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絶対に王妃になりたくない攻防戦

作者: 神泉せい

 私が住むルマラントヤラル・センサールモーソン王国は、国名は長いがとても小さな国で、東西を大国に挟まれている。

 人口は両隣の十分の一以下。国土は森林が七割をしめていて、水が豊富だが食糧生産は多くない。両大国の緩衝地帯として残されているような国だ。そのため、外交がとても重要になる。

 なのにこの国の王太子、ロジオン・フロロヴァ殿下ときたら一人息子だと甘やかされて、実力もないくせに自意識過剰。これを王にしたら絶対どこかの国と軋轢あつれきを生むわ。

 私は婚約者なのだが、なんとか婚約を解消できないかと虎視眈々とチャンスを狙っていた。


 私と殿下は現在、王都にある学園に通っている。

 殿下は学園で、ミラナ・プロトキンという、稲穂のような美しい金髪と青い瞳の侯爵令嬢と親しくなっていた。卒業と同時に婚姻が結ばれるので、ミラナ様に押し付けるなら在学中しかない。

 二人は恋人同士のように、人目もはばからずに学園の庭のベンチに並んで座り、堂々と寄り添っている。このまま殿下が私に婚約破棄とかを言い放ってくれれば……!

 私は二人を歯がゆい思いで見守っていた。


「……ミラナ、君を俺の正妃にしたい」

「いいえロジオン殿下、王妃には婚約者であるナターリヤ・チュルキン公爵令嬢が相応ふさわしいですわ。私は日陰の身で良いのです」

 ミラナ様は微笑んで目を伏せ、ロジオン殿下はニコニコと笑顔を浮かべていて、とても上機嫌。

 私もミラナ様を王妃にしたいわ、もっと押せ押せロジオン殿下! 持ち前の図々しさと空気の読めなさと、傲慢で横柄な性格で押し通すのよ。


「ああミラナ、なんて健気なんだ! もし君が王妃になれなくても、外遊には必ず連れて行くよ。美しい君を他国に見せびらかしたい!」

「まあ、わたくしはそんな人前に出る自信がないのです。大好きなこの国で、殿下のお帰りをお待ちしますわ」

 外遊が一番ヤバイのよ、外で何をしでかすか分からないから。犬なら首輪を付けられるものを……! あなたが外遊に付き合うなら、私は当日お腹や頭や心が痛くなったりして、国に残るわ。遠慮なく同行してちょうだい!

 なんなら来週の、隣国の観月の儀にロジオン殿下と参加して! 私は持病のドライアイで寝込んでいたいの。


「君の元に帰るのも幸せだね」

「そうでしょう? 会えない時間もあった方がいいのですわ」

 私の期待をよそに、ミラナ・プロトキン侯爵令嬢は一歩も二歩も下がった態度だ。

 これだから進展がないーーー!  

「ミラナ、やはり君こそ俺の妃に相応ふさわしい。ナターリヤとは婚約解消を……」

「殿下、早まってはいけませんわ」

 うごおおお、イライラするぅ! あと一歩なのに……! いや、婚約解消の単語が出たわ。今こそ出陣の時! 私は隠れていた木の陰から姿を現し、二人の元へ歩いた。

 遠巻きに眺めていた数人が、シュラバになるぞとつぶやいている。


「ロジオン殿下、話は聞かせて頂きましたわ。私との婚約を解消したいのですってね!」

 殿下の紫色の瞳が私に向けられる。殿下は口うるさい私を可愛げがないと言って嫌っているのだが、可愛げで国は守れない。

「お前、ナターリヤ! 聞いていたなら話が早い。お前とのこん」

「でーーーーんっか、ストップ!」

 ミラナ様がいつにない大きな声で、殿下の言葉を止める。殿下は思わず言葉を途切れさせて、ミラナ様を振り向いた。

 あとちょっとなのに!


「ど、どうしたミラナ」

「わたくしはお二人の仲を裂くつもりはありません」

 キッパリと発言するミラナ様。こちらとしては紙より柔らかい絆なので、ビビビーッとひと思いに切り裂いてほしいわ。

「ミラナ様、お二人の愛には敵いませんわ。私は潔く身を引きます」

 周囲には人が少なかったはずが、いつの間にギャラリーが増えている。しめしめ、証人は多い方がいいわ。今日こそ婚約解消を!

