出てくれたように見えた。
「えっ、君がやってくれるの?でも、危ないかもしれないよ?」
「ウォォン」
ウルフの黄金の瞳には、僕やこの楽園のみんなを守る力を得るための、強い覚悟が宿っていた。
その目を見て、僕はハッとした。ウルフが自ら危険な役に立候補してくれているのに、僕自身がこの力から逃げてばかりじゃダメなんだ。
僕は両頬をパンッと叩いて気合を入れると、ウルフに向き直った。
「わかった。...でも、その前に。君も僕の大切な家族だから、名前をつけてもいいかな?」
「ウォフ?」
「『ブラン』...なんてどうかな。真っ白で綺麗だから」
「ウォフ!」
ウルフ――ブランは、嬉しそうに短く吠えると、僕の胸に大きな頭をすりすりと擦り付けてきた。どうやら気に入ってくれたみたいだ。
「よし、よろしくね、ブラン!...それじゃあ、やってみようか。僕にはどれがいいか分からないから、ブランの直感を信じるよ」
僕が力強く頷くと、ブランはじっと空中に浮かぶメニューを見つめた。配合機能が解放されたことで、以前から素材欄に眠っていた10個のアイテムと、今しがたガチャで追加された10個が合わさり、選択肢は全部で20個になっていた。
すると、ブランの意志に呼応するように、4つの項目が次々と光を放ち、ステータス画面に並び始めた。
【称号:神の法を蹂躙せし「天敵」】Rank:UN
【聖魔遺物:虚空を紡ぐ禁糸】Rank:UN
【色:万象を嚥下する「飢餓の黒」】Rank:UN
【聖魔遺物:軍神の失われし右腕】Rank:UN
「えっ...ちょっと待って、ブラン!?それ全部、さっき僕が一番やばそうだって言ってた『UN』のやつじゃ...」
僕が止める間もなく、透明な板に最終確認の文字が浮かび上がる。
《対象:レッサーウルフ(ブラン)に、上記4つの素材を【配合】しますか?》
《YES/NO》
主である僕の決定を待つように、その文字は静かに点滅していた。
「本当に、これでいいんだね?」
僕が不安な気持ちで問いかけると、ブランは真っ直ぐに僕の目を見つめ返してきた。一切の迷いがない、揺るぎない覚悟。
「...わかった。ブランを信じるよ」
僕は震える指先を伸ばし、迷いを断ち切るように『YES』の文字をタップした。
――次の瞬間だった。
「うわっ!?」
ブランの足元に、見たこともないほど巨大で、禍々しくも神聖な魔法陣が展開された。
そこから立ち上った圧倒的な漆黒の光柱が、ブランの体をすっぽりと包み込む。
森の風が激しく巻き起こり、泉の水が波打ち、小精霊たちでさえもその神々しい光にひれ伏すように動きを止めた。
「ブランっ!」
思わず腕で顔を覆い、強烈な光に目を細める。
やがて、吹き荒れていた風がパタリと止み、大気を震わせていた光柱がサラサラと粒子になって霧散していった。
「...え?」
光が収まった先に立っていたのは、僕の背丈ほどだった真っ白なレッサーウルフではなかった。
「グルルル...」
低く、大気と空間そのものを震わせるような鳴き声。
そこにいたのは――元の大きさの『5倍』はあろうかという、見上げるほど巨大で、神々しくも恐ろしい威圧感を放つ規格外の狼だった。
純白だった毛並みは、すべての光を吸い込むような漆黒へと変貌し、森の木々に匹敵するほどの巨躯が、静かに僕を見下ろしている。
「これが、配合の力...?」
僕はただ口を開けて、自分の手でとんでもない姿へと進化させたブランを見上げるしかなかった。




