【閲覧注意】不器用な王の愛
その男は突然現れて、自分と結婚するよう私に命じた。
男は大国の若き王で、私は辺境の小さな国の王女だった。
もし男の国に攻め入られたら一瞬で滅びてしまうくらいの小国の王女に、断る道は無かった。
翌月結婚するはずだった婚約者とは別れさせられた。
彼とは幼い頃からの知り合いで、穏やかな家庭が築けたと思う。
男はあっという間に、私を自分のものにした。
結婚の儀で初めて男の姿を見たとき、背の高い美しい女性のようだと思ったが、その夜、私を掴むその手は力強く、逃れようが無かった。
私は覚えていないが、男は過去にどこかで私のことを見初めたのだという。
どうでもいいことなのでよく聞いていない。
それから男は毎晩のように部屋にやって来ては、飽きずに私を求めた。
男の国と私の国では使う言葉が違っていて、私は男の国の言葉は話せたが、男は私の国の言葉は話せなかった。
私は祖国から唯一連れて来ることを許可された侍女とだけ話して過ごした。
やがて男は侍女を祖国に帰らせた。
私の部屋は花や宝石、ドレスなどで溢れた。
宮殿に、楽団を呼んでは演奏させ、劇団を呼んでは芝居をさせた。
男は、前の男が忘れられないのか、と言うが、別にかつての婚約者を愛していた訳では無かった。
私は話す相手を無くし、段々と自分の殻に閉じこもるようになった。
初めのうちは男の声も聞こえていたが、徐々にその声は遠くなっていった。
たまに泣きそうな男の顔がよぎるけど、すぐにモヤがかかったようにおぼろになった。
私を呼ぶ声が聞こえても、すぐにただの音になった。
ふと祖国の言葉で「ゆるしてくれ」と絞り出すような声が聞こえた。
侍女と離れてからは久しく聞いていない、懐かしい言葉の響き。
驚いて声の主を見ると、誰かが懇願するように私を見ている。
「だあれ?」
あの男が目を見開いてこちらを見ている。
「わたしのこえがきこえるのか」
音はずっと聞こえているわ。
男が拙い私の国の言葉で話しているのが可愛くて自分の口角が少し上がるのが分かる。
「ありがとう」
男の頬を静かに涙が伝った。