「ナターリヤ様を苦しめてまで幸せになりたいと望みません」

「私こそ二人の邪魔になりたくないの」

「王妃には公爵令嬢である、ナターリヤ様がなるべきですわ!」

 しぶとい女め。素直に私を押し退けて殿下と結ばれればいいものを。

 そして殿下の後始末を、偉大なる愛の力でやればいいものを。


「……そうか、二人ともそんなに俺が大事なのか」

 ロジオン殿下はまた世迷い言をのたまう。羨ましいほどの自意識過剰だわ。

「とにかく、ロジオン殿下にはミラナ様が似合うと思うの」

 そして私とは婚約解消を。婚約解消を。心から二人を祝福するわ。

「わたくしは側室で満足ですわ」

「私だって王妃は嫌よ。こうなったら、王妃の座をかけて勝負しましょう!」

「受けて立ちますわ! そこの茶色い髪の方、審判をしてくださる?」

「僕ですか!??」


 ミラナ様は見物人の中から、一人の男性を指名した。

 確か隣国からの留学生で、男爵令息だったはず。トード・バクラムとか、そんな名前だったかな。他国の人間に公正な判断をしてもらうおつもりかしら。勝負は私が言い出したんだし、仕込みではない……わよね?

 私は絶対に、ここで負けなければならないのよ!

 審判の男性は私たちの脇まで進んでくると、困ったような笑顔を見せた。

「ええと……指名されましたので、僕が審判を務めさせていただきます」

「お願いしますわね。開始の合図をしてくださる?」

 ミラナ様が閉じた扇でトード・バクラム男爵令息をさす。彼はしっかりと頷いた。


「はい。では……始め!」


「よおおし!」

 号令とともに私は目の前でパンっと手を叩き、盛大に地面に寝転んだ。音を出したから、攻撃されて倒れたように見えるわよね。何が起きたんだ、とギャラリーがざわついている。

「うわーなんてお強いの! 私の負けだわ!」

「油断しまたわ~、降参です!」

 二人同時の敗北宣言だ。これは……。

 私は顔だけを起こした。立っているのは男爵令息。向かい側には同じようにする、ミラナ様のお姿が。


「……なんだ? どうして二人とも同時に倒れているんだ?」

 殿下は状況が掴めず、不思議そうにしている。

 ギャラリーも首を捻って、憶測を語り合っていた。公爵令嬢と侯爵令嬢が地面に寝転んでたら、おかしいどころじゃないわ。

「……ええと……引き分けですね」

「っくうう、悔しい!」

 同じことを企んでいたなんて! もしかして、彼女も王妃になりたくないんじゃ。だから婚約解消と言わせないようにしていたのね。


 負けるだけなら楽だろうと考えていたのに、とんだ展開になったわ。だからといって、間違っても勝ちたくない。全力で敗北するわよ!!!

「次はどんな勝負にしますか?」

 トード・バクラム男爵令息が、私に向かって質問してきた。平和で勝敗がハッキリしたものがいいわね。

「……そうですわね、お互いにクイズを出したらいかがかしら」

「賛成ですわ」

 私の提案がすんなり通り、勝負項目は殿下クイズに決まった。わざと間違えればいいのだ、楽勝よ。いや、だから勝っちゃダメなんだってば。


 最初の出題は、私から。

「第一問! 先だって、殿下はタイランゾーソス同盟の使者の方と面談をし、とても呆れられました。その時の発言はなんでしたでしょう?」

「加盟についての話し合いの際、我が国が議長国になれると勝手に思い込んだからですわ。恥ずかしいですわね。陛下が同盟への加入を検討されていたのに、微妙な空気になっていましたわよ」

「正解~!」

 貴族の間で噂になった、殿下の最近のやらかしのひとつ。同盟への加入はいったん流れたわ。他にも調子に乗ってバカな条件を口にしていたしね。ギャラリーが拍手する。

 正解したのに、ミラナ様はしまったという表情をしている。優秀な方だもの、つい正解を喋ってしまったのだわ。我が計略、成れり!


「……では、わたくしが出題する番ですわね。先週のパーティーに、わたくしは殿下から頂いた衣装一式で参加しましたわ。その時のわたくしの気持ちを述べよ」

 先週のパーティーは確か、ミラナ様はいつになく可愛い系のドレスを着用されていたわ。シンプルで素材のいいものを好む彼女が、ふんわりボリュームがあってリボンがやたら多い、可愛いを通り越してサヨウナラしたフリフリドレスで驚いた記憶があるわね。

 ……あれ、殿下からの贈りものだったんだ~、へ、へえ~……。

 私だったら、きっとこう思うわ。

「……ダサ。恥ずかしさで人は死ねる」

「大正解!!!!!」

 ミラナ様が私をビシッと人差し指でさした。よくぞ指摘してくれたと言わんばかりに。

 当たってしまったわ! 間違えなければいけないのに……! 絶妙に答えたくなる質問をしてくる。やるわね、さすが我がライバル。

 ギャラリーの拍手は先ほどよりも盛大だ。


「おい、クイズと言いながら俺をバカにしてないか!?? もっとマトモな勝負をしろ!」

 マトモじゃないヤツがほざいてるわ。こっちは相手が答えらえる、簡単なクイズを考えて正解させなきゃいけないのよ。

「えーと、次をどうぞ」

 司会者は殿下の不満を無視して、続きを促す。

 私も急いで次のクイズを考えた。

「第二問。カルサルサエル公国の使者に殿下が言い放ち、問題になった発言とは?」

「“文句を言うなら関税120%”ですわね。鉄鉱石が入らなくなったら、困るのは我が国ですのに……」

「正解でーす!」

 カルサルサエル公国は国土を山地が占めていて、鉱物が豊富なのだ。だから我が国より国土が狭く人口が少ないのに、裕福なの。

 一時期流行語にもなった発言よ。とても不名誉ね!

 正解したミラナ様が、とても悔しそうにしている。


「ではこちらも第二問! 先日の伯爵家主催のパーティーで、ご令嬢に殿下がかけた信じられない言葉と?」

「“悪いが俺には愛する人がいる、君は恋愛対象にならない”ですわ。ホストファミリーとして殿下に気を遣って話しかけていただけなのに、自意識過剰もここまでくれば公害です」

 アレはこっちが恥ずかしかったな~。ミラナ様とのイチャイチャで楽しみすぎて、脳が溶けてきてるんじゃないから。

「さすが正解ですわ!」

 ミラナ様の拍手で、ハッとした。

 うううっ、そうだった。またもや正解してしまった……! わざと間違えるって、意外と難しいのね。勝負がつかないわ。トード・バクラム男爵令息が、ゴホンと咳払いをする。


「今度は僕が出題しますね。問題です! ロジオン・フロロヴァ殿下の誕生日はいつでしょう?」

 知ってるけど言いたくないヤツ! 口元が笑ってしまう。これなら頼まれても正解したりしないわ!

「ん~、いつだったかしらー! 分かるよーな分からないような、やっぱり忘れてしまいたいような!」

「わたくしも記憶にございませんわ……! ああ、緊張のあまり思い出せませんの! 人の記憶のなんとはかないことかしら!」

 二人とも答えられない。引き分けだ。

 なんてこった、ずっと同点よ。


「おい、なんで二人とも俺の誕生日を答えられない!??」

 殿下が苛立って地面をかかとでトントンと蹴っている。苛立ちたいのはこっちだわ。正確には答えたくない、です。

 周囲からはクスクスと笑い声が聞こえてくる。

「お二人とも、王妃になりたくないんでしょうか?」

 トード・バクラム男爵令息が苦笑いを浮かべる。それなのよね。

「なりたくなんてありません。だいたい殿下は発言が軽くて、その後始末を私がしているんですよ。しかも苦言を呈すれば、うるさい、しつこい、生意気だと……。他国に関しても勉強不足で、軋轢あつれきを生むのは必至です。もう限界です!」

「わたくしも側室ならばと考えていましたが、王妃はゴメンですわね。どれだけ大変か、ナターリヤ・チュルキン公爵令嬢が東奔西走するお姿で、理解しております。協力ならば致しますが、わたくしが責任を負うのは絶対に嫌です」


 くっ……。ミラナ様は手堅く側室なるおつもりだったのね。確かにそれなら、ギリギリギリギリ許せるのかも知れないわ。私はもう生理的に無理ですが。

 彼女が王妃の座を望んでくれれば、晴れて私は解放されて自由の身になれるのに……!

「なんで二人とも俺の妃になりたくないんだ!??」

 まだ納得できないのかしら。周囲の学生は、ちょっとないよなと囁き合っている。人望もない。


「それはともかく、お二人は殿下と結婚されない場合はどうしたいんですか?」

 トード・バクラム様が尋ねた。率直に答えてしまってもいいわね、採点対象の問題じゃないし。

「私はこれまでの経験を活かして、仕事をしたいわ」

「まあ、そうでしたの? わたくしはその場合、隣国の皇太子、トールヴァルド・ヴィークストレーム皇子殿下の第四側室の座を狙っていますの」

 ミラナ様の希望は、とても意外だった。側室になりたい方なのかしら。とはいえ同じ側室なら、こんな小国よりも大国の第四側室の方が予算も権限も大きそうだわ。

 隣国であるリンベルク帝国は、確か皇帝は第五側室まで迎えられたはず。

 そして側室は他国の有力な家門の娘などから選び、国同士の結び付きを深めるとか。いい手だわね。


「それ、私も便乗できないかしら……」

 思わず口を突いてしまった。他国に逃げれば、もう殿下をなんとかしてくれと泣きつかれないで済むわ。

「えーと……、殿下はこの国から側室を迎えるとは限りませんが……」

 なんだか申し訳なさそうにする、トード・バクラム様。そうそう、彼の出身国なのよね。男爵家の出でなければ、橋渡しをしてもらえたかも知れないのに!

