第1話 呪われた黒髪と白い小鳥の温もり
石畳の路地裏にある、薄暗い孤児院。
そこが僕、リュカの居場所だった。
今日、僕は12歳になった。
この国の決まりでは、12歳で『天職の儀』を受け、ジョブを授かると同時に孤児は院を出て自立しなければならない。
「さっさと荷物をまとめなさい。その不吉な髪を二度と見せないでおくれ」
院長先生は、汚らわしいものを見る目で僕に古びた布袋を投げつけた。
他の子供たちも、僕の漆黒の髪を見て「魔王の子供だ」「近づくと呪われる」とはやし立てている。
数百年前、世界を壊しかけた魔王と同じ色。
数十年前、一つの街を丸ごと消し飛ばした忌み子と同じ色。
この髪色は、僕にとって「生きているだけで拒絶される」呪いだった。
大通りへ出ると、冷たい視線がナイフのように突き刺さる。
「..っ、黒髪のガキか。縁起が悪い」
「こっちを見るな!また災厄を呼ぶつもりか!」
商店街の大人たちは、僕が通り過ぎる道に塩をまき、露骨に嫌悪感を剥き出しにする。
僕が何か悪いことをしたわけじゃない。ただ、この髪色に生まれてしまっただけなのに。
僕は俯いて歩く。
大丈夫。いつものことだ。
今日授かるジョブが立派なものなら、少しは認めてもらえるかもしれない。
そんな微かな希望を胸に、僕は中央教会へと向かった。
教会の祭壇の前。
神官様は僕の髪を見るなり、不快そうに顔をしかめて水晶を指し示した。
「..ジョブは『召喚士』だ」
その瞬間、教会のあちこちから嘲笑が漏れた。
「ははは!呪われたガキにふさわしいハズレ職だ!」
「召喚士なんて、弱いネズミや虫しか呼べない無能ジョブだろ?」
「戦うこともできない、役立たずの忌み子か。さっさと野垂れ死ねばいい」
召喚士。
歴史上、強い魔物を呼び出せた例はなく、呼び出せても小動物程度の「戦力にもならない不遇職」。
僕は絶望に足が震えた。
神様なんて、やっぱり僕の味方じゃないんだ。
「..っ」
僕は逃げるように教会を飛び出し、王都の隅にある誰も来ない寂れた広場へと向かった。
「..誰も、僕のことなんていらないんだ」
ベンチに座り込み、膝を抱える。
魔王と同じ髪色。戦えない役立たずのジョブ。ジョブが判明した以上、僕の居場所はどこにもない。
この広い世界で、僕を必要としてくれる人なんて一人もいない。
でも、最後に一度だけ試したかった。
召喚士になった僕に応えてくれる存在が、この世界のどこかに、一人くらいはいるんじゃないかって。
「...やってみるよ」
僕は地面に、魔法陣を描いた。
戦うための力なんていらない。
ただ、僕の隣にいてくれる友達がほしい。
「――来てください、僕の友達!」
祈りと共に、光が弾けた。
光が収まったあと、そこにいたのは――
「..ピ?」
真っ白で、まんまるな小鳥が一羽。
つぶらな瞳で、不思議そうに僕を見上げていた。
「あ..」
僕は震える指でステータスを確認する。
【種族名:シマエナガ】
【ランク:N】
「シマ、エナガ?ランク、N..」
聞いたこともない生物。そして最低ランクの、ただの小鳥。
嘲笑っていた大人たちの言う通りだ。やっぱり僕は、ハズレの召喚士なんだ。
頬を涙が伝う。
すると、その小鳥がトテトテと歩み寄り、僕の頬に止まった。
「ピィ、ピィ」
ふわふわの羽毛を擦り付けて、「泣かないで」と僕の涙を一生懸命拭ってくれる。
その温かさを感じた瞬間、僕の中で何かが弾けた。
「...君は、僕のこと嫌いじゃないの?この黒い髪、怖くないの?」
「ピィ!」
小鳥は僕の指に飛び乗り、「大好きだよ」と伝えるように愛らしく首を傾げた。
生まれて初めてだった。
この呪われた髪を持つ僕に、自分から触れてくれたのは。
僕は小鳥をそっと抱きしめた。
「ありがとう。僕、決めたよ。この街を出て君と一緒に、誰も僕たちを傷つけない幸せな『楽園』を作るんだ」
「ピィ!」
僕は涙を拭い、ニコッと笑った。
名前は、僕が見上げた澄んだ空の色からとって『シエル』にした。
僕は王都の大きな門をくぐり、外へと踏み出した。
振り返っても、見送ってくれる人は誰もいない。
でも、不思議と怖くはなかった。
肩には、僕を愛してくれる新しい「家族」がいるから。
「行こう、シエル。僕たちの楽園を探しに!」
こうして、忌み嫌われた少年と、一羽の小鳥の無自覚な伝説が、静かに幕を開けた。




