表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/43

第16章 アーヴェルの真意 第一幕

 アイギス連邦の心臓、白亜の塔。その最上階にある「志源の間」は、かつてない醜悪な怒号に包まれていた。


「……ありえん!断じてありえん!!」  


 老齢のSランクが、震える手で報告書を机に叩きつけた。


「代筆された志が、水晶の判定を通過しただと?そのようなことが起きれば、わが国の根幹を支える『絶対評価』の前提が崩れる。これは陰謀だ! 情報工作だ!」


 他のSランクたちも、顔を真っ赤にして同調する。

 彼らにとって、志とは「魂の輝き」であり、それを測定する水晶は神聖不可侵の天秤でなければならなかった。そうでないと、自分たちが「選ばれた」正当性が揺らいでしまう。自分たちは間違いなく選ばれた側であるべきだった。


 それが金で買える技術に突破されたと認めることは、自分たちが人生を捧げてきた価値体系の死を意味する。

 円卓の奥で、大賢者は深く椅子に沈み込み、目を見開いたまま固まっていた。手は震え、老いた腕に血管が浮かぎあがるほど力が込められているが、「代筆」というあまりの衝撃に、言葉すら発せない。


(その震えと怒りは誰に向けてのものなのでしょうね…)

 アーヴェルは大賢者のその様子を視界に入れながら、混乱の渦中の老人に向けて…穏やかに告げた。


「皆様、お静かに。血圧が上がりますよ」


 鈴の音のような、涼やかな声。その落ち着き払った態度が、逆に老書記官たちの逆鱗に触れた。


 「アーヴェル! 貴様、自分の立場が分かっているのか! 今回の騒動の震源地は、貴様のもと同期が開いている塾だというではないか!所詮下位ランクの連中に魂の輝きなどないのだ!貴様の改革という言葉がこの事態につながったとは思わないのかね!」


 一斉に疑い、嫉妬、他責の眼差しが彼に向けられる。

 アーヴェルはゆっくりと振り返った。その瞳には、慈愛すら感じさせる微笑みが浮かんでいる。


 「……面白いことを仰る。今の評価基準を作られたのは、長く末席を守ってこられた皆様方でしょう? もし水晶に不備があるのなら、それは設計した皆様の責任だ」

「何だと!?」


「大賢者様は仰いました。『志とは、魂の叫びである』と。……しかし、皆様が作ったマニュアルはどうですか?特定のキーワードを並べ、特定の構成で語ることで完成されるマニュアルを構成された。皆様は大賢者様の崇高なお気持ちを、ただの『効率的な採点基準』へと曲解し、矮小化させた。その隙を、代筆屋という不純物に突かれた……。違いますか?」


 アーヴェルの言葉は、冷たい氷の針となって老人たちの胸を刺した。


「私……。私は、大賢者様が望まれる『真の平等』を形にするため、カイン君という実例を見つけてきた。私がカイン君を見つけ、国民がワンランク上の志を持つために活動している中、あなた方は「代筆ごとき」に突破される」社会しか維持できなかった。

 大賢者が、ゆっくりと顔を上げた。その濁った瞳に、アーヴェルの「正論」が吸い込まれていく。


(そうだ…志は魂の叫びである。代筆で突破できるものではない。突破できる構造を作ったものたちが悪いのだ)


大賢者は答えを得た。


「……アーヴェルの言う通りだ」


 大賢者の掠れた声が響くと、部屋は一瞬で静まり返った。


「お前たちが基準を形骸化させたから、このような事態を招いたのだ。……アーヴェル。これからの体制を、お前に託す…して、アーヴェル解決方法はあるのか?」

「もちろんです。大賢者様。事態が発生に伴い、新たな制度案もすでに用意しております」

「うむ…それは心強い。ではお前の思うまま進めるがよい。Sランクの人選もお前に任せる」


 その瞬間、旧世代のSランクたちの顔から血の気が引いた。彼らは警備員によって次々と連れ出され、塔の権力図は一瞬で塗り替えられた。

 三日後。 アーヴェルは、全ランクに向けて緊急放送の演壇に立っていた。


「国民の皆様。事態の収拾のため、新たにSランク筆頭を拝命した、アーヴェルです。まずは今回の混乱を深く陳謝いたします。今後古い制度を刷新し、志制度は新しく「生まれ変わり」ます。家柄も、富も、そして『代筆』という小細工も通用しない、全ランクが平等に評価される新制度を、私が約束しましょう」


 彼の背中には、新しく選出された若手のSランクたちが並んでいる。彼らは皆、アーヴェルの手足となって動く、感情を排した精鋭たちだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