「あら、リンベルク帝国の王族は下位貴族や商人にふんして、他国で婚約者を探す風習があるのでしょう。この国にいらしているんですもの、可能性はありますわ」

 堂々とミラナ様が言い切った。

 ミラナ様のお父様は諜報部門を取り仕切っている方だったわ。有力な情報を掴んでいるのね! トード・バクラム様がぎくりと肩をふるわせる。


「トールヴァルド・ヴィークストレーム殿下の妹姫様は、カルサルサエル公国で公爵令息や騎士団長のご子息、果ては第三王子にチヤホヤされて喜んでおりますわよ。全員、婚約者のいらっしゃる殿方ですのに……。外交問題になる前に動いた方がよろしくてよ。姫様は宮廷楽団の奏者の娘という設定でしょう、引っかかる方も引っかかる方ですわね」

「何やってんだよ……、ていうか全部バレてるんですか!?? ……じゃあ、僕のことも……?」

 恐る恐るミラナ様に尋ねるトード・バクラム様。ミラナ様は当然ばかりに、余裕の笑みを浮かべた。


「もちろん存じておりますわ、トールヴァルド・ヴィークストレーム皇太子殿下」


 えええええ!!!???

 まさかの男爵令息トード・バクラム様の正体が、皇太子殿下なの!?

 あまりの事実に、周囲にもどよめきが走った。気づいていたのはミラナ様だけみたいね。

 言われてみれば名前が似てる……、最初と最後の文字を組み合わせたのか。バクラム男爵家は確かに実在するが、子供がいないので跡継ぎを養子に迎えたという噂だった。なので、噂の後継者候補だと勘違いしていたわ。

 ちなみにリンベルク帝国の皇族は、成人するまで他国に顔を晒さない。ずっと昔、他国に遊学中に暗殺された姫がいて、それから素顔を明かさないようになったとか。


「はー、これで僕の留学も終わりだよ。正体が知られたら国に帰るしきたりなんだ。小国だとあなどったな」

 トールヴァルド殿下は髪を乱暴に掴むと、バッと引っ張った。カツラだったんだ。

 カツラの下からは帝国の皇族に多い、黒い髪が現れる。襟足までの短い髪に、深い青い瞳は印象的だ。

「殿下、ぜひわたくしを本国へお連れくださいませ」

 早速ミラナ様がアプローチをしているわ。今度は負けていられない!

「いえ、両国の絆と深めるとおっしゃるのなら、私が適任です。残念ですが、ほんとーに残念ですが、ロジオン殿下はお任せします。お似合いですよミラナ様!」

「何をおっしゃいますの、ロジオン殿下の妃は、やっぱりナターリヤ様しかおりませんわ! リンベルク帝国との絆は、わたくしが繋ぎますわ」


 またもや平行線に。ロジオン殿下の押し付け合いになってしまった。

 だんだん増える見物人の中にも便乗したい様子の女性もいるが、公爵家と侯爵家で争っているので、実際に参加する猛者もさはいない。

「……考えておくよ。じゃ!」

 ササッとトールヴァルド殿下が早足で駆けていった。集まっていた生徒の中から二人ほど、後を追いかける。同じく留学生として入学してきた、リンベルク帝国の貴族子息だわ。実は護衛や従者だったのね。


「ミラナ様、行かれてしまいましたね。どうします?」

 逃げたな。このまま学園を辞めてしまいそうな勢いだわ。

「ほほほ、この程度で諦めるわたくしではありません。落とせそうな雰囲気でしたわ、わたくし隣国へ参りますわ。皆様ごきげんよう!」

 つ、強い……! 決断が早いわ。さすがロジオン殿下をサクッとその気にさせた腕前。ロジオン殿下ならミラナ様にかかれば、きっと赤子の手をひねるようだったわね。

「え、俺は……?」

 愛する人に逃げられたロジオン殿下が、ポカンとしたまま見守っている。

 そしてゆっくりこちらを振り向いた。

「……婚約を解消したいというお話でしたよね、承りました。傷心のあまり学園を退学し、他国へ留学したいと思います! いざっ!」

 こうなったら急がないと。私はさっさと荷物をまとめて学園を後にし、家族に置き手紙を残して早々に隣国へ渡った。

 話せば止められるだろうから、行動あるのみ!


 そして公爵令嬢としてリンベルク帝国皇帝陛下に謁見を申し込み、トールヴァルト殿下との縁を繋げるよう画策かくさくした。

 皇帝陛下とはロジオン殿下と一緒に招かれたパーティーの会場で、多少の面識はある。幸いにも私に悪い印象は抱いておらず、とても歓迎された。

 謁見の際に、王妃殿下のお茶会に誘っていただけたわ。どうやらミラナ様のおっしゃっていた通り、我が国から側室を迎える予定があったみたい。私を試そうとしていらっしゃるのね、願ったり叶ったりだわ。


 ミラナ・プロトキン侯爵令嬢は、リンベルク帝国で喫茶店を開店し、オーナーとして滞在した。もちろん従業員に諜報員が紛れているでしょうね。

 トールヴァルト殿下の動向を逐一ちくいち把握していて、町に出ればすれ違い、視察に行けば偶然会い……という具合に、物理的に距離を縮めていた。

 トールヴァルド殿下はむしろ恐れを感じているようだったわ。

「わかった……、もう側室にするから朝食のメニューを毎日囁くのはやめてくれ! 料理人を変えても、外食でも他国でも把握してるなんて異常すぎる! 誰も信じられなくなりそうだ……!!!」


 殿下が根負けして、そう叫んだらしい。ミラナ様が「君だけが信じられる」と求婚されたと、とても都合の良い噂にして流していたわ。情報操作もお手のものね。

 さすが我が生涯のライバル! 私も燃えるわ。さあ、皇帝陛下をまずは落とすわよ!

 迎えた王妃様のお茶会当日、その席で涙ながらにこの国へ来た理由を語った。


「ロジオン殿下が心変わりして婚約を破棄され、傷心のあまり学園を退学しました。婚約破棄の際にはトールヴァルド殿下に励ましていただき、とても感謝しております。行き先は心優しい殿下のいらっしゃる、リンベルグ帝国しかないと心に決めておりました」

「まあ、辛かったわね……。あの子も気の利いたことができるのね。よろしかったら、この国でも交流を持ってちょうだい。事情を知っている相手の方が、相談しやすいこともあるでしょう」

「お心遣い、感謝申し上げます」

 うっし、信じてる。チョロいわ。

 そして王妃様主導でトールヴァルト殿下と二人のお茶会、実質お見合いがセッティングされ、皇帝陛下にも私と殿下がお似合いだと勝手に薦めてもらえた。王妃様は涙もろく同情しやすい方なのよね、計画通りよ。


 トールヴァルト殿下とのお茶会では、殿下がミラナ様が怖いと零していた。

 しかし周囲の人間はミラナ様を穏やかで優しい人だと認識しているから、誰も共感してくれない。情報を元にこっそり精神的に追い詰めているだけなので、証拠もないし他の方には分からないのよね。

 私は同調しつつもミラナ様を否定しないで、敵に回られないよう細心の注意を払って会話をしたわ。敵になったら排除される。

 同じ国が出身だもの、上手くお付き合いしていきたい。


 そしてトールヴァルト殿下の即位と同時に私が第四側室に、ミラナ様が第五側室に収まった。ひっそりと後宮を二人の手中に収め、正妃よりも強固な権力を手に入れたのは、それから何年もしないうちだった。


 故国の元婚約者、ロジオン・フロロヴァ殿下は、その後ミラナ様への失恋のショックからなかなか立ち直れず、新たな婚約者もなかなか決まらなかった。最終的に男爵令嬢と結婚して王族から抜け、ワガママを繰り返しつつひっそりと暮らしているそうな。隔離とも言う。

 配偶者が王族や高位貴族のしきたりにうとく、国際状況に暗い男爵令嬢では、ロジオン殿下に王位を継がせられないと、さすがに陛下も王妃様も諦めたそうな。

 ルマラントヤラル・センサールモーソン王国は、公爵家へ降嫁されていた陛下の妹姫の配偶者が、王太子として正式に決定した。

読んでくださってありがとうございます。

GWにアップしたいと思い、書き上げました。

もうじっくり書きたかったんですが、次の作品にかかりたいのでこれにて失礼!

楽しんで頂けたら幸いです。


恋愛にしたかったのに、これは…狩りですね!

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元聖女です。お店を始めたら、常連客が魔性の者ばかりなんですが!?

連載中の作品です。恋愛はなし。人外もりもりの、強欲聖女なコメディ。こちらもよろしく!
― 新着の感想 ―
王太子の扱いが酷すぎて声出して笑いましたww
